デジタル・ディスラプションの波に乗ろう ~ デジタル学習はじめの一歩 7
- 2023年5月17日
- 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 吉田 明弘
- IT支援
- デジタル・ディスラプション
デジタル・ディスラプション(デジタルによる破壊)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。DXが進むことにより、市場環境が一変して、昔からのやり方で事業を進めている企業が市場からの退出を余儀なくされることを指す言葉です。インターネット動画配信サービスが普及したことで、レンタルビデオ店チェーンの経営が傾いたという事例が有名です。
しかし、中小企業や小規模事業者は、大きな変化を怖がるよりも、流れに乗って利用する方が良いのではないでしょうか。今起きているデジタル・ディスラプションの流れを確認して、その流れにどのように向き合うのが良いか考えてみましょう。
ネットの普及によるディスラプション!
交通網が整備されることによって、人やモノの流れが大きく変わって、地域経済が衰退すると言われることがあります。いわゆるストロー効果です。地域という「コップ」の中にある飲み物が、整備された交通網という「ストロー」で、別の場所に吸い取られていきます。
これと似たようなことが、インターネットの普及によっても起こっています。いろいろなモノをネット通販で購入する習慣が広がったことで、小売店のビジネス環境は大きく変わりました。インターネットの世界では、距離の概念がほとんどなくなるので、お客さんと同じ地域に拠点があるからといって、無条件に選ばれるわけではありません。大手ネット通販が、仕入れや広告、オペレーション効率などの点で有利になることも多いでしょう。
印刷通販で有名な印刷会社も、A4チラシの印刷などを、全国からネットで大量に受注しています。こうした需要は新たに発生した分もあるでしょうが、かつては地域の印刷会社に依頼していたものもあったでしょう。
これからも、例えばオンライン診療のように、多くのサービスがネットで提供されるようになっていきます。そのような変化によって、店舗が近隣にある、などの、これまでは有効だった優位性が壊されていくかもしれません。
AIの普及によるディスラプション!
2022年には、画像を自動生成するAIが話題になりました。そして2023年には、汎用性の高い対話型AIの技術が検索ツールに搭載されるというニュースや、AIがGoogleのビジネスモデルを脅かすというコメントが、大きく取り上げられました。
しかし、これらのAIの登場は、「検索が便利になるのか。本当かなあ」などと他人事として見ていられるものではありません。大げさな表現かもしれませんが、クリエイターや知識労働者にとっての産業革命とでも言うようなインパクトが生じる可能性があります。
どんなにクリエイティブな活動であっても、そこには必ず、何かを参考にして真似をしたり整えたりする作業があります。例えば、「列挙した要素を表形式にまとめる」「既存の物をベースにした絵を描く」「講習会にキャッチーなタイトルをつける」というときには、これまで人類が積み上げてきた膨大な事例を参考にして、真似したり整えたりしていることが多いでしょう。
自動生成AIは、こうした真似をする作業、整える作業を自動化・省力化します。そうすると、デザイナー、プログラマー、イラストレーター、ライター、など、いろいろな分野でスキルを持つ人が、AIを効果的に使える他分野の人に追いつかれる可能性があります。ですから、多くの事業者にとって影響のある変化が起こりつつある、と言えます。
中小企業・小規模事業者こそ変化に強くありたい
こうした変化は、既存の事業環境を破壊するので、恐ろしいものだと考える人が多いかもしれません。
しかし、小回りが利かないと言われる大企業ならともかく、身軽であることがメリットであるはずの中小企業や小規模事業者にとっては、本来、変化は歓迎すべき状況なのではないでしょうか。前述のデジタルによる破壊(デジタル・ディスラプション)の例は、捉えようによってはチャンスになります。
ネットによって物理的な距離の概念がなくなれば、ネットを活用したコミュニケーションで、多くの人にモノやサービスを提供できる可能性が広がります。近隣地域だけでは数人しか興味のないニッチな分野であっても、世界では数千、数万人が興味を持っているかもしれません。大企業ならば小さすぎる需要でも、小規模事業者にとっては十分な大きさの市場になることが多く、ネットの普及は、尖ったテーマでビジネスを広げるチャンスです。
AIの普及も、中小企業や小規模事業者にとってチャンスになります。これまでは、イラストレーター、ライターなど、それぞれに専門の人材が必要だった作業を、AIを上手く扱えれば1人で効率的にこなせる可能性があります。例えば、SNSの投稿に関して文章と画像の作成作業を省力化していくことも簡単にできます。
また、AIはクラウドサービスとして利用できることが多く、大きな先行投資を必要としないので、気軽に利用することができます。
プロモーション省力化の例
例として、SNSを使ったプロモーション代行でのAI活用を想定した、簡単なデモをしてみましょう。
アイデア出しの省力化をするために、Notionというアプリ(※1)を使ってAIに依頼をしてみます。
「ヨガスタジオをSNSで宣伝するためのキャッチコピーと、適した画像の説明を10通り列挙して表にしてください。ヨガスタジオの特徴は以下のとおりです。・・・(以下、特徴を箇条書きしましたが、ここでは省略)・・・」
すると、AIによってこのような表が出力されました。
この表を元に、Canvaというアプリ(※2)を使ってSNSに投稿する画像を作ってみましょう。最初の行を元にして「ヨガをしている日本人のイラスト。笑顔の女性」と指示してみます。
すると、いくつか画像の候補が生成されました。そのうちの1つを、あらかじめ用意されているテンプレートから好ましいものを選んで、対応するキャッチコピーと一緒に当てはめてみます。
これはあくまでデモなので、プロモーションの意図や効果を考える大事なところが抜けていますが、作業としては大幅に省力化されていることが伝わったでしょうか。
こうしたアプリの活用によって、例えば、ポスティングサービスを提供している事業者が、チラシデザインやウェブマーケティングまで支援できるようになるかもしれません。
このように、デジタル・ディスラプションの流れに逆らわず、上手く乗っていくことで、これまでは手が出せなかった新しいことにチャレンジできます。
流れに逆らおうと思えば、大企業の方が長く耐えられるかもしれませんが、素早く流れに乗っていこうと思えば、小回りが利く中小企業・小規模事業者の方が有利です。
ぜひ世の中の大きな変化を怖がらずに、積極的に活用していきましょう。
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