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特集

経営者こそアジャイルを知って活かそう ~ デジタル学習はじめの一歩 5

  • 2023年3月6日
  • 中小企業アドバイザー(経営支援) 吉田明弘
  • はじめてのIT
  • アジャイル
デジタル学習はじめの一歩5のサムネイル画像

ソフトウェア開発についてご存じの方であれば、「アジャイル開発」という言葉を聞いたことがあると思います。これはソフトウェア開発手法の大きな分類のひとつです。アジャイル(Agile)という英単語は「機敏な、すばしっこい」という意味で、世の中の変化が激しく不確実性も高いと言われる昨今において、アジャイル開発は重要な手法としてDX白書などでも大きく取り上げられています。このアジャイルの概念は、ソフトウェア開発の分野に限らず、ビジネス上の様々な分野で重要性を増しています。
経営者こそ、アジャイル開発の本質と必要性を理解し、事業に取り入れていくことが求められます。

想定と実際のギャップを埋めたい

何かを作るときには、最初に設計や計画をすると思います。例えばビルを建てるときには、まず設計図を描き、必要な工程をそれぞれ、いつ誰がどのように進めるか計画してから、作業を進めるのではないでしょうか。

しかし、作るモノが大掛かりになり、設計や計画をしたときからモノが完成するまでの期間が長くなるほど、事前に想定していたことと、事後に直面する現実とのギャップが大きくなります。例えば、自動車を1万台生産するための計画を立てて、いざ作ってみたら、思ったより売れなかった、ということもあるでしょう。

そこで、製造業では「かんばん方式」「Just In Time」のような手法で、実際のニーズに機敏にかつ効率的に応える生産体制が作られてきました。こうした考え方をソフトウェア開発に応用したのが「アジャイル開発」です。

かつての大量生産方式を表した図

アジャイルとは機敏に価値を検証すること

ソフトウェアに限らず、新しい仕組みを導入するとき、もちろんその仕組みは役に立つものであってほしいですよね。しかし、せっかく導入した仕組みが、残念ながら役に立たなかったケースも多くあります。原因はいくつもありますが、ひとつ大きな原因は、実際に導入してみないと分からないことが多いからです。

これまで現場になかった新しい仕組みを導入するにあたって、正しい仕組みのあり方を事前に完璧に理解し、それを関係者に漏れなく伝えて、実現できる人など、普通はいません。導入した仕組みが、事前の想定通りに役に立つかどうかは、やってみないと誰にも分からないところがあります。

それでは、導入に成功する確率を高めることはできないでしょうか。その最も素直なアプローチは、使ってみて修正することを前提にした導入です。アジャイル開発では、作るソフトウェアの価値を早く確認するために、早く作って早く使ってみることを重視します。

そのとき、想定される全ての機能を作りきってから試すのでは遅くなってしまうので、最も早く確認すべき部分を先に作って、できるだけ早く価値の検証をします。長期に渡る開発を短い期間に区切って、少し作っては動かして、また少し作っては動かして、ということを繰り返すと、機敏な価値検証がやりやすくなります。

不確実性に向き合うために経営者が覚悟すること

さて、ここからが経営者が強く意識すべきアジャイル開発の本質です。
これまで経営の中で計画を重視してきた経営者は、目的を達成するまでの計画が立っていて、進捗がその計画に沿っていると、安心すると思います。しかし、アジャイル開発の前提になっているのは、どんな仕組みを構築すべきか、正確には分かっていないという事実であり、計画は不確実であるということを、まず受け入れる必要があります。想定が間違っているかもしれないときに、「最初の計画通りに構築できている」という進捗報告からは、何も安心を得られません。

よくQCDと表されるQuality(品質、機能、価値)、Cost(費用、労力)、Delivery(期間、納期)が、あらかじめ確定されることは、アジャイル開発を必要とする世界ではあり得ません。「どんな仕組みを構築するか、あらかじめ正確に知りたい」「全部でいくらかかるのか知りたい」「いつから投資の効果を得られるのか」こうした質問は、特に最初の投資判断の時期には、あまり意味をなさないということを肝に銘じましょう。

先行きを予測しやすかった時代の投資環境とは違う

仮に、世の中で誰もが欲しい商品が不足していて、その状態が長く継続するとしましょう。作れば必ず売れます。そして、ある生産設備を導入すると、その商品を生産できます。このようなモノ不足の事業環境においては、投資効果を見積もることが容易です。
また、ある設備を導入すると、現在かかっているコストが半分になり、その効果が長く継続するとしましょう。そのような場合も、投資の費用対効果は簡単に計算ができて、投資判断も容易です。

不確実性に向き合うときの投資判断は、このように簡単なものではありません。顧客にどのようなサービスを提供すれば受け入れられるのか、どのような仕組みを導入すればいいか、要件が明確ではないときに、あらかじめすべての費用を正確に見積もることはできません。投資効果も、そこから得られる収益も、どこまで実現できるか分かりません。そして、仕組みを構築している途中でも、世の中は容赦なく移り変わっていきます。

そうした環境下では、小さく早く作って、早く試すやり方が必要です。そして、そうしたアジャイル開発などの手法を採用するにあたっては、経営者が当初計画に拘るような考え方の場合、効果が期待できません。具体的な方法論を学ぶ前に、まずは心構えをアップデートしましょう。

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