【経営課題】バックオフィスの業務負担が大きい
菅原さん「25歳の頃に母の床屋を継いで2代目となり、日田地区商工会の多岐にわたるサポートを受けて経営の基盤を整えてきました。現在3店舗まで成長し、業務改善助成金を活用して店舗改装も行なっています。」
苅北さん「菅原社長は商工会の理事も務めておられ、理事会でお会いする機会が多くありました。その中で、『頑張る社員にしっかり還元し、働きがいのある職場をつくりたい』という強い思いをお持ちだと感じていました。」
菅原さん「人手不足が続く中で、社員にとって魅力的な職場環境をどう提供すればよいかをつねに考えています。その一環として、今年4月から週休2日制を導入し、給与体系も見直しました。技術と店販売上を分けて評価し、給与や賞与へ反映する仕組みを整えたのです。しかし一方で、勤怠管理や給与計算などのバックオフィス業務の負担が大きく、商工会の苅北さんに『何か便利なアプリはないかな?』と相談したのです。」
苅北さん「ご相談を受けた時、ちょうど日田地区商工会の経営支援会議で案内された中小機構の『IT経営サポートセンター』のことを思い出しました。この制度は、事業者だけでなく支援機関の職員も単独で相談できるのが特徴で、これまでの支援制度にはなかった新しい仕組みだと感じていました。オンラインで対応してもらえる点も、不便な立地の事業者や支援機関にとって大きなメリットです。そこで、『この制度を活用してみませんか?』とご提案しました。」
菅原さん「私はITにあまり詳しくないため、最初は少し不安もありました。しかし、相談時間が1回1時間で複数回利用でき、費用もかからない。また、苅北さんも一緒に参加してくれるということで、それなら相談してみようと決意しました。」
【IT導入】「IT化支援アドバイザー派遣」事業も活用
導入したツール: 勤怠管理システム『ジョブカン』
苅北さん「最初にIT経営サポートセンターに相談したのは昨年5月のことです。そこから計3回の相談を重ね、勤怠管理システム『ジョブカン』を導入しました。しかし、当初は期待していたような大きな変化は見られませんでした。」
菅原さん「というのも、その間に従業員の退職や独立が続き、IT推進担当者が実務(散髪)にかかりきりになっていたのです。私自身も、経営に注力したいと考えながらも実務(散髪)から完全に離れることができず、月末・月初には経営関連のタスクを持ち帰り、深夜まで作業する日々が続いていました。」
苅北さん「状況を改善するために、同じく中小機構の『IT化支援アドバイザー派遣』事業をご提案いただきました。この制度では、中小企業や小規模事業者が抱えるIT導入・活用の課題を解決するために、専門家(IT化支援アドバイザー)を派遣してくれます。」
中小機構・奈良アドバイザー(以下、奈良AD)「2025年1月に店舗へ伺い、まず課題の整理を行いました。その結果、販促活動については問題がないことが確認できた一方で、『給与計算』『労務管理』『財務』といったバックオフィス業務の大半を菅原社長お一人がExcelで手作業している状況が明らかになりました。また、導入済みの勤怠管理システムも十分に活用されていないことが課題として浮かび上がりました。」
菅原さん「7月に『ジョブカン』を初期導入し、11月からは有料版を利用していましたが、じつは従来のPOS管理も併用しており、勤怠管理の仕組みが統一されていなかったのです。その影響か、ジョブカンでは打刻漏れが多く、そもそもログインすらしていない(できていない)従業員もいました。」

奈良AD「従業員とのコミュニケーションにはLINEを活用されていたので、グループLINEを利用して『ジョブカン』の使い方を説明する動画のURLを共有し、簡単なマニュアルを整備するのが効果的だと考えました。さらに、Googleドキュメントなどのクラウドツールを活用して情報を共有することで利便性を高めるようにしました。そしてジョブカンでの打刻が習慣化してきたタイミングでPOSでの打刻を廃止し、ジョブカンに一本化するようアドバイスしました。」
苅北さん「専門家(奈良AD)によるヒアリングを通じて、勤怠管理の効率化だけでなく、人事評価制度やシフト管理の課題も浮かび上がりました。そこで、新たに『勤怠管理の効率化』『人事評価制度の整備』『シフト管理の最適化』の3つのテーマで業務改善を進めることを決め、サポートを行いました。」
奈良AD「加えて、材料費率が業界平均と比較して非常に高いことも判明しましたね。今後は半分程度に削減したいというご要望も出てきました。」

【成果】課題の優先順位を整理し、次に取るべき行動が明確に
菅原さん「当初、私は『勤怠管理をITツールで効率化できれば十分だろう』と考えていました。しかし、専門家のヒアリングを通じて本質的な経営課題を掘り下げることができ、想定以上の気づきを得ることができました。現在は、提案された複数のアプリの中から最適なものを選び、試運用を進めている段階です。」
苅北さん「今回の支援を通じて、経営指導員としてITに関する専門的な知識がなくても、業務全体の流れや関連する課題を整理することで、真の課題を引き出せることを実感しました。事業者がなぜその相談に至ったのかを深く理解することで、より適切なITツールをご提案することができます。」
菅原さん「今回の取り組みを通じて、『努力をしっかり評価し、従業員のモチベーションを高めることで、長く働いてもらえる環境をつくる』という経営方針がより明確になりました。また、相談を重ねる中で、勤怠管理・人事管理・シフト管理の課題を整理し、優先順位を明確化できたので、次に取るべき行動が具体的に見えてきました。」
苅北さん「これまで漠然としていた課題が可視化されたことで、今後の方向性が明確になったのですね。」
菅原さん「そうですね。私はやりたいことやビジョンは持っていますが、それを整理して形にするのが苦手でした。しかし、専門家に相談を重ねながら、商工会の苅北さんが議事録を作成し、次に取り組むべきことを明確にしてくれたおかげで、確実に前へ進めていると感じています。」
苅北さん「お役に立てて嬉しいです。これからも事業者の皆様にとって有益な制度を積極的に活用しながら、引き続きサポートしてまいります。」

Link・hita合同会社
HP:https://link-hita.jp
代表:菅原 楠生