吉川裕美さん(以下裕美さん)
「昔ながらの町並みが残る吹屋の町で、主人の実家である古民家を改装してスープカレーの店「つくし」を営んでいます。2017年のオープン後、TV番組『人生の楽園』や雑誌などメディアで取り上げられたことにも後押しされて多くの皆様にご愛顧いただき、おかげさまで現在は1日40食分から、多いときで100食分ものスープカレーを提供しています。主人と2人で開業して1年後には岡山市内のスペイン料理店で働いていた三男が後継者として経営に参加し、2022年、息子夫婦の結婚を機に、経営の効率化と次世代への引き継ぎを考えるようになりました」
【課題】手書き帳簿による売上集計で、手間と時間がかかっていた
裕美さん「もともと夫婦2人でスタートし、1日10名程度のお客様を想定したお店で、丁寧な接客を心がけながらスープカレーを提供してきました。売上の集計には紙の手書き伝票を使用していて、日々の集計作業は伝票を一枚一枚チェックしながら売上を集計して手帳に書き込むというアナログな方法で行っていました。早朝の仕込みに始まり、合間を縫っての仕入れ、そして営業時間中も調理から食事の提供、接客などで大変忙しく、伝票処理は営業終了後の作業となることがほとんど。午後2時に営業を終えてから片付けや集計作業を行うのですが、多い日では100食を超えることもあり、すべてを終えるのは夕方5〜6時になることも少なくありませんでした。三男が経営に参加してからも同じ状況が続いていて、業務を効率化することは大きな課題だったのです。料理店勤務時代にITツールを活用した会計システムを経験していた息子からの強い勧めもあり、兼ねてから経営支援をお願いしていた地域の商工会に相談し、集計業務を効率化するためのITツール導入について検討することとなりました」
【導入】集計業務を効率化するAirレジと、店内状況をリモート確認できる防犯カメラを導入
裕美さん「ITツール導入にあたっては、創業時からお世話になっていた備北商工会(当時)の佐藤敏幸さんの提案で、中小機構の『IT簡易診断』を受けて専門家のコンサルティングを経て、佐藤さんはじめ(同じ備北商工会の)磯谷さんとも打ち合わせを重ねながら、私たちの店に必要なツールについて検討を行いました。これまでにも、商工会の皆さんにはさまざまな経営支援をいただいていて全面的に信頼していましたから、不安はありませんでした。今回導入したPOSレジアプリ『Airレジ』は、タブレット端末で簡単に会計ができるツールで、これまでお会計時に手書き伝票に書いていた会計処理と売上集計にかける手間と時間を大幅に軽減できることが大きな魅力でした。導入に際しても、専門家さんが研修会を開いてくださって、スムーズにできたのです。また、店内Wi-Fiと防犯カメラも導入し、より効率的に営業できる環境を整えることができました」
【効果】営業終了後の作業がほぼゼロになり、仕込み食数の予測にも活用
裕美さん「Airレジでの会計は主に三男の妻(和子さん)が担当してくれていますが、手作業で行っていたときと比べると、会計の流れがスムーズになったのはもちろん、会計と同時に売上が自動集計されるので、営業終了後、売上集計にかけていた作業はほとんど必要なくなりました。以前は皆が片付けをする横で、私が手作業で集計して夕方までかかっていたのが、今では早いときだと営業終了後30分くらいで店を閉めて出られることもあって、『こんなに早く帰ってもいいのかな』と不思議な気持ちになるほどです(笑)」
吉川壮さん(以下壮さん)「朝の仕込みは私が担当しているのですが、売上集計結果をデータで確認できるので、その日の仕込み食数をある程度予測できるようになりました。当店で提供しているスープカレーは、一人前ずつ野菜を皿に盛り分けて仕込んでおいてから素揚げし、カレーも一人前ずつ辛み調整をしてから提供するため、仕込み食数を見誤るとロスにつながってしまいます。ですから、食数を予測できることはロス削減に直結するのです。また、店内に設置した防犯カメラも効率化に一役買っています。外出先からスマートフォンを使ってリモートで店内の状況を知ることができるので、例えば仕入れに出たときに現在の客数など状況を電話で確認しなくても、どのくらい仕入れればよいか判断できる材料にもなっています」
【展望】冷凍スープの販売へのチャレンジを
裕美さん「今はまだ、売上の数字をデータ化できたという段階ですが、今後は売上集計データを分析して仕入れや経営戦略に活かしていけるといいですね。日々の業務に時間をとられて、家族間でゆっくり話し合う時間をなかなか持てずにいますが、商工会の皆さんとの打ち合わせの機会を定期的に設けていただいて、本当にありがたく感じています。将来的には息子夫婦に店を引き継ぐわけですが、できるだけよい経営状態で事業承継をしたいですね。一方で、主人は現在、『自分で“つくし新聞”をつくりたい』とPC教室に通っています。いくつになっても新しいことに挑む気持ちは忘れないようにしたいものです」
壮さん「コロナ禍で自粛を強いられながら営業していた頃、ご来店いただいた方へ向けて、スープカレーの冷凍品を製作して販売したことがあります。当時は初めての経験で効率的でない部分も多かったため現在は休止していますが、今後、最新の冷凍技術を活かして改めてチャレンジしてみたいですね」
【メッセージ】協力者との関係を築きながら、わからないことは聞くことが大事
裕美さん「私たち夫婦が惚れ込んだ名店のスープカレーの味を受け継いで、定年退職後に右も左もわからない状況から始めたこの店は、当初ここまで大きくする計画ではありませんでした。予想を超えて皆様にご愛顧いただき、三男夫婦も経営に加わったことから、将来を考えて日々の業務を効率化して経営を軌道に乗せなくてはという思いが強くなりました。私たちの場合、相談に乗ってくれた佐藤さん、磯谷さんはじめ商工会の皆さんとの間に信頼関係を築くことができたことがとても心強かったですね。わからないことを恥ずかしいと思わずに、どんどん聞いてみることが大事です。私たちのような家族経営の飲食店では、仕込みから調理、接客、片付け、仕入れなど日々の業務で精一杯になるケースも多いかと思います。自分たちだけではITツールの導入・運用はできなかったと思いますが、地域の支援者さんがサポートしてくださるなら安心ですから、ぜひ身近な公的機関に相談してITツールの導入について前向きに検討してみてはいかがでしょうか」
【スープカレーの店 つくし】
Instagram:https://www.instagram.com/soupcurrytsukushi/?hl=ja
所在地:岡山県高梁市成羽町吹屋721
従業員数:4名
設立:2017年4月
代表:吉川 裕美