ITプラットフォームへ移動
特集

DX支援?その前にまずは事業を理解しよう

  • 2023年4月20日
  • 中小企業アドバイザー(経営支援) 吉田明弘
  • IT支援
  • 事業理解

連載記事「旧版サポートブックをいま紐解く」第2回では、IT業界において大切にされている「正しいものを正しく作る」という話を書きました。システム開発の現場では、「間違ったものを正しく作る」ことがよく起きます。それはシステムを作る目的となる、ユーザーの事業や生活を正しく捉えていないからです。
事業者を支援するときも、似たようなことが起こりえます。担当者は、そもそも事業者のビジネスをどこまで理解できているでしょうか。ここでは、経営支援(本業支援)にこれから取り組もうという支援機関の担当者が、事業者の事業を理解するためのヒントを紹介します。

連載記事「旧版サポートブックをいま紐解く」第2回 ステップ1 お困りごとの見える化

DXの前に、まずは事業を理解しよう

IT支援やDX支援の強化にあたり、これまで経営支援をしてきた人が取り組み始めるのと、これまで経営支援をしてこなかった人が取り組み始めるのとでは、ベースが大きく異なります。経営支援をしてきた人であれば、その事業者の事業を理解せずには支援も提案もできないと考えて、事業を理解する何らかの手段を講じていると思います。もし事業を理解していないと、最初の課題設定を間違えてしまう可能性があり、その後の活動が成果につながらなくなってしまいます。
例えば「この事業者は、お菓子屋さんです。」などと言うときに、その「お菓子屋さん」は、地域のお菓子需要を一手に担う一般層向けのお菓子屋さんでしょうか。それとも、独自路線で刺さる人にファンになってもらうお菓子屋さんでしょうか。この2つでは、お菓子を売る相手のいる場所や販売戦略も違いますので、課題の前提も大きく異なります。
支援の基本は相手を知ることです。しかし、地域の金融機関の方から話を聞くと、金融機関の現場で働いている人が顧客企業の事業を理解できていないケースも多くあるようです。例えば、以下のインタビュー記事でも、そのような課題に触れられています。

これまでの金庫の活動では、単発の商品を売ってきたところがあり、その影響で顧客企業の事業についてよく知らない渉外担当者が増えてしまっているという課題があります。

参考)【インタビュー】地域とともに生きる~奈良中央信用金庫

そうした現状からDX支援をしていくためには、まずは事業を理解することが必要です。

聞かなくても分かることは調べてみよう

実際に支援先の事業者に会う前に、ある程度は下調べをする癖をつけましょう。これは支援機関に限らず、多くの民間企業で営業担当者が行なっていることと同じです。事業者に会える機会を最大限に活かすために、前知識を得て、自分の中に仮説を立てておきます。

みなさんも何か気になることがあったときには、すぐにウェブで検索すると思います。ここでの下調べも、やはりウェブで支援先のHPやSNSなどを探してみましょう。そもそもウェブ上に情報があるのか、ないのか。あったならば、そこに何が書かれているか。そこから、事業内容や経営課題、事業者の想い、日々の活動内容などが分かる可能性があります。

次に、同業他社のHPやSNSも調べて、支援先との違いや、その業界で成功しているパターン、よくある課題について知っておきましょう。何かを知るためには、別のものと比較して、何ではないか、を知ることが役に立ちます。業種ごとの市場環境や課題などを簡単に知るためのツールとして、J-Net21の「業種別開業ガイド」も参考になります。

一般的な話であれば、ChatGPTやBingなどのAIに聞いてみるのも良いでしょう。

これらの情報を集めた上で、支援先の事業者が、誰に何を売っているのか、重要な顧客はどんな人だろうか、という仮説を立てておきましょう。仮説を持っているかどうかで、実際に会ったときのヒアリングの深さが変わってきます。

会って話せるならこれだけは聞いておこう

それでは、事業者と実際に会って話せる機会があったら、どのようなことを聞くと良いでしょうか。あらかじめ仮説を持っていれば、確かめたいことがたくさん出てくると思います。もしヒアリングの時間を1、2時間もらえるならば、ヒアリングリストを用意して、深くいろいろと聞くことができるでしょう。しっかりと理解したい場合には、下図のようなフレームワークに沿って情報の整理をしていくことも有効です。

【インタビュー】IT支援の取り組み状況——高崎商工会議所 梅澤史明さん(前編)より販売戦略体系図

ただ、普段の活動の中でそれだけの時間は取れないことも多いと思います。もし何かのついでに少しお話ができるだけ、という場合には、前もって考えてあった仮説の中で、特に気になっていることについて優先的に確認してみてください。それ以外では、いろいろと考え方はあるでしょうが、僕ならば以下のようなことを聞きます。

  • 一番喜ばせたいお客さんはどんな人か
  • それはなぜか
  • 現状とのギャップは何か

事業者が大事にしていることや、現状との間にどれだけのギャップを認識しているのか、ということが分かると、その事業の見え方が変わってきます。あまり固くならずに、世間話などをする感覚で聞けると良いです。事業に興味を持っていることが伝わると、事業者の側からもいろいろと話してくれることが多いと思います。

ぼくのかんがえたさいきょうの○○

もし、DX支援を進めたいと考える支援者であれば、事業者に是非聞いてほしいことがあります。それは、事業者の考える「ぼくのかんがえたさいきょうの○○」です。〇〇にはその事業を表す言葉が入ります。学習塾を経営している方であれば、「ぼくのかんがえたさいきょうの学習塾」になるかもしれません。

変革を促すには、変わった後の姿をイメージしてもらうことが大切です。事業者からポジティブなビジョンを引き出すことで、DXに向かって前進するきっかけが作れると良いです。デジタルの力で事業上の様々な制約を取り払うことで、変革を実現するのがDXですから、是非、事業者と一緒に、制約を取り払った先の姿を想像できるようになりましょう。

こうしたコミュニケーションは、一度質問して、すぐに成果につながる性質のものではないと思います。ですから、特定の課題を解決するためにスポットで呼ばれる専門家よりも、長く関係を続けられる地域密着型の支援機関の方に、チャレンジしていただきたいです。事業者との関係性を構築する中で、「ぼくのかんがえたさいきょうの〇〇」を具体化していけるような、地域のDX支援を是非進めてください。

関連おすすめ