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特集

【インタビュー】地域とともに生きる~奈良中央信用金庫

  • 2023年3月7日
  • 奈良中央信用金庫 理事長 高田知彦
  • インタビュー
  • 金融機関のIT支援
サムネイル画像(奈良中央信用金庫の外観の様子)

奈良中央信用金庫の高田理事長に、地域密着型の金融機関がIT支援を含む本業支援にどのように取り組んでいるか、というお話を伺いました。

地域や金庫を取り巻く環境

当金庫のある奈良県は、世帯当たりの預金残高が比較的大きく、就学率が高く、ピアノ保有台数も上位という特徴があります。一方で県内の預貸率(※)は、40%あるかないか、というところで低いです。上場企業も中小企業も少ないため、県内の雇用が少なく、大阪で働く人のベッドタウンになっています。

産業としては、靴下の製造は全国8割のシェアがあり、他にも割烹着やトランクス、野球のグローブ、スキー靴などを作る企業があります。古くから漢方薬も産業のひとつです。また、寺社仏閣などを中心に歴史的な観光資源が多くあり、観光も大きなひとつとなっています。以前はホテルや旅館が少なく、観光客が奈良県内に宿泊しないという問題がありましたが、県の行政が熱心に誘致した結果、客室が増加しました。

多くの事業者が、コロナ禍によって大きな打撃を受けましたが、最近は収束に向かってきたことで、インバウンド需要以外は戻りつつあり、名産品なども売れるようになってきています。

※金融機関が集めた預金をどれだけ貸し出しているかを表す指標

理事長 高田知彦さんの画像
理事長:高田知彦さん

挑戦する企業を応援したい

海外で生産される安い商品との競争になる中で、付加価値を高めた商品を開発する企業も出てきています。例えば、社長が当金庫の総代さん(※)でもある、株式会社キタイでは、以前から大手スポーツブランドからも選ばれる高品質のスポーツソックスを作ってきました。しかし、そこに留まらず、2020年からは、靴下を編む技術を応用したオーダーメイドの靴も、自社ブランドで製造・販売しています。

当金庫では、そのような新たな需要、ジャンルに挑戦する企業を応援しようということで、約15年前、金庫の創業60周年に合わせて、ちゅうしん地域中小企業助成金制度「グッドサポート」を始めました。今では、毎年200社以上の応募があります。

多くの事業者から応募をいただいている反面、実際に助成できる先は一握りであり、結果として選考に残らず助成できない事業者も多くあります。しかし、せっかく何かにチャレンジされようとしている事業者ですから、何も支援できないのでは、もったいないと考え、一次審査を通過した事業者に対しては外部機関とも連携しながら、その事業計画の実現を支援していく活動も始めました。

※総代とは、信用金庫の会員が金庫経営に参加するにあたって、会員数が多く総会の開催が困難なため、その代わりに開催する総代会のメンバーのこと

顧客企業の事業について知る機会を得る

この「グッドサポート」に応募してくださるのは、担当営業店で取引のある事業者が8割くらいで、その多くは既に当金庫の融資先となっています。まったく口座のないところも2割くらいあり、金庫の新規顧客を獲得する営業手段としても活用したいと考えていますが、既存顧客が応募してくれていることも金庫の課題解決に役立っています。それは、営業店の渉外担当者が顧客企業の事業について詳しく知ることのできる機会になっているということです。

これまでの金庫の活動では、単発の商品を売ってきたところがあり、その影響で顧客企業の事業についてよく知らない渉外担当者が増えてしまっているという課題があります。グッドサポートに応募するにあたり事業者は自社の事業について書類にまとめてくれるので、渉外担当者は必然的にその事業者の事業を知ることになります。

また、株式会社ココペリが全国の金融機関に展開している経営支援プラットフォーム「Big Advance」を2021年から導入しています。初年度は、ユーザーを増やすことに力を入れて400先くらいに導入し、これまでホームページを持っていなかった顧客のホームページ作成も支援しました。その際には、顧客企業がどのようなターゲットに対して何を打ち出そうとしているのか、渉外担当者が企業の方と一緒に膝をついてホームページを作成する中で、事業の実態を理解する機会になりました。

とは言え、Big Advanceについては、2年目に入ってからどれだけのユーザーが実際に活用し続けているか「アクティブユーザー」の数を見たところ、使っていない事業者も多いということが分かりました。常々、「プロダクトアウト」から「カスタマーイン」へ、ということを言っていますが、導入することに集中してしまった面があったと思います。今度はアクティブユーザーを増やそうという方針に転換し、今は4割くらいのユーザーが継続的に活用されています。

地域の発展なくして金庫の発展なし

奈良中央信用金庫の外観の画像

当金庫のように比較的規模の小さな金融機関の存在意義は、地域とともに生きる、地域の発展に貢献する、ということに尽きると考えています。それは金庫の創業以来74年間変わらずやってきているところです。そのため、地域の事業者に対する本業支援を重要視しています。

現場の渉外担当者が本業支援に時間を割くためには、他に今やっていることを削減しなければいけません。そのため、例えば、当庫で年金を受給している顧客の誕生日に渉外担当者がプレゼントを手渡ししていた取り組みを廃止して、発送に切り替えることもしました。

本業支援の重要なひとつとして、地域の事業者のビジネスマッチングがあります。そのための顧客情報を集約するシステムとして、当金庫のITレベルの高い職員が自ら開発・メンテナンスしている「サポートステーション」というものがあります。各支店から顧客のニーズなどを登録すると、全店から情報を閲覧できるのですが、以前は、情報登録はされていても、それを閲覧して活用するケースが少ない状態でした。

しかし、ここ3年ほど本業支援に注力する体制を強化してきたことで、登録される情報が充実し、それに対して各営業店が素早く対応するようになってきました。「専門家としてこういう人が欲しい」、「売却したいものがある」、など様々なニーズ情報が500件くらい登録されている中で、130件くらいのマッチングがされており、成約率が上がっています。

ただし「サポートステーション」に登録されているのは、県内の取引先のみなので、県を跨いだより広いマッチングを提供するために、城南信用金庫とのネットワークや、Big Advanceによるマッチング、信金中金の提供するシステムなど、外部機関の仕組みも活用しながら支援を進めています。

職員の質の向上なくして金庫の発展なし

本業支援を進めていく上では、現場職員が質の高い行動をできるようにしていくことも課題です。ノルマに追われるのではなく、顧客のニーズを汲み上げて活動していけるように個人の成績表彰は行わないことにしました。いくら本業支援を進めることを掲げていても、別の数字で表彰が行われてしまっては、渉外担当者にとってはそこがゴールになってしまいます。賛否両論はありましたが、個人の成績表彰を廃止することで現場が本業支援に向かっていけるようにしました。

また、階層別、経験年数別の研修を計画的に実施することで、10年間の研修計画が見えるようにしました。これにより、職員それぞれが、自分はこの先何を学ぶことになるのか把握して、それに向かって自己啓発もできることを狙っています。本業支援においては、顧客の事業を知るための会話のやり取りも大事になるので、本業支援やリレーションシップの専門家による研修も実施する予定です。

集合研修だけでなく、現場のOJTを強化するという観点では、今年度から各支店で1on1ミーティングを実施することにしました。日々の悩み事などの共有もする中で、一人ひとりが意識している仕事の目標や、そこに向かって何をするのかなどを、1対1で確認する場を改めて設けることが大切だと考えています。
そして、行動評価の仕組みも導入しました。上司には部下が達成した数値目標やノルマではなく、部下の活動そのものにフォーカスすることを促しています。その上で、部下のやり方が適切でない場合には黙認せずに指摘してほしい、逆に、良くできていることについては褒めてほしいと伝えています。

また、こうした研修や評価制度はもちろん大切ですが、当金庫が「地域とともに生きる」を実現し続けるに当たっては、職員を採用する段階からミスマッチを減らしたいとも考えています。ずっと奈良で仕事をして、暮らしていきたい、そしてこの地域を発展させたい、そのような人が集まってくれると組織としての方向性に一致します。採用面接でもこの点を重視しています。

若い職員の能力を発揮してIT活用・IT支援を

顧客企業へのIT支援だけでなく、当金庫自身のIT活用もいまだ手探りの状態です。自分たちが使ったことがなく知らないので、顧客へも話すことができていない面があると思います。金庫としてのIT活用も大切だと思います。

例えば、SNSの活用は遅れていて、2022年にLINEの活用を始めたばかりです。ただ、LINEの利用拡大を議論した会議では、支店長と新入職員を集めたのですが、新入職員から活発に意見が出て、若い職員の可能性を感じました。

そこで、これからのことを長い時間軸で捉えたときに適材適所となるようにと、一番詳しそうな若い職員を人事異動で担当者にしました。「ここからアプリ」の「IT人材特集ページ」を見ましたが、そこで紹介されているIT導入事例のように核になるIT人材として、デジタルネイティブである若い職員が中心になって、金庫全体でIT活用が進むような流れを起こしたいと考えています。

各支店でも、若い渉外担当者はデジタルを活用した提案ができています。Big Advanceで作ったホームページのSEO対策の具体的な内容について疑問を持ち、声を上げる職員も出てきました。今後、若い職員を中心に、ITプラットフォームの各ツールをより活用しながら、顧客企業の支援をしていけるのではないかと考えています。