菅さん「私の実家はもともとこの地で焼肉店を営んでいましたが、高校生の時に閉店。いつか自分でお店を復活させたいという思いで2012年にオープンしたのが、『焼肉酒家 李苑』です。国産和牛にこだわって、秘伝のタレで焼肉を提供しています。ホテルが多いという立地柄、インバウンドのお客様も少なくはないですが、メインターゲットはビジネスパーソンを中心とした日本人のお客様でリピーターが多いのが特徴です。店内飲食を中心に、コロナ前からお弁当の販売も行っていました。DX化については、携帯端末でオーダーを受けて自動集計するPOSレジシステムを導入するなど、比較的早期から積極的に取り組んできました」
【課題】コロナ禍の飲食店に求められた非接触対応という課題
菅さん「コロナ禍という状況は飲食業界における共通の大きな課題でしたが、当店でもDX化が急速に進むきっかけとなりました。当時は営業することそのものが非難の対象となるような厳しい状況でしたので、従業員と接触することなく料理が提供される体制をつくらなければ、とQRコードによるセルフオーダーシステムを検討しました。しかし、以前から利用していたPOSレジシステムでは、セルフオーダーは有料プランだったのです。そこでインターネットなどでさまざまなサービスを調べ、『funfo』というセルフオーダー+POSレジアプリに自力でたどりつきました」
【導入】飲食店向けセルフオーダー&POSレジの無料アプリを導入!
菅さん「funfoにも有料から無料までいくつかプランがありましたが、先行き不透明な時期でコストをかけることに不安もありましたし、個店で利用できれば十分でしたので、迷わず無料プランに決めました。操作方法もシンプルで、導入も大変スムーズでした。必要な機器は、システム設定やメニュー入力を行うタブレット端末と、オーダーを集計するキッチンプリンター。コロナ禍だった当時は乗換キャンペーンでキッチンプリンターのキャッシュバックがあったため、実質無料で以前のPOSレジシステムから乗り換えることができました」
【効果】印刷コストを削減し、メニューの入れ替えもクイックに反映可能に!
菅さん「導入による効果について、まず非接触対応を実現できたこと、そして、お客様がご自身の端末から注文をするためオーダーミスは実質ゼロになり、オペレーション効率は格段に上がりました。以前3-4人で回していたところを、現在は2人で対応できています。また、以前はデザイン&印刷が必要だった紙のメニューが一切必要なくなったので、印刷コストもカットできました。さらに、メニューの入れ替えや価格改定がクイックにできるようになったことは大きなメリットでしたね。新メニューを考案したら、写真を撮って価格を決めてアップするだけですから、とても簡単です。最近では原料の高騰による影響も大きいので、極端な場合、ランチタイムとディナータイムで原価に合わせて料金を変更することもできます。紙のメニューでは価格改定のたびに貼り紙をしていましたが、そうした手間も不要になりました。また、単価の高いものを『おすすめメニュー』として注文画面でPRできることも、客単価アップに貢献しているのかなという手応えを感じています」
【展望】デリバリー対応の継続と、アジア圏のインバウンド集客に力を注ぐ
菅さん「もう一つ、コロナ禍で新たに展開したのがデリバリーです。当店では、Uber Eats、出前館、Walts、オリジナルアプリを作成できるCHOMPYなどのデリバリーサービスに登録していますが、フードデリバリーでポイントとなったのが受注のDX化。そこで、さまざまなデリバリーサービスからの注文・集計を一括管理するシステム『Orderly』を導入しました。複数のデリバリーサービスに登録していながらも、キッチンが混乱することなくオーダーを集約できるので、オペレーションは変わりません。デリバリーサービスは、登録や会費は無料で注文時に手数料がかかるというケースがほとんどですから、注文窓口は多い方がいいですよね。コロナ禍に大きく売上を伸ばしたデリバリーですが、当店ではアフターコロナの現在でも成果をあげ続けており、店内飲食と並ぶ、なくてはならないサービスとなっています」
「また、今後の方向性としては、食文化が日本と似ているアジア圏のインバウンド集客に力を入れていきたいという思いがあります。焼肉を食べながらお酒を飲むという文化はアジア圏独特のもので、欧米のお客様にはない習慣です。現在は中国からの集客が望めない状況ですが、今後どう取り組んでいくかということが課題ですね」
【メッセージ】まずは、ITツール導入店で客として体験をしてみることが大事
菅さん「飲食店経営者にとって、店舗運営のDX化というのは一歩を踏み出すまでが腰の重いテーマだと思います。コストや導入の煩雑さ、スタッフのオペレーションなど取り組むことが多くて大変ではありますが、それらをやりきることで、本来やるべきことに手をかける時間が生み出せる、というのが大きなメリットです。どこから手をつけていいかわからないときは、まずはDX化が進んでいる飲食店を、客として体験してみることが大事。大手チェーン店に行くと、入店から会計まで従業員と会わない店もありますよね。すべて機械が対応してくれて、究極にストレスがない。それはどうかと思う側面もありますが、どこからなら自分たちがスタートできるのか、DX化を考えるきっかけになると思います。自社の規模感やコスト面の兼ね合いをしっかり考えて、本当に自分たちに必要なITツールが何なのかを見極めながら、できることから始めてみてはいかがでしょうか」