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特集

小規模事業者にとってのDX~後編

  • 2021年2月3日
  • 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 吉田明弘
  • DX
  • AI
画像:DX

DXに小規模事業者がどう向き合うことができるのか、全3回に分けてお伝えしているDX特集です。最終回では、AIによって実現する未来予測について紹介します。
未来予測など可能なのか、と思われる方もいらっしゃると思いますが、いわゆるAIの性能向上により、分野によっては予測が可能になりました。また、AIを活用するハードルも、以前と比べると低くなってきており、中小企業でも活用事例が出てきています。

AIにできる未来予測

AIにも得意なこと、苦手なことがありますが、現在のAIは、大量のデータからいくつかの特徴やパターンを見出して、別のデータがどのパターンに近いかを判別することが得意です。そのため例えば、猫と犬の写真を大量に読み込ませると、猫っぽいものと犬っぽいものを見極めることができるようになります。みなさんが普段使われているスマートフォンなどで写真を管理しているアプリは、大量の写真の中から特定の人が写っている写真を抜き出して並べる機能を持っています。これも、特徴やパターンを見出して分類するというAIの得意技です。

画像:特徴やパターンを見出して分類

このようなAIの能力は、ある程度の未来予測を可能にします。分かりやすい例で言えば、競馬で勝つ馬を予測できます。簡単に説明すると、過去のレース結果から、ある条件のレースに出走した馬が勝った場合と負けた場合でどのような特徴やパターンがあるのかを見出して、そこから未来の同条件のレースを予測するというものです。ネット上で検索するといくつかの競馬予想AIが出てきますが、ものによっては回収率100%近くになるAIもあるようです。回収率とは賭けたお金がどれだけ戻ってくるかを表す数値ですが、JRA(日本中央競馬会)では馬券売上からおよそ25%を差し引いた残りを当たった人に配当しているので、平均すれば回収率はおよそ75%になるはずです。それを上回っているということは、AIの予測が、ある程度は確かであるということでしょう。
とはいえ、競馬予想ができても、事業の役には立たないことが多いかと思います。では、AIを使った未来予測には、小規模事業者にとってどのような意味があって、それはそもそもDXと言えることなのかどうか、ということも考えてみましょう。

未来予測の意味

まず、未来予測にどのような意味があるか、ということですが、予測ができるとしたら、みなさんは何をしたいでしょうか。何かが起きることが分かっているならば、その未来に向かって「準備」しておこうと思うのではないでしょうか。
例えば、明日お店に来るお客さんの数や、特定の商品がいくつ売れるかが、事前に分かったならばどうでしょうか。仕入れまで考えると前日に分かったところで遅いかもしれませんが、飲食店であれば、調理の仕込みを何食分にするかなどは、事前に分かるとロスや機会損失を減らせるかもしれません。2週間前や1か月前にお店の混雑状況が分かっていれば、仕入れや従業員のシフトなども変更できそうです。

画像:AIによる来客数予測

こうした予測は、これまでも多くの企業で経験豊富な人材によって行われてきました。しかし、特定の人に依存すると、その人の不在時に予測不可能になりますし、そもそもの予測精度が検証されておらず、バラつきが多いこともあったかと思います。AIだからといって100%の予測が可能なわけではありませんが、検証可能な安定した予測を事業に活かすことが可能になります。

参考事例:中小企業NEWS特集記事 「ゑびや(伊勢市)」データ活用で業務効率化、自社の成功モデル提供 (J-Net21)

未来予測はDXなのか

ところで、この連載記事では、DXはデジタル化を伴った事業変革である、とお伝えしてきました。その観点で考えたときに、AIを活用した未来予測はDXと言えるのか、という疑問も生じ得ると思います。効率化やコスト削減といった効果を狙うだけではDXとは言えないというのは、前回までに述べたとおりです。もちろん、DXであろうとなかろうと、事業上の価値のある施策はぜひ取り入れていただきたいのですが、ここでは、未来予測とDXとの関係について少し考えてみます。
予測の精度が低い場合、例えば、飲食店のスタッフを配置するときに来店客数が上手く予測できないと、顧客体験の質を下げるか、コストを増やすかの究極の選択をする必要が出てきます。どういうことかと言うと、来店客に対する接客を十分にするためには、想定できる最大のお客さんを想定してスタッフの数を増やさなければならず、スタッフの数が多すぎる状態になります。これはコストを増やすということです。逆にコストを増やしたくないと考えるならば、お客さんの数を少なく見積もってスタッフを配置することになります。その状態で実際にたくさんの来店客があった場合には、お客さんを長く待たせるなどして顧客体験の質は下がります。
配置するスタッフの数だけではなく、十分な食数の仕込みを事前に済ませておくことや、営業時間の終盤に焼き立てパンを提供することなども、同じように顧客体験とコストのジレンマを引き起こします。このように顧客体験を向上するための施策で大きなロスが生じる可能性があると、改善案が出てきても、その施策を実現できないケースも出てくるでしょう。
これが、予測の精度が高くなると、適切な量の準備ができるようになるため、顧客体験とコストを両立できるようになります。このように高い精度の予測ができる仕組みは、これまでロスが大きくて取り入れることのできなかったサービスを、最適な量で提供していくための基盤となります。従業員が疲弊せずに顧客に向き合えるようにもなるため、従業員の創造力を引き出す前提としての「ゆとり」にもつながります。
またそれは、第1回で示したデジタル化で顧客体験を向上していくサイクル(下に図を再掲)の中で、より効果的に様々な工夫ができるということでもあります。このような意味合いから、未来予測はDXの土台を強化するものと捉えることができるでしょう。

画像:デジタル化による価値創出の構造

まとめ

AIを活用した未来予測というものが、小規模事業者にとってそれほど縁遠いものではないと感じていただけたでしょうか。予測ができることは、DXの取り組みの中でも、取れる施策の幅を広げる仕組みとして大きな意味を持ちます。小規模事業者にとっては、先進的な取り組みではありますが、AIの活用も選択肢の中に入れて事業変革に取り組んでいただければと思います。
また、様々なデジタル化、そしてデジタル化を伴う事業変革に積極的に取り組み、新たな顧客体験を生み出し続けていただきたいと思います。

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