特集

小規模事業者にとってのDX~前編

  • 2021年1月20日
  • 中小機構 中小企業支援アドバイザー 吉田明弘
  • DX
  • 事業変革
画像:DX

昨今よく使われるようになった言葉として「DX」があります。これはDigital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)の略で、デジタル化によって形や性質が変わることを表しています。つまり、ビジネスの文脈で語られるDXというのは、事業構造の変革です。
このDXに小規模事業者がどう向き合うことができるのか、全3回に分けてお伝えしていきます。第1回はDXの概念についてです。

攻めのIT活用

少し前まで「IT化」と言われていたところに、「デジタル化」という言葉が多く使われるようになってきました。日本では、IT化という言葉は、生産性向上、特に効率化や省力化の文脈でよく使われてきました。この文脈におけるIT化は、事業構造そのものを変えるのではなく、あくまでオペレーションの改善にとどまることが多く、いわゆる「守りのIT活用」が主体でした。しかしデジタル化と言われるときには、「攻めのIT活用」(新たなサービスやビジネスモデルによる価値創出や競争力向上)が意識されるようになってきています。

画像:攻めのIT活用

経済産業省が、2015年から選定してきた「攻めのIT経営銘柄」の名称を、2020年から「DX銘柄」に改めているように、この「攻めのIT活用」とDXとは、企業価値を高める方向性として近しいと言えるでしょう。人口減少などにより、多くの既存事業に行き詰まりが見えてきている中、デジタル化を含めたあらゆる方向からの事業(企業)変革が求められています。

DX銘柄/攻めのIT経営銘柄

※DXは英語圏で使われていた言葉を輸入してきたものですが、日本人からすれば、なぜDTでなくDXなのか、という疑問が生じます。理由としては、英語の接頭語としての「trans-」や「cross-」に、越える、交差する、という意味があり、そこから省略時に「X」を使う習慣があるということです。
例)XFER = transfer(昔PC-9800のキーボードについていた変換キーの表記)
例)Surfer X-ing = Surfer Crossing(サーファー横断注意)

逃れられない変化

ITそしてインターネットというものは、さまざまなモノゴトを「誰でもどこでも容易に使えるもの」にしていきます。大規模小売店が周辺の生活環境に及ぼす影響が大きすぎる、などと言っていた時代から、インターネットを通じてグローバル小売店があらゆる生活環境に影響を及ぼす時代になりました。その変化の流れの中では、大企業と小規模事業者の違いも、大都市と地方の違いも、以前ほど大きな意味を持たなくなってきます。
創業したばかりの若い方などは、最初からITを活用されていることも多いですが、昔から事業をされている方々の中には、ITが苦手、分からない、という方もいらっしゃるかと思います。しかし、これからも長く続ける事業なのであれば、環境変化に対応しないわけにはいかないでしょう。
お客様も新たな顧客体験が世の中に生まれたことに気づいていますから、事業者側も変わっていかなければ、高い価値を提供し続けられません。お客様が、高い水準の顧客体験を求めて別のサービスに乗り換えてしまうこともあるでしょう。しかし、既存事業に依存するお客様が、変化できない事業者とともに、古い顧客体験の中に取り残されてしまうケースも、大変残念な状況と言えます。事業者の方々が、お客様をリードして新しい顧客体験を創出していけるように、DXについても、そのイメージをつかみ検討していただきたいです。

デジタル化による事業構造の変革とは

とはいえ、デジタル化による事業構造の変革と言われても、何をどうすれば良いのか全く分からないという方も多いと思います。DXは、何をすれば正解かという決まり事やノウハウといったものではなく、概念や考え方といったものであり、事業によっていろいろな変革があり得ます。
ただし、DXの成功事例の多くには、ある共通した構造があります。その構造を以下の図に表します。

画像:デジタル化による価値創出の構造

重要なのは、ループ(繰り返し)構造になっていて、それが高速回転しているということと、そのための要素としてデータがあることです。基本的な構造としては、デジタル化以前にも、アナログな施策として実施されてきたことと同様です。

1. 事業活動の中で、お客様にサービスを提供します。(価値の提供)
2. お客様の行動を観察したり、意見を収集したりします。(データの取得)
3. それらを参考にして事業活動を変化させ、より高い価値を提供します。(アップデート)

これが、デジタル化によって高速回転できるようになるのがポイントです。

以前は、事業活動をアップデートするための情報を得るには、人を配置していかなければなりませんでした。例えば、スーパーマーケットの中で、お客様がどのようなルートを通って、どの商品を手に取って、カゴに入れて、最終的にレジでお支払いするのかを知るには、人の目で観察しながら記録を取っていました。また、その記録を集計してまとめるのも人が行っていました。そのため、毎日、全ての営業時間に実施し続けることはできず、特定の時間だけをサンプルとして調査して確認していました。
しかし、今はこれらの作業をデジタル化によって自動化できます。日本国内でも、レジを無人化したコンビニなどが実際に作られていますが、誰が入店したかを認識し、店内でどの商品を手に取ったかカメラやセンサーで検知することで、店を出る瞬間に会計処理を自動で行えます。ニュースでは、世の中の人手不足という情勢を反映し、無人であることが強調されていましたが、大事なことは店内でのお客様の動きを記録できていることです。こうして蓄積されたお客様の行動データを、集計し、可視化することで、より高い価値を提供する工夫につなげていくわけです。毎日、毎時間、このようなデータが取れて、事業者が打った施策によりお客様に行動変化が生まれたかどうかも測定できるので、スピード感を持って顧客体験を向上していくことができます。
また、新たに取得するデータだけでなく、売上や仕入れ、予約や販売などに伴う既存のデータに対して、これまで人が行っていた集計などの作業も、システムによって自動化していくことで人手がいらなくなります。その分の余力は、これまでは忙しくて実現できなかった、対面サービスの向上や新たなサービスの創造につなげていくことができます。

まとめ

「DXによるCXの向上」というように、Customer Experienceという英語を略したCXという言葉が、DXと一緒によく使われています。このことからも分かるように、DXについて考える際には、顧客体験(Customer Experience)について考えることが大切です。単なる効率化や省力化ではなく、改善ループを高速回転させる中で、新たな顧客体験を創造したり、既存の顧客体験を向上させたりするのがDXとなります。次回からは、具体的にどのようなDXの取り組みがあるのかを紹介していきます。

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