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特集

2024年版情報通信白書でとりあげられたこと〜AI活用とデジタル化の進展

  • 2024年8月27日
  • 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 村上知也
  • 情報通信白書
  • デジタル化
AI活用とデジタル化の進展

2024年版の情報通信白書が発表されました。
「進化するデジタルテクノロジーとの共生」というテーマで、メタバースやロボット、自動運転がとりあげられていましたが、やはり話題の中心はAIでした。一方、デジタル化の現状として、日本は攻めのデジタル活用が不足しておりデジタル化の目的も不明確な割合が高い、とのことでした。このままではAI活用においても遅れを取りかねません。
日本のデジタル化の現状を確認するためにも、ぜひ白書を一読いただければと思います。能登半島地震からのデジタル面での復旧状況についても紹介されています。

情報通信白書と中小企業白書の違い

本記事では、情報通信白書のデータや図表を紹介していますが、以前、紹介した中小企業白書と情報通信白書はデータの母集団が異なります。中小企業白書が、中小企業に絞ったデータとなっているのに対して、情報通信白書は大企業も含められたデータです。そのため、中小企業ではこれほど利用率が高いはずはない、と感じるようなデータも登場しますが、デジタル化の現状を把握するのに適したデータも多いため、是非ご確認ください。

〈情報通信白書のデータの対象〉
各国の本籍を保有する従業員 10 名以上の企業に勤めるモニターの中から抽出

情報通信白書のデータ表

なお、本記事の図表の出典はすべて令和6年版の情報通信白書からです。

(出典)総務省 情報通信白書 令和6年版

情報通信白書2024年の全体の構成

第1部は特集、第2部は情報通信分野の様々な動向や課題について語られています。

特集の1つ目として、能登半島地震による通信インフラやサービスの被害から復旧の状況が整理されています。
特集の2つ目は、「進化するデジタルテクノロジーとの共生」という大きなテーマが描かれていました。内訳として、AI、メタバース、ロボット、モビリティ(自動運転)について紹介されています。ただ、メタバースなどはそれほど浸透してきているのだろうか、と疑問に思いながらページをめくっていくと、大半はAIに関する内容で占められていました。

生成AIの注目度は更に高まる

AIは今まで3度のブームがあったと言われてきましたが、第3次が終わらないうちに第4次AIブームが生成AIによって引き起こされており、今度こそ定着していきそうな勢いです。

人口知能・ビッグデータ技術の俯瞰図

今までも様々なサービスが登場して、目ざましい勢いで普及してきました。1億人ユーザを達成するまでに、Facebookは54ヶ月、Instagramは30ヶ月、TikTokは9ヶ月かかりました。しかし、ChatGPTはたった2ヶ月で1億ユーザを達成してしまい、勢いはとどまるところを知りません。

AIの市場規模は拡大し、働き方に影響がでる

2023年3月にOpenAIとペンシルバニア大学が発表した論文によると、80%の労働者が、彼らの持つタスクのうち少なくとも10%が大規模言語モデルの影響を受け、そのうち19%の労働者は、50%のタスクで影響を受ける、とされています。なかでも高賃金の職業、参入障壁の高い業界(データ処理系、保険、出版、ファンドなど)では、生成AIの影響が大きいと予測されています。

さらに、生成AIによって大きなビジネスチャンスが生まれると言われています。ボストンコンサルティンググループの分析によると、生成AIの市場規模について、2027年に1,200億ドル規模になると予想されています。これはノートパソコン市場と同等です。最も大きな市場は「金融・銀行・保険」で、次に「ヘルスケア」分野が期待されています

生成AIの市場規模(試算)

AIには課題も多い

とはいえ、生成AIの課題はいたるところに出てきています。機密情報の漏洩や、生成AIのハルシネーション(幻覚)により生じた嘘を信じてしまう、エコーチェンバーにより自分の見たいものしか見ない等が挙げられています。また、今後は著作権の扱いや資格との関係などでもトラブルが発生しそうです。

生成AIの課題

AIについての紹介はここまでとして、以降はデジタル化の現状について確認していきます

デジタル化の状況

諸外国と比較するといつも日本は遅れているとのデータが出てきます。デジタル化の取り組みと言うと幅が広いですが、このデータによると日本の企業は50%弱がデジタル化に取り組んでいないということになります。

デジタル化の取組状況(各国比較)

日本の企業においては、新しい働き方の実現(テレワークなど)や、業務プロセスの改善・改革(ERPによる業務フロー最適化など)のデジタル化の取組が多い一方で、新規ビジネス創出や顧客体験の創造・向上のデジタル化における取組割合は少なくなっています。

日本の企業においては、相変わらず攻めのデジタル化よりも守りのデジタル化に取組む傾向が高いと言えます。

デジタル化推進に向けて取り組んでいる事項(各国比較)

デジタル化の課題

デジタル化の課題についても各国での状況が異なります。特に日本で他国より割合が高くなっている課題を確認すると、デジタル化に関して明確な目的がなく、人手も知識も不足しているというデータになっています。

人手不足はデジタル人材に限った話ではありませんが、今まで目的が不明確なままデジタル化に取り組んできたため、社内人材の育成ができなかったようにも感じます。

デジタル化に関して現在認識している、もしくは今後想定される課題や障壁(各国比較)

専門人材が社内に居ない

デジタル化をする場合、日本ではすぐに外部に頼んでお任せとなりがちです。一方、諸外国は内製化が進んでいます。以下のグラフは、今回紹介した中で一番衝撃的ではないでしょうか。社内のデジタル人材が日本だけ圧倒的に少ないことが分かります。

しかし、日本にいるデジタル人材が少ないわけではありません。日本ではシステム会社に所属するデジタル人材は多数いますが、事業会社では人材を確保してこなかったと言えるでしょう。少なくとも、ある程度の規模を有する事業者は、デジタル人材の確保・育成を図るべきことが示唆されています。

専門的なデジタル人材の在籍状況

それでは、中小企業はどうすればいいでしょうか。10人程度の会社にデジタル人材をたくさん確保するのは現実には難しいことです。ただ、業種に応じて、必要な部分だけでも確保しておくこととしてはどうでしょう。例えば小売業なら、UI(ユーザインターフェース)に関わるデザイナーを確保するのは難しくても、運営するサイトやネットショップのバナーや記事を社内で作成することは求められるでしょう。

何でもできるスーパーデジタル人材は確保できなくても、最低限、必要な部分だけでも実施できる人材の確保が求められています。採用するのが難しければ、育てていくことも必要になるでしょう。

まとめ

本記事では、2024年版の情報通信白書を確認しました。ホットなトピックとしては、やはりAIになります。また、企業のデジタル化が遅れているという動向も確認できました。このままでは、AIの活用も他国より遅れてしまうでしょう。

では、AIをとにかく使えばいいのかと言うと、そうでもありません。

デジタル化を進める際に、目的なく進めたためにうまくいかなかったという事業者も多いのではないでしょうか。今回の情報通信白書のデータでも、デジタル化に関して明確な目的が定まっていない企業の割合が日本は高くなっています。

AIで何ができるかを考えるのではなく、「事業者の現状を整理して、何をしたいのか」といった目的を明確にすることが支援者に求められています。

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