顧客のランク別に営業方法を変えた電器屋の事例
- 2021年9月14日
- 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 眞本崇之
- データ分析

自社で保有する顧客リストに対して直接アプローチすることにより、顧客との関係性構築から来店、販売といった行動へと誘導し、売上げを獲得することができるようになります。
今回は、顧客管理ソフトで顧客情報を管理していた小売店(電器屋)の顧客リスト活用事例を取り上げ、データ分析、データ活用方法の取り組みと成果を紹介します。
F電器店は、「まちの電器屋」として、近隣地域への電気器具の販売、電気工事のほかに、細かなお困り事のご依頼を受ける御用聞きをサービスとして行っていました。
F電器店は、創業以来、長年お付き合いのあるお客様が多く、住宅リフォームなどの外注工事費を含めると累計売上が数百万〜数千万円の優良顧客がいました。しかし、F電器店のメインターゲットである高齢者層は減少傾向にあり、また、家電量販店の増加やインターネットショッピングの普及に伴い、世代問わず問い合わせが減り、売上が減少傾向にありました。
現状分析
F電器店では、長年の取引履歴(どの顧客がどの製品をいつ、いくらで、購入したか、といった購入履歴)のほか、家族構成や相談事項までを専用の顧客管理ソフトですべて記録しており、その数は、顧客数で2000軒ほどありました。
しかし、その顧客リストをまったく活かしきれておらず、売上改善施策として、顧客リストを活用した取り組みを進めることとなりました。
課題解決の取組内容
顧客リストを活用した取り組みとして、顧客リストの抽出、顧客をランク分けしたうえで、ランク別での対応内容を決めて、商品販売やサービス受注を目指す流れを進めました。
この手法は、「RFM分析」という顧客分析の手法の1つを取り入れています。
顧客分析については、別記事でも紹介をしています。
1.顧客リストの抽出とクリーニング
まず、F電器店で使っている顧客管理ソフトでは分析機能が備わっていなかったため、持っている顧客リストをExcelに落とし込みました。
リスト活用にあたり、名簿のなかから事前に顧客情報を削除する(対象から外す)リストクリーニングを行いました。F電器店では、周辺2km程度の顧客を把握しており、2000軒ある名簿では、特に引っ越しをされた、亡くなられた方が多くいましたので、顧客名簿から削除しました。
2.顧客のランク分け
クリーニングした後、顧客ごとの累計購入金額と最終購入年月を抽出し、以下のように顧客をランク分けしました。
F電器店の場合は、累計購入金額が、100万円以上の顧客をAランク(全体の5〜10%)、30万円以上100万円未満の顧客をBランク(全体の30%程度)、30万円に満たない顧客はCランクとしました。
また、最終購入月が1年以内の顧客を1ランク、1年以上3年以内の顧客を2ランク、最終購入月から3年以上経っている顧客を3ランクとし、この2軸の組み合わせにより、A1〜A3ランク、B1〜B3ランク、C1〜C3ランクとして、顧客リストに割り振りを行いました。

購入金額が高く、直近1年以内に購入してくれているA1が『最重要顧客』、購入金額がそれなりに高く、直近に購入してくれているB1も『重要顧客』です。
金額は高いが1年近く購入していないA2、B2、また、金額は低いが直近で購入してくれているC1は、『優良顧客』としています。
金額は高いが、取引が3年以上空いてしまっているA3、B3、金額は少ないが、少し疎遠になってしまっているC2は、『良顧客』とします。
金額も少なく、取引から3年以上遠ざかっているC3は、次にまた来てくれる期待が薄い『一般顧客』とランク分けしました。
3.ランクに応じた対応
上記のように顧客をランク分けすると、すべての顧客を同じ営業方法で対応すべきでないことがわかるでしょう。
そこで、F電器店では、ランク別の対応として以下の取り組みを実施しました。

『最重要顧客A1(ピンク)』『重要顧客B1(ピンク)』は絶対に離してはいけないので、F電器店では、担当者が毎月訪問し、DM(ダイレクトメール)も毎月発送するようにし、手厚く対応しました。
『優良顧客(水色)』も、A2→A1、B2→B1/A1、C1→B1/A1となるような更なる売上獲得を目指し、ある程度の手間をかけることにしました。そこで、従業員が定期訪問する対象とし、隔月訪問をしました。
『良顧客(緑)』は、極力手間をかけずに、DMで定期的にアプローチをしていく程度に留め、『一般顧客C3(灰色)』に関しては、手間もコストもかけず、何もしない、という選択を取りました。
データ活用の成果
F電器店では、在庫となっていた掃除機の特売、冷蔵庫とエアコン掃除の受注獲得に向けて、『優良顧客』以上の顧客宅への訪問を実施し、約1000通のDMを発送しました。
さらに、今回は、購入履歴のなかから、5年以上前に掃除機を購入した人、7年以上前に冷蔵庫、エアコンを購入した人、という条件に該当する顧客をピックアップし、買い替え需要を提案する訪問対象としてリストに加えました。
結果として、訪問した先で掃除機3台、冷蔵庫2台の販売、百万円規模のリフォーム工事を1件受注でき、DMからは主にエアコン掃除を20件ほど受注できたようです。
このように、顧客リストを上手に活用し顧客ごとに営業方法を変えることで、効率よく売上獲得ができました。
一方で、F電器店の優良顧客であっても、ネット通販や家電量販店で買い替えを済ませてしまった顧客や、F電器店では取り扱いのないロボット掃除機のような流行の商品が入っている顧客が目立ったとのことでした。
顧客とコンタクトがとれていなかった間の情報がすっぽりと抜け落ちてしまっていたことにも気がつき、定期訪問が当社売上の重要な営業方法であることが改めて認識できたようでした。