リスキリングでIT人材を育成しよう(後編)~IT人材育成方法のご紹介~
- 2023年3月16日
- 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 清水康裕
- IT人材
- リスキリング
前回の記事に引き続き、今回は、リスキリングによりIT人材を育成する方法を紹介します。
企業として取り入れられるものがあるか、ご参照ください。
IT人材を育成しよう
リスキリングは、個人主導で推進し、企業がそれを支援する自己啓発と、会社主導で推進するOJTに大別できます。自己啓発、OJTそれぞれによるIT人材育成方法を以下に記載します。
自己啓発
代表的な自己啓発は資格取得です。
資格には国家資格と民間資格があり、それぞれ細分化されています。IT関連の国家資格として有名なものに情報処理技術者試験があり、現在は13の資格試験で構成されています。ITを利活用するユーザとしての資格(情報セキュリティマネジメント試験、ITパスポート試験)から、情報処理技術全体を広く学ぶもの(基本技術者試験、応報情報技術者試験)、高度な専門知識を習得するもの(情報処理安全確保支援士試験、システム監査技術者試験など)まで網羅されています。それぞれの試験の内容、試験の開催時期は独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のwebサイトをご参照ください。
民間の資格は、特定のアプリケーションに依存しない資格と、特定のアプリケーションに依存する資格(ベンダー資格)があります。
特定のアプリケーションに依存しない資格は、マネジメント方法に関する資格からプログラム言語に関する資格まで幅広くあります。代表的なものにPMP、ITコーディネータ試験、日商PC検定などがあります。目的に応じて選択することで、必要な知識を体系的に学べます。
アプリケーションに依存するベンダー資格は、ベンダーが提供するアプリケーションの仕組みや環境設定等を教育するものです。代表的なものにオラクルマスター、マイクロソフト認定プロフェッショナル、SAP認定コンサルタント等があります。固有技術特化型の知識の習得であるため、資格試験の中では比較的実践向けとなります。自社に導入しているアプリケーション、あるいは導入予定のアプリケーションに関する認定資格制度があれば、受講して内製化を検討しても良いかもしれません。
その他、研修受講も自己啓発の一つです。研修は短時間で広く浅く情報を収集するものです。リスキリングの機運を高めることを目的として実践できます。受講後は、知り得た情報を自ら知識として深耕し、事業に活用するきっかけを作ることが重要です。
OJT
OJTはジョブローテーションと専門家派遣を紹介します。
ジョブローテーションは、計画的に配置転換することで、従業員に様々なスキルを身に着けさせる方法です。企業内で必要とされる様々な技術を実践しながら身に着けることができるため、従業員の多能工化に適しています。IT部門は専門性が高いため、要員が固定化しやすいのですが、若手従業員を中心として、計画的に経験させることで、業務とITを俯瞰して考えられるIT人材の育成につながります。
一方、専門家派遣は外部委託であるため、業務推進のプロフェッショナルという印象が強いかと思います。しかし、専門家をうまく活用すれば、業務を推進しながら従業員も育成できる一石二鳥の投資となる可能性があります。IT導入を専門家に委託する場合は、社内要員不足、スキル不足を補うことが目的となります。要員不足ではあるものの、敢えて社員を専門家と協業させることで、専門家の知識、振る舞い等を身近で確認することができ、委託業務の遂行とともに、OJTによる専門スキルの習得につながります。
専門家によるOJTを成功させるためには、従業員の動機づけが重要です。専門家を事業遂行の便利屋的存在ととらえるのではなく、コーチとして意識することで習得できる知識量が格段に増加します。
リスキリングに活用できる支援制度抜粋
ここではリスキリングを経済的にサポートする制度を紹介します。
資格取得
資格取得のための教育受講には、厚生労働省が認定した資格に限りますが、厚生労働省の教育訓練制度が活用できる場合があります。
厚生労働省では、人材開発支援助成金に事業展開等リスキリング支援コースを創設しています。業務のデジタル化に関する人材育成にも活用することができます。
研修
様々な研修企画会社がありますが、比較的安価に様々な教育を体系化しているのが、独立法人高齢・障害・求職者雇用支援機構です。機構名からは発想しづらいですが、企業向けの研修(職業能力開発の支援)も行っています。都道府県単位で事業を行っているため、所轄の支部によって開催できる研修が異なる場合があるので注意が必要です。
以下は、独立法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が開催する「生産性向上支援訓練」の4つの訓練分野です。4つの訓練分野の一つに「IT業務改善」が整備されており、IT人材育成に注力しているものと思われます。
リスキリングの留意事項
個人の市場価値、付加価値が高まれば、従業員はより良い職場環境を求めるでしょう。リスキリングは企業価値向上とともに、転職リスクも伴います。だからこそ、企業は、従業員のリスキリングと並行して従業員のエンゲージメントを高める努力が求められます。
エンゲージメントを高めるものは、報酬や福利厚生だけではありません。風通しの良い職場環境(コミュニケーション)、チャレンジを推奨する企業風土(目標に向かって推進していく意識の醸成)、従業員が成長を実感できる仕事(協業によるレベルアップ)等、リスキリング一辺倒ではなく、組織的に状況を変革していくことが重要です。
前編はこちらからどうぞ↓↓
リスキリングでIT人材を育成しよう(前編)~日本のリスキリング状況~