リスキリングでIT人材を育成しよう(前編)~日本のリスキリング状況~
- 2023年3月16日
- 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 清水康裕
- IT人材
- リスキリング
リスキリングという言葉をご存じでしょうか?
リスキリングとは、新たな知識の習得による付加価値の向上を表します。国際競争力の低下が著しい昨今の日本において、リスキリングは競争力を高めるための施策になるかもしれません。
リスキリングの概念
このところ、リスキリングという言葉をよく耳にするようになりました。
「リスキリング」とカタカナで表記すると何のことかわかりづらいのですが、英単語では「Reskilling」と記載します。「Reskilling」は、「Retry(リトライ:再実行)」、「Restart(リスタート:再開)」などと同様に、再実行を表す「Re」と、「skill(スキル:能力)」を組み合わせたもので、あらたな知識の習得を意味しています。
経済産業省の文献を確認すると、リスキリングは次のように定義されています。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」引用:経済産業省 第2回デジタル時代の人材政策に関する検討会 資料2-2
つまり、個人の付加価値を高めましょう、それを積み上げることで企業自体の付加価値も高めましょう、という概念です。個人の成長を促すという概念自体は、新しいものではありません。今も昔もOJT(On The Job Training:職場での経験値の積み上げ)は従業員育成の基本です。例えば、製造業やIT業界のように技術を商品やサービスに転換する業種では、従業員の多能工化(一つの技術に特化するのではなく、様々な技術を習得して、状況に応じて必要なスキルを活用する)を試みているところが多々あります。しかし、社会全体でみれば、体系的に人材育成を行っているのは一部の会社のみ、というのが現状です。そのため、リスキリングという概念が注目を集めています。
日本のリスキリング状況
以下の図は、国別に見た社外学習・自己啓発(OJT以外でのスキル習得)を行っていない人の割合を表したものです。このグラフを見ると、日本は社外学習や自己啓発を行っていない人の割合が半分程度と、突出しています。日本人は控えめな人が多く、勤勉さや努力をアピールしたがらないという傾向があることを差し引いても、他国に比べて高い数値になっています。
以下の図は、日本企業における教育訓練の実態を表したものです。この結果から、企業も従業員の自己啓発支援には消極的な状況がうかがえます。その理由は、「本業に支障をきたす」が最も多く、56%強となっており、「教育が実践的ではない」が24%強と続きます。「本業に支障をきたす」ととらえられてしまう背景には、日本企業の就労による拘束時間の長さ、その状況を招く、ゆとりのない要員配置があるのではないでしょうか。
また、「教育内容が実践的ではなく、現在の業務に生かせない」ととらえられてしまうのは、教育と実務を直結して考えてしまっている経営者が多いことを表しています。ちなみに、現在の業務と直結する教育はOJTです。就学のような、業務以外の学習は、新たな企画を生み出す力や職場を改善するための力を発揮する材料となり得ますが、経営者が現状維持を望んでいては、自己啓発は促進されません。まずは、経営者の意識改革が必要となります。
日本企業が従業員の就学に消極的であるという事態は、国際的なデジタル競争力ランキングに表れています。日本のデジタル競争力ランキングは2018年から下落し続けており、2022年度は29位となりました。これは、評価対象63か国の中程度の位置づけです。10年前の2013年の順位は20位でしたので、この10年で大きく順位を下げたことが確認できます。その要因の一つが「Business Efficiency(ビジネスの俊敏性)」の低下です。
以下は、IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が公表している各国のデジタル公表ランキングから、日本の競争力ランキングの細目を経年比較したものです。これを見ると、日本は「Economic Performance(経済力)」、「Infrastructure(基盤)」は踏みとどまっているものの、「Government Efficiency(政府の効率性)」、「Business Efficiency(業務の効率性)」が低迷していることがわかります。このことから、多くの日本企業のビジネスが現状維持にとどまり、変革を是としない状況に陥っている状況が推察されます。
リスキリングにより、業務の効率性を高める人材を育成することは、企業の硬直化した現状を打開する要素の一つになる可能性があります。
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リスキリングでIT人材を育成しよう(後編)~IT人材育成方法のご紹介~