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特集

進み始めた「デジタル」、進まない「トランスフォーメーション」~DX白書2023が発刊されました

  • 2023年3月1日
  • 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 村上知也
  • DX
  • 白書
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DX白書2023がIPA(独立行政法人情報処理推進機構)より2月9日に発刊されました。
今回の記事では白書のエグゼクティブサマリーの内容を紹介します。

DX白書が発刊されました

DX白書2023の目次は、第1部『総論』、第2部『国内産業におけるDXの取組状況の俯瞰』、第3部『企業のDX戦略』、第4部『デジタル時代の人材』、第5部『DX実現に向けたITシステム開発手法と技術』となっています。

また、DX白書2023エグゼクティブサマリーの目次は、第1章『国内産業におけるDXの取組状況の俯瞰』、第2章『DXの取組状況』、第3章『企業DXの戦略』、第4章『デジタル時代の人材』、第5章『DX実現に向けたITシステム開発手法と技術』、第6章『「企業を中心としたDX推進に関する調査」概要』となっています。

詳細についてはIPA(独立行政法人情報処理推進機構)のページよりご確認ください。
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html

動向や調査データが多数掲載されている他、第4部『デジタル時代の人材』や第5部『DX実現に向けたITシステム開発手法と技術』など具体的な内容も充実しています。

ここからアプリでも、デジタル人材についての特集ページをご用意していますので、ご確認ください。
https://ittools.smrj.go.jp/info/feature/svdhaj00000005ay.php

タイトルにこの白書の思いがつまっている

今回のDX白書のタイトルは、『進み始めた「デジタル」、進まない「トランスフォーメーション」』でした。現在の日本のDXに関する状況を一言で説明するキャッチーなタイトルだと感じます。

白書の「巻頭言」を簡単にまとめると、『DXはデジタル化の「D」とトランスフォーメーション「X」の2つの要素からなります。コロナ禍によってデジタル化の危機感はより浸透し、「D」は推進しつつあります。その一方で、トランスフォーメーションを意味する「X」、すなわち組織文化の変革は、その意味からして理解されてない現状もあります。』と述べられています。

以下のDX白書のデータをみると、「アナログ・物理データのデジタル化」や「業務の効率化による生産性の向上」について、日本企業のうち8割弱は、ある程度の成果が出ていると答えています。

しかし、これらの項目は、経済産業省のDXの定義で見ると、データ化を図る「デジタイゼーション」と、個別業務のデジタル化を図る「デジタライゼーション」を実現しているに過ぎません。もちろん大事なことですが、更に一歩踏み込んでDXを実現するためには、「顧客起点の価値創出」、「ビジネスモデルの変革」が必要とされています。

改めて前述の図表1−12を確認すると、「新規製品・サービスの創出」、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」においてある程度の成果を出している日本企業は2割台に留まっており、米国と大きな差がついています。

今回のタイトルである『進み始めた「デジタル」、進まない「トランスフォーメーション」』には、Dは進んだがXは進まずという意味合い以上に、Xの意味が理解されていないのではという思いが込められているのではないでしょうか。

中小企業ではDは進んだのか?

しかし本当に企業のデジタル化は進んだのでしょうか?特に中小企業の状況はどうでしょうか?
DX白書には、中小企業のデータだけでなく、大企業の内容も含まれています。中小企業白書2022を振り返ると、従業員が101人以上の企業の場合、8割弱は段階3デジタライゼーションまで進んでいるとのことです。

一方で、20人以下の企業のうち段階3まで到達しているのは半数弱ですので、小規模企業は、まだまだ「D:デジタル化」自体を進めていく必要があると言えるでしょう。

成果と結果が保証されていないと踏み込めない日本企業?~アジャイルアプローチを取らない

では、なぜDXのXは進まないのでしょうか?
DX白書の中では様々な分析がされていますが、ここでは2点だけ取りあげたいと思います。

1つ目は、アジャイルアプローチを取らないことです。

米国企業では、業務部門でさえ7割弱がアジャイル手法を取り入れているのに対し、日本の業務部門は3割前後に留まっています。

アジャイルとは、直訳すると「素早い」「機敏な」という意味です。アジャイル開発は、小単位で実装とテストを繰り返して開発を進めていきます。従来の開発手法に比べて開発期間が短縮されるため、アジャイル(素早い)と呼ばれています。近年では、ソフトウエア開発だけではなく、経営にもアジャイルを取り入れる動きが見られます。

アジャイルについてはこちらの記事で紹介しています。
デジタル学習はじめの一歩 5 ~経営者こそアジャイルを知って活かそう~

DXはニーズの不確実性が高く、技術の適用可能性もわからないといった状況下で推進することが求められるため、状況に応じて、柔軟かつ迅速に対応していくことが必要です。そのため、日本企業にもアジャイルの原則に則ったDXの取り組みが求められています。

やはりDXは経営陣が引っ張らないと進まない!

日本のDXが進まない2つ目の理由は、経営層のITへの見識の低さではないでしょうか?
以下のグラフでは日米でITに見識のある役員の割合が掲載されていますが、大きな差がついています。

著者も、企業に訪問してDXの相談に乗ることがありますが、「わたしはITがわからないので、担当の◯◯さんに任せます」と言って、打ち合わせから退出される経営者に度々お会いました。少し残念な気持ちになります。

まとめ

DX白書2023のエグゼクティブサマリーは全37ページであり、ぜひ経営者、支援者の皆様に一読してほしい内容となっています。

デジタル化が進んでいない中小企業は、まず生産性の向上をめざしてデジタルの活用度を上げていく必要があると感じます。そのうえで、DXの実現のために、経営陣が旗を振って、アジャイルアプローチを図っていく必要があるでしょう。

事前にデジタルで実施する内容やその成果が明確になっていると、経営者も意思決定しやすいでしょう。しかし、不確実性が高まるビジネスシーンにおいては、素早く意思決定を下し、デジタル化を進めながら必要に応じて方向転換を図ることも求められるのではないでしょうか。

2021年のDX白書に関する記事はこちら
DX白書2021が発刊されました(1) ~日本のDX化には伸びしろがたくさん!