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特集

【インタビュー】商圏分析ツールを使ってエリアマーケティングを支援~横須賀商工会議所の取り組み

  • 2024年9月30日
  • インタビュー
  • 経営指導員向け

多くの支援機関では、事業者へ情報提供等を行うために商圏分析ツールを導入しています。しかしツールは導入されているものの、十分に活用できていないという声も聞かれます。そこで今回は、商圏分析ツールの活用が進んでいる横須賀商工会議所の皆様にお話を伺い、実際の取り組みや効果等について教えていただきました。

1.導入した経緯、地域・会員の課題

当所では、小規模事業者からの経営相談の多くが、「売上向上」に関するものです。かつては支援時に活用するITツールなどありませんでしたが、現在ではECサイトやSNS、地図アプリなど、様々なツールが利用可能です。商工会議所の役割としては、まず一次対応を行い、その後、それぞれの専門家に引き継ぐ形をとっています。しかし、商工会議所自身でもこれらのツールを活用できるようになれば、提供できる支援の幅がさらに広がると考えていました。

そのような時、事業者のヒアリングを行う中で、事業者自らが顧客のデータを持っていながら全く活用していないケースが多いことに気づきました。また、ある事業者では、接客を担当している店員と社長の両方に話を聞いてみたところ、両者が把握している商圏やターゲット顧客が異なっているということがありました。

そこで、商圏分析ツールを導入すれば、商圏の顧客データを把握して、数字に基づいた販売促進支援ができるようになるのではないかと考え、商圏分析ツール(株式会社ゼンリンマーケティングソリューションズの SEARCH BOX)の導入を検討しました。

実際の導入にあたっては、GIS(地理情報システム)の第一人者である平下治先生にお話を伺い、当所の経営指導員も研修を受けて、実践的に活用できるように準備しました。現在では、横須賀をGISの拠点とすることを目指し、取り組みを進めています。

研修の写真

2.エリアマーケティング事業の支援方法・支援メニュー

商圏分析で支援していること

様々な業種への支援を行っていますが、特に飲食業やサービス業から相談が多く寄せられています。新規開店時には、立地の確認を商圏分析で行うことで、効果が高まります。

ただし、実際は事業者が立地を決めた後に相談に来られるケースが多いため、もっと早い段階から商工会議所に相談していただけるよう周知活動を強化し、さらに効果を高めたいと考えています。

すでに開業している事業者に対しても、商圏分析は多くのメリットを提供できます。顧客情報を地図上に展開するだけでも、新たな視点が得られます。たとえば、顧客が集中しているエリア、既存顧客に似た潜在顧客がいるエリアなどを特定することができます。

さらに分析を進めることで、効果的な販売促進策を立案し、売上向上につなげる支援も行っています。また、効果的なポスティングやダイレクトメール(DM)の実施が可能となり、販促費用の削減やコストダウンにも寄与しています。

相談会を実施

事業者の皆さんに商圏分析の支援メニューがあることを知っていただくために、個別の相談会を実施しています。商圏分析を打ち出すのではなく、「地域マーケティングで売上アップ」というアピールをしています。

売上アップ!本気でチャレンジ個別相談会

昨年は予め日程を決めて、2日間の相談会を開いていましたが、効果も高く、支援メニューとして定着しつつあるため、今では常時の相談受付を行っています。

「新規出店」「お店の売上UP」相談会を実施中!

3.支援した結果 〜具体的な支援事例の紹介

まず自分たちでやってみる <パソコン教室の集客>

当所で実施しているパソコン教室は、近年スマートフォンの普及なども背景に顧客が減少傾向にありました。そこで、ターゲットを再整理し、40〜50代の女性をより多く集客するために、ターゲットに合ったイメージのチラシを作成し、ポスティングを行うことにしました。 その際、商圏分析を行い、ターゲット顧客が多い地域を優先的に選んで配布しました。その結果、チラシを通じて多くの申し込みを獲得し、顧客減少の傾向に歯止めをかけることができました。

パソコン教室は商工会議所で!

【商圏分析してターゲット顧客の多いエリアを選定】

駅と地域のライフスタイルを確認

商圏分析ツールに限らず、ITツールを活用する際は、まず自分たちで実際に使ってみて、その成果を実感してから事業者に提案することで説得力が増し、より高い効果が得られると感じています。

事業者の支援事例 <事例 餃子屋>

自家製細麺・餃子「上海亭」
・安浦本店:神奈川県横須賀市安浦町2-13
・横須賀中央店:神奈川県横須賀市若松町1-4

自家製細麺・餃子「上海亭」

タレのいらない自家製餃子が人気の「上海亭」では、事業再構築補助金により冷凍餃子の自動販売機を設置して、好評を博しています。そこで、さらに複数台の自販機の設置を検討していますが、設置場所をどこにするのかが悩みでした。

そこで、具体的な根拠を持った設置場所を提案するために、GISに対応した商圏分析ツールを活用しました。

この際、いきなり分析をするのではなく、事業者の声をしっかりヒアリングすることが重要です。ヒアリングをして事業者と共に検討した結果、以下のような顧客ターゲットを想定しました。

1.肉屋、八百屋、酒屋等の專門食品店の近く (ついで買いの需要狙い)
2.富裕度が比較的高いファミリー層(世帯年収700万円以上)
3.餃子と冷凍食品の消費が多い、世帯のエリア
4.若年層が多い工リア (時短調理需要狙い、20~39歳)

商圏分析ツールを活用し、このような顧客層がいるエリアを洗い出すことで、具体的な自販機設置場所の候補を絞ることに繋がりました。

ターゲット顧客層の多いエリアを色分け表示

その他の支援事例でも、
・自動車整備業で、前年比、車検予約128%、点検予約400%、オイル交換118%アップ
・美容室で前年比、売上130%アップなど、具体的な数字の伴った支援成果が出ています。

4.今後の展望 〜商圏分析だけでなく、総合的に販促支援、経営支援をしていきたい

商圏分析ツールは強力な支援ツールであるものの、あくまでツールに過ぎません。ツールの活用が目的化しないよう、総合的な支援を心がけています。

具体的には、『顧客発見立案シート』を作成し、KPIやKGIを設定することで、戦略的な支援ができるようにしています。

全体の戦略を立て、顧客の悩みの仮説を検証しながら対応しているため、商圏分析による周辺顧客の分析だけでなく、オンラインに関する相談などにも対応しています。

例えば、店舗であれば、まずはGoogleマップを整備して集客を図り、その後、必要に応じてSNS発信やWebサイト、さらにはECサイトの整備を行います。ECやWebの整備となると、専門家やITベンダーに頼る必要があると思われがちですが、当所では、情報戦略の担当課とも連携し、ネット販促の支援も積極的に行っています。もちろん、よろず支援拠点の専門家とも連携しています。

その結果、高額な費用をかけてネット販促に失敗する事業者を減らすことができたと感じています。かつては、ツールも整っておらず、ノウハウも不足していたため、当所内でネット支援の相談ができるとは考えていませんでしたが、今では実店舗の支援だけでなく、ネット販促(ECサイト等)に関しても多くの支援実績を残すことができました。

一例として、当所では『おもてなしギフト』というECサイトも運営するようになりました。事業者単体では、商品の掲載や運営を円滑に進めるのが難しい場合が多いため、当所がサポートすることで、ECサイトの立ち上げが実現し、売上向上に貢献しています。

(おもてなしギフト https://store.shopping.yahoo.co.jp/omotenashigift/)

5.支援機関に対するメッセージ

事業者支援で最も重要なのは、『事業者目線』であると感じています。商圏分析などのツールを提供することが目的ではなく、事業者が何に困っているのか、課題を一緒に考えながら、事業者目線で問題解決のための仮説を立てることが大切だと思います。

またピンポイントに商圏分析だけをするのではなく、トータルで支援することが求められています。税務相談がスタートであっても、そこから他の経営課題を引き出し、必要な事業者には、今回のようなデジタル支援につなぐような取り組みをしています。

そのためには、私たちも事業者の課題を把握し、ツールを理解した上で、自分たちでできることは実行し、さらに必要に応じて専門家やITベンダーと連携するようにしています。

少しずつ成果が出てきていますが、事業者とともに『もっとこうすればいいのに』と考えながら、私たち自身も成長していきたいと思っています。事業者の役に立つことができれば、より一層、伴走支援を継続する力が発揮できると信じています。

取材協力者

◯取材にご協力頂いた皆様
横須賀商工会議所 理事 事務局長 兼 総務渉外課 課長 工藤幸久さん
産業・地域活性課 石塚健介さん 太田一輝さん 高橋享佑さん
情報企画課 村尾直人さん 姉崎夕梨子さん

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