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特集

改正された電子帳簿保存法で何が変わる?〜デジタル化に取り残されないためには

  • 2022年8月23日
  • 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援)  村上知也
  • 電子帳簿保存法改正
  • デジタル化
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今回の記事では電子帳簿保存法の改正で何が変わっていくのかを解説します。お金周りの事務処理の仕方を中心に変更が求められています。

なお、次回の記事ではどのようにシステム対応を図っていくかについて解説します。

電子帳簿保存法の改正で何が変わる?

電子帳簿保存法については以下の記事もご参照ください。

電子帳簿保存法の改正については上記の記事で説明されていますので、本記事では、改正によりどのような変化が起きるのかを中心に解説していきます。

DXの実現が求められており、さまざまな業務のデジタル化が進んでいます。その中でも、電子帳簿保存法の改正では、「電子帳簿」すなわち、お金周りに関係する業務の進め方は大きく変わっていくことが予想されます。

 

図表1のように、今までは受け取っていた紙書類を7年間、紙のまま保存していたところが多いと思いますが、今後は紙の書類を受け取ったら写真撮影やスキャンをして保存するケースが増えるでしょう。

さらに社内の書類や帳簿も、今までは紙で出力していたものでも、出力をやめてパソコンやスマホで確認するケースが増えるでしょう。

また、部分的に業務の電子化に取り組んだ結果、エクセルやPDFのファイルを大量に保有している事業者は、ファイルの検索性が悪いので、一元的に管理して、すぐに必要な書類を取り出せるようにするケースが増えるでしょう。(可視性の確保)

電子帳簿保存法で対応していくこと

電子帳簿保存法は、各税法で原則紙での保存が義務づけられている帳簿書類について一定の要件を満たした上で電磁的記録(電子データ)による保存を可能とすること及び電子的に授受した取引情報の保存義務等を定めた法律です。

電子帳簿保存法上、電磁的記録による保存は、図表2の3種類に区分されています。①デジタルで作成した帳簿や書類をそのままデータで保存する、②紙で受領した領収書や請求書をスキャンしてデータで保存する、③デジタルで受領したデータをデータでそのまま保存する、といった3つのケースです。

 

この中で、特に注目を浴びているのが③電子取引のケースです。データでもらった書類や取引データはデータで保存せねばならず、紙で保存することはできません。

多くの事業者では、紙でもらう請求書もあれば、PDF等のデータでもらう請求書もあるため、一元的に管理するためには、紙にすべて出力して管理しているケースが多いと思います。しかし、今回の改正によりPDF等のデータで受領した請求書を紙で保存し直すことはできなくなりました。

どういった対応をとるべきか?

それでは前述のように請求書を紙とデータの両方で受け取っている場合は、どのように対応すればいいのでしょうか。図表3で示すように、大きく分けて3つのパターンがあります。

 

①番目はすべて紙にする方法です。取引先にお願いして請求書を紙で送ってもらい、全て紙で管理します。しかし、これでは法律は遵守できても、効率は上がりません。なによりデジタル化の時代に取り残されてしまいそうです。

②番目の方法はすべてデジタルにする方法です。取引先にお願いして請求書はすべてデータで送付してもらいデジタルのまま管理します。紙で送付されてしまった請求書はスキャンしてデータ化して保存します。
事業者はできる限りこの②番目の方針に取り組んでほしいと、個人的には思います。

ただし③番目の方法もあります。運用ルールを整備して、どこまでを紙で実施し、どこをデジタルで実施するか整理しておきます。紙とデジタルが混在すると法律で求められる帳簿の「可視性の確保」が実現できません。そのため、管理表を作成するなどして書類を探しやすくしておくことが求められます。
現実的にはこの方法になる事業者が増えるでしょうが、段階的にでもデジタルの範囲を増やし、②番目の対応を目指していきましょう。

事業者の規模や業態によっても対応は変わってくる

前述の通り、デジタル化の範囲を広げていきたいところですが、事業者の規模によっても対応の進め方が異なってくるでしょう。例えば著者は一人で会社を運営しています。図表4の①番目のように、事務処理も経理もすべて自分一人でやっています。そのためデジタル化を図るか否かはすべて自分にかかっています。そこで、改正初年度から電子帳簿保存法に対応し、クラウドのサービスを導入して紙の書類の保存をすべて止めました。

 

このように、決断さえすれば、小規模事業者の方がデジタル化を実現しやすいです。もちろん社内の事務処理担当者のITスキルに寄るところもありますが、業務が複雑でなく規模の小さい事業者も対応は取りやすいでしょう。
図表4の②番目のように、数人規模の企業で事務処理はすべて一人の担当者が取りまとめて実施しているレベルであれば、事務処理のデジタル化は図りやすいでしょう。

一方で図表4の③番目のように、拠点が複数あったり、請求書の発出を社内の複数の担当で実施している場合は話が変わってきます。すべての事務処理をデジタル化するには、業務フローの整備や、決裁処理など内部統制をどのように実現していくが重要になります。単に社内でデジタル書類をやり取りするだけでなく、いつ誰が申請し、承認し、提出したかなどの管理を行っていくことが求められます。
この場合は、電子帳簿保存法の対応を図ると言っても会計ソフトをバージョンアップするだけでは済まず、内部の業務フローの見直しや承認ルールの整備などを改めて考えていく必要があります。(内部統制の整備)

会計事務所との役割分担をどうする?

さらに会計事務所との関係性も考えねばなりません。例えば図表5の①番目の事業者のように、年に1回請求書や領収書を会計事務所に送って処理してもらっている場合は、自社内でデジタル化を図ることができません。一方、会計事務所側でデジタル化を図るにしても、電子帳簿保存法のスキャン要件の「最長約2か月と概ね7営業日以内」を満たすことができません。

デジタル化の基本は、発生源でデータをデジタル化することです。
図表5の②番目の事業者のように、請求書や領収書などを社内でデジタル化して送付することが求められていくでしょう。

そしてさらに、PDFやエクセルを会計事務所とやり取りするのではなく、③番目の事業者のように、社内で請求書や領収書データを入力するようになっていけば、事業者・会計事務所のお互いにとって効率化が図れ、双方のデジタル化も進んでいくのではないでしょうか。

 

まとめ

電子帳簿保存法の改正対応の進め方は、事業規模や社内のITリテラシーによっても変わってくると思います。小規模事業では簡単に対応できるケースもありますし、業務の見直しから発生するケースもあります。いずれにせよ、すでに2022年1月から施行され、現在は2年間の宥恕(ゆうじょ)措置期間です。宥恕とは辞書を引くと「寛大な心で罪を許すこと」となっています。2年猶予があるからゆっくりしていい話ではなく、対応が済んでいない事業者は今すぐにでも着手すべき段階にあります。

なお、ここからアプリでは会計関連のアプリの紹介をしていますので、以下もご活用ください。

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