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特集

【インタビュー】IT支援の取り組み状況——中小機構関東本部 古川忠彦さん(前編)

  • 2019年10月4日
  • 中小機構関東本部 古川忠彦
  • インタビュー
furukawa

中小機構関東の古川アドバイザーにIT支援の取組み状況について、お聞きしました。


1989年大学卒業後、会計系システムベンダーに入社。税理士事務所に対するコンサルティング業務、営業企画、マネジメント業務等に従事。2004年同社取締役に就任。2009年にMBAを取得。2014年にアルパーコンサルティング株式会社を設立。2014年独立行政法人中小企業基盤整備機構関東本部地域支援機関等サポート事業チーフアドバイザーに就任。

|古川アドバイザーには「支援者のためのビジネス用アプリ(クラウド型)導入支援サポートブック」制作に当たってお知恵をいただいており、ありがとうございます。
 古川アドバイザーがITに詳しいのはなぜかバックグラウンドを教えていただけますか。

 私は元々、会計システムベンダーに在籍していました。入社当時は税理士事務所に対する新規開拓営業を主として行っていましたので、特段ITに詳しいわけではありませんでした。
 ですが、当時から自腹でPCを買って、MS-DOSやWindowsのアプリケーションソフトを使って、身の回りの業務改善に取組むことなどが好きでしたから、当時からPCやアプリの利活用に特段抵抗感はありませんでした。
 アプリに多少詳しくなったのは独立をした後からです。笑

|ITの支援者として独立をされたのですか?

 いえ、元々は営業と会計、両方の支援ができることを強みとして独立しましたので、特段IT支援に注力をするつもりはありませんでした。
 経営コンサルタントとして独立をした後、バックオフィス業務も自ら行うこととなり、こうした業務負担軽減のためにアプリを利用するようになったことで詳しくなりました。
 業務には、会計ソフトはもちろんのこと、HP作成も行い、ビジネスチャットアプリ、名刺管理アプリを利用するようにしています。昨今ニーズが急増しているQRコード決済サービスについては、自社でも利用店舗として登録を行っています。
 また、IT導入の支援を行うようになってからは、より具体的な提案ができるよう自社の業務に使わないアプリについても情報収集や試行錯誤を続けています。
 例えば、会計ソフトを他の方に紹介する際には、自社で使い精通している会計ソフトだけでなく、色々なクラウド会計サービスも複数操作をしてみて、現状に適したサービス活用を提案できるように準備をしています。
 こうして必要に駆られて利用を始めたアプリ利用の経験や、その後、収集した情報や中小企業のご質問にお答えするようにしていたら、気がつけば、こうした場にもお声かけをいただくようになっていました。笑

ソリューションとしてのIT

|なるほど。実際にアプリを活用されていることと、ご自身で興味をもたれて調べられた結果、事業者様にとって実用性のある提案ができるようになったわけですね。昨今、ITをテーマにした施策が増えているように思いますが、現場の中小企業のご相談も増えていたりはされますか?

 ITをテーマとした相談が増えているとは思えません。テクノロジーの進歩により、これまでITで解決できなかった経営課題が、ITで解決できるようになり、結果としてITを活用した支援が注目されるようになったのだと考えています。
 例として、情報共有で悩まれている建設業にアドバイスをした際のお話をいたします。
 この企業では、現場の備品の損耗状況等を電話やFAXで本社に共有していたのですが、文書だけでのやり取りでは、損耗状況が伝わらず結果として、十分な対応ができずに終わってしまうということが多くありました。
 些細なことに感じられるかも知れませんが、炎天下の中で作業をする現場の従業員にとって、備品の破損は大変なことで、現場の方からしてみれば「本社の連中は冷房の効いた部屋にいるのに、現場には、壊れた安全靴を使って作業をしろというのか」と不信感が生まれていました。
 この企業に、ビジネスチャットアプリを紹介したところ、画像で実際に破損している備品の情報より適切に伝えることができるようになり、コミュニケーションが円滑に進むようになりました。
 ビジネスチャットアプリというと、操作が難しいものと感じる方もいらしたのか、当初は反対の声もあったのですが、「皆さんが、普段使っている個人向けチャットアプリの業務版です。」「無料で使えるので試しに導入をしてみてはどうですか。」とお伝えすると、抵抗感も少なく利用を開始していただくことができました。

|確かに、こうした情報共有の問題は、従来、「権限委譲」や「備品管理の徹底」といった組織ぐるみの活動が必要でしたが、アプリを導入するだけで解決につなげることができたということは大きな進歩かも知れませんね。ビジネスチャットアプリを紹介された理由も、やはり普段から使われていたということが理由でしょうか。

 おっしゃるとおりです。元々ビジネスチャットツールを活用した経験があるからこそ、自信をもってお勧めをできたのだと思います。
また、この事例は、再現性が高い点に特徴があると考えています。
 「権限委譲」といった、難しいテーマだと、支援を受ける中小企業さんも身構えてしまいますが、無料で手軽に利用ができるアプリの導入は「だめでもともと」ではじめることもでき、コストがかかりません。また、難しい操作を覚える必要のないアプリであれば、すぐに、現場で活用することもできるため、即効性もあります。また、我々支援者からしてみても、無料で試してみることができるわけですから、使ってみてお勧めすることができるわけです。
 経営課題の全てがアプリで解決できるわけではありませんが、こうしたものが増えていくことで、今後もソリューションとしてアプリが活用されることは増えていくのだと思います。

支援者こそ、アプリを活用するべき

|古川さんのように自らアプリを活用するということは非常に重要な点であると思います。実際に今、支援者が使うべきアプリはありますか。

 私が、支援機関向けの講習会の場でお勧めしているのはQR決済関係のアプリケーションです。講習会の場では、有名なQR決済アプリを示し、その場でインストールをすることをお勧めしています。

|個人で利用されるQR決済アプリですか?

 そのとおりです。まずは、個人用を導入していただきます。QR決済アプリは、キャンペーン等でポイント還元などをおこなっていることが多く、まず、消費者として「QR決済アプリを入れることで、どれだけお得になるか」ということを体験していただくことにしています。
 その後、支援機関の皆さんが消費者として、お店を選ぶときにポイント還元を受けることができるお店と、そうではないお店でどちらを選ぶか、という身近な問題として考えていただくことで、支援先の中小企業にもQR決済アプリを導入してだかなければ、と必要性を感じていただくことができます。

|なるほど、まずは、消費者目線でアプリを使っていただくわけですね。

 店舗側の導入手順や、負担の小ささをお話することで、中小企業にとってもメリットが大きいことと理解いただくことも大切ですが、販促ツールとしての重要性を理解するためにはまず、実際に消費者として使っていただくことも重要だと考えています。
 なかには、セキュリティの心配をされる方もいらっしゃるので、無理強いはしていませんが、QR決済アプリや電子マネーと比べて、はじめて入る飲食店でクレジットカードを店員さんに渡してテーブル払いをする方が、よほどスキミングリスクが高いですね。こういうテーブル払いは、2020年4月からは割賦販売法の改正で違法行為となります。

アプリ導入の前に必要なこと

|支援者がアプリに詳しくなることで、中小企業のIT導入促進は進んでいくのでしょうか。

 実際に支援者、特に支援機関職員がIT支援に強くなるためには、いくつかのハードルがあるように感じます。私も、多くの支援機関の方とやり取りをさせていただくのですが、多くの方はモチベーションが高く、中小企業に真摯に向き合っているように感じます。
 しかし、あくまで、アプリはソリューションツールに過ぎません、支援機関の方が、企業にとって有効な提案を行うためには「ここからアプリ」を活用するだけでは、導入に踏み切れないことがあるのです。

次回は、ここからアプリの活用のために必要な支援者としての取り組みや姿勢、支援機関がIT支援を行っていくうえで必要な視点等を紹介していきます。
【インタビュー】IT支援の取り組み状況——中小機構関東本部 古川忠彦さん(後編)