【インタビュー】IT支援の取り組み状況——中小機構関東本部 古川忠彦さん(後編)
- 2019年10月21日
- 中小機構関東本部 古川忠彦
- インタビュー
中小機構関東の古川アドバイザーにIT支援の取組み状況について、お聞きしました。
1989年大学卒業後、会計系システムベンダーに入社。税理士事務所に対するコンサルティング業務、営業企画、マネジメント業務等に従事。2004年同社取締役に就任。2009年にMBAを取得。2014年にアルパーコンサルティング株式会社を設立。2014年独立行政法人中小企業基盤整備機構関東本部地域支援機関等サポート事業チーフアドバイザーに就任。
支援の前提となる対話力
| 前回、実際に支援者、特に支援機関職員がIT支援に強くなるためには、いくつかのハードルがあるように感じるとおっしゃっていましたが、具体的にはどのような点が重要なのでしょうか。
商工団体や地域金融機関などの支援機関の方は、ITの導入自体が本業ではありません。IT支援は、あくまで日々の相談対応業務の中での課題解決に向けた提案手段の一つです。
よく現場で見る光景ですが、訪問件数や共済成約件数等の様々な目標KPIを数多く抱えていると、得てしてKPIの達成が優先されてしまい、中小経営者との間で信頼関係を構築することが難しくなってしまいます。
信頼関係が構築できていないと、本質的な経営課題を理解することができず、表面的な提案になってしまいます。ましてや、多少とも出費を伴うITツールを提案するなどという提案はできません。結果として、IT導入の支援を行おうにも、それが実践できない状況に陥るわけです。
そこで、支援機関職員の方は、まずは経営者と、経営課題、「お困りごと」といってもいいと思いますが、しっかりと向き合って「深度ある対話」をすることが重要になります。
|どんなにいいツールを知っていても、それを導入していただくには、その支援者が経営者に信頼されている必要があるわけですね。
おっしゃるとおりです。ITの導入はあくまでソリューションの一つに過ぎません。その提案ができるよう、まず、対話により信頼関係の構築を行う、そして、中小企業の「お困りごと」を知り、はじめて、解決策が提示できるわけです。
私が専門家として所属している中小機構関東本部では、講習のテーマとして「対話力」の向上を行っています。これは、日常業務と中小企業支援をどのように紐づけていくか、その手法をお伝えするものです。
例えば、地域金融機関では事業性評価への取り組みが求められています。「評価」以前にお客様の事業を「理解」することが必要であり、「理解」のためには、「深度ある対話」は必要不可欠なものです。こうした対話ができていないと、支援施策を提案しようにもその施策が有効なものかどうか、その判断もできません。講習会では、半日以上をかけてこの対話能力を磨くための方法をお伝えしています。
支援機関職員が実際にアプリに触れる
|支援機関職員がIT支援に強くなるためのハードルは他にどういったものがあるのでしょうか。
前回お話をしましたとおり、アプリをおすすめしようとする場合、実際に使ってみることが重要です。
私のように、経営コンサルタントとして独立している立場の人間が個人の仕事のために実際にアプリを試してみることについては、障壁がありませんが、支援機関職員の場合、所属している組織の業務でアプリを使ってみようとした場合は、そうはいきません。
昨今、セキュリティに関する考え方が非常に厳しくなっており、多くの支援機関において、たとえ無料のアプリケーションであっても、許可なく業務用のPCでアプリを使うことが禁じられています。
従って、どのアプリがいいかを試してみるためには組織の承認が必要となり、その手続きは煩雑です。また、組織の許可が下りない場合、支援者個人が自分のPCで試す他なくなってしまうため、忙しい支援者であればあるほど、業務時間内に新しいアプリに関する知見を得ることが難しくなってしまいます。
|確かに、いわゆるシャドーIT問題もあるように、組織の許可なくアプリを仕事に使うことはできませんね。
支援機関職員の中には、プライベートで勉強のために私用の端末にアプリを導入して、操作性を確認されたりしています。しかし、こうした俗人的な対応だけでは、一向に実際にアプリを使ったことのある支援者の数は増えてはいかない。
こうした現状があるなかで、画期的な取り組みとしてあげられるのが、ここからアプリでも紹介されていた静岡商工会議所の取り組みです。
|静岡商工会議所では、IT導入支援3ヶ年計画に基づき会議所内にPOSレジを設置し、職員の方が端末の操作方法の研修を受けていらっしゃいましたね。
静岡商工会議所には、実際にPOSの端末がおいてあるので、商工会議所にいらした中小企業が実際に端末を触ってみることができることが大きな特徴です。加えて、当会議所では端末の操作方法に関する研修を実施、ITパスポートや、ITコーディネーターといった資格取得のために勉強をしており、会議所職員のIT支援能力が日々研鑽され自信をもって提案ができるようになっています。
こうした取り組みが広がれば、多くの支援機関の経営相談の場で、アプリによる解決策の提示が増えていくのではないかと思います。
解決策としてアプリが提案できる支援者になるためには
|組織で、こうした取り組みがはじまっていない支援者はどう対応すればよいでしょうか。
今のところ、自らつかっていただくしかないかと思います。ですが、支援先企業を良くしたいと考える支援機関の方はたくさんいらっしゃいますので、徐々にではありますが、そういった方は増えてくると思いますし、グループウェアやチャット用のアプリなどを業務に使う支援機関も増えておりますので、そうした支援機関の方は、中小企業目線で、そのアプリを評価することも重要だと考えます。
また、どのアプリから手をつければよいかわからない、という支援者の方には是非、「ここからアプリ」を利用いただければとも考えております。まだまだ、掲載されているアプリの数は少ないですが、掲載されているアプリの提供事業者HPに行けば、無料で試用することや、操作方法を動画で確認することができますので、こういったものを勉強するだけでも提案のきっかけにはなるのではないかと思います。
|ここからアプリの紹介をしていただいて、ありがとうございます。古川さんはどのようにアプリの情報を入手しているのですか。
ここからアプリには掲載されていませんが、私は、Googleアラートを設定しIT等の最新情報を効率よく入手できるようにしています。昨今情報はあふれているため、中小企業に役立つ情報も効率入手することが重要だと考えています。
また、情報は入手して終えるだけではなく、活用することが重要ですので、自社で活用できるツールは積極的に利用をするようにしています。
例えば自社、といっても一人法人ですが(笑)、経理処理の効率化のためにRPAを活用できないかと検討しております。私が愛用している会計用のアプリでは、一部手入力のプロセスが発生してしまうため、こうした業務を効率化したいと考えています。うまく導入ができれば、支援先への提案にもつなげて行きたいと考えています。
ここからアプリに期待すること
|最後に、「ここからアプリ」への期待されていることを教えてください。
経営者のお困りごとに対応する民間アプリを絞り込むようなツールを、国の行政機関である中小機構が開発・提供しているって「勝負しているよなぁ」と思いますね(笑)
まずは、多くの支援者に触っていただくことが重要だと考えています。以前、ある地方でのセミナー時に「ここからアプリ」と「 E-SODAN 」の紹介をした際、ご存知の方は少なかったのですが、その場で触っていただくと、非常に評判がよく、また、感動をされている方もいらっしゃいました。いいツールなので、是非活用していただきたいと思います。
|「ここからアプリ」を、今後多くの方にご利用いただけるよう、改善してまいりたいと考えております。本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。