ブームから5年、今更聞けない「IoT」の効果について
- 2022年9月6日
- 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 野村真実
- IoT
- センサー
IoT元年と言われた2017年から早5年。
中小企業でも多数の事例が出ていますが、まだまだ十分な普及に至っていないと言われています。
活用シーンが思い浮かばない、電源供給など運用が難しい、Wifi回線が届かないなど、課題山積みで断念されたケースもあるかと思います。
今一度、その効果に着目して、再検討してみましょう。
「IoT」の効果
「IoT」の代表的な定義では、
「IoTとは、コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。」
引用元:IT用語辞典 e-Words
と定義されていますが、その効果を一言で表現すると、「リアルタイムな協調で富む知恵」です。
(1)リアルタイム:「モノ」がつながって、状況を伝えてくれる
例えば航空機のエンジン稼働状態がリアルタイムに分かることで、故障や不具合を即座に把握でき、パイロットに適切な指示を与えることや、着陸先の空港で交換部品やエンジニアを事前に待機させておき、着陸後すぐに点検修理して次のフライトを欠航させないといった対応ができます。また災害が起きたときなど、スマホなどモバイル端末を持っている人の動きをリアルタイムで捉えながら、安全な避難経路へと誘導してくれます。
このようにモノがリアルタイムにつながることで、これまでとは大きく異なるビジネスプロセスを実現します。
(2)協調: 「モノ」同士の情報が交換され、協調する
例えば、渋滞。前を走っている自動車がスピードを落とせば、後ろの自動車もスピードを落とすと、この連鎖が渋滞を生みます。この時に信号機と自動車がつながると、通行する量に応じて信号機(青・黄・赤)の点灯間隔を制御し、もっとスムースな走行ができます。その結果、渋滞は解消され、いらいらすることもなく、無駄なガソリン消費も抑え、環境にやさしい運転が実現します。
このように、モノ同士(信号機と車)がリアルタイムでつながり、モノがお互いに協調しながら、最適化を実現します。
(3)知恵:クラウドにつながり、「モノ」が知恵に富む
例えば、電子レンジがネットにつながると、クラウド上のレシピ情報サービスから最新トレンドのレシピを手に入れ、最適な調理法(機能、時間)を設定できるようになります。冷蔵庫の場合は少なくなった常備したい食材を検知して、自動で発注してくれます。
自動車では今日食べたい素材や料理ジャンルを話しかけると比較的近いおすすめのレストランを複数紹介し、予約までしくれます。そして渋滞のない快適なルートに沿って、自動運転してくれるでしょう。
このようにモノにつながったネット上には、ビッグデータが日々蓄えられています。モノはネットにつながることで、モノ単体ではなしえない強力な知恵を持つことができるのです。
まとめると、IoTの効果は「リアルタイムな協調で富む知恵」だと言えます。
事例
身近なIoTの事例では、安価なセンサーを活かして、センシングデータを蓄積し、分析に役立てる例が増えています。3点、例示いたします。
(1)工場の機器稼働状況の把握
ある金属塗装業の企業では、それまでは機械のランプを実際に見に行かないと稼働状況が判りませんでした。3種のランプに受光センサーをつけ、それを無線でクラウドに送信することによって、離れたところからも検知できるようにし、さらにそれをデータとして蓄積することによってどういう状況のときに異常が発生するのかを可視化、分析できるようになりました。これにより、異常停止によるロスが4.4%削減でき、オペレータの精神的負担も激減しました。
(2)「ラズペリーパイ」で自前IoTシステムを構築
自動車部品メーカーである旭鉄工株式会社はデータを活かした稼働率の向上に取り組むこととし、秋葉原で一個数千円の教育用コンピュータ「ラズベリーパイ」と数百円の磁気センサー、数十円の光センサーなどをまず買って帰り、自社でIoT化をスタートしました。最初は生産数やラインの停止時間を正確に把握することだけに着目し、そしてボトルネックを探し、稼働率の向上に役立てました。データで見えるとスタッフの動きが変わったそうです。
そして、「人には付加価値の高い仕事を」を合言葉にIoT技術やAIスピーカーにより稼働状況をスマホで見える化し、カイゼンで年間4億円以上の労務費を低減しました。
出典:中小企業基盤整備機構 ポータルサイトJ-Net21 旭鉄工IoT事例
(3)果樹園の凍霜害防止にIoTを活用
果樹園にとって、開花時期の「霜」がもたらす凍霜害は甚大で、数億円の損害をもたらすこともあるそうです。このため、ある農業関連団体では、果樹の開花時期の4月になると、職員・生産者60人が徹夜して夜明けまで温度測定をしていました。これを37箇所の計測地点に照度センサー、温湿度センサーを取り付け、無線でクラウド上にセンシングデータを送ることにより、現在はわずか3名の職員で対応できるようになっています。
事例からもわかるように、IoTの本質は「デジタル化」です。IoTを経営の力として活かすためには、「なんとなくそう思う」「直感的にはこうだろう」というアナログな行動や判断から脱して、データをとり、データを分析することで見えてくること、データにもとづく判断が大切だという認識に立つ必要があります。幸い、センサーが安く使えるようになったことにより、従来だと難しかった機械の稼働状況などのデータも比較的簡単に取れるようになってきています。
取組方法
まず経営者が、「生産性や品質を高めるためには、データにもとづく判断が重要だ」という姿勢を打ち出すことが大切です。
そのうえで「このデータを取れば、より生産的な活動ができるのではないか」という仮説を立て、その仮説にもとづいてサンプルテストで実際にデータを取ってみる。そして、そのデータで何を判断し、その後のアクションにどのように結びつけるのかという仕事の流れ(業務プロセス)をつくっていくことが重要です。
このような進め方を成功させるためには、経営者が明確な方向を示したうえで、現場とIT担当、そしてIoTベンダーが対話を繰り返しながら、進めていくことが大事ですね。是非チャレンジしてみてください。