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特集

POSデータを活用する 【データ分析②】

  • 2025年2月28日
  • 中小機構 中小企業支援アドバイザー  村上知也
  • POSレジ
  • データ分析

POSレジは安価な物も増え、タブレットやスマホなどで簡単に導入できるサービスが増えています。そのため小規模事業者でも導入が進んでいます。

POSレジを適切に設定していると売上だけではなく、商品の売れ筋ランキング、客単価、利益率も把握することができます。POSデータをもっと活用して売上アップにつなげる取り組みについて解説します。

目的を持ってデータを分析しよう

事業者から社内のデータが蓄積されてきたため、分析を依頼されることがあります。また公的な専門家派遣においても、「あの事業者は多くのデータを保有しているので、分析の支援をしてください」といった形で依頼されることがあります。

データ分析は楽しいものです。さまざまなデータを読み込んだり、組み合わせたり、相関を取ったりすることには魅力があります。しかし、それだけでは単なる数字遊びに過ぎません。データ分析自体も重要ですが、それ以上に「何を実現したいのか」を明確にし、その仮説が正しいかを検証することこそが、データを有効活用する正しい方法だと考えます。

データの何を分析したい?

POSや販売管理システムを導入すると、商品、地域、担当者、季節、曜日、時間帯といったさまざまなデータが蓄積されます。しかし、漠然と「分析してほしい」と依頼されるのではなく、「当社の課題は担当者の接客力のばらつきにあるかもしれない」といった仮説があれば、担当者のデータをキーにして分析を進めることができます。そうすることで、提言する施策も担当者に関するものに重点が置かれるようになります。
 
このように、データ分析は最初に目的を明確にすることで、より効果的な結果を得やすくなります。

目的を具体的に立案しよう

データ分析は、以下の図のように目的を明確にし、仮説を立て、データを集め、分析し、意思決定を行う流れとなります。では、目的とはどのようなものでしょうか?最もよく挙げられるのは「売上を上げたい」ということでしょう。ただし、この目的はやや漠然としています。売上を上げるといっても、新規顧客を集客したいのか、既存顧客を増やしたいのかによって対策は異なります。また、来店回数を増やしたいのか、来店頻度を上げたいのかによっても施策は変わってくるでしょう。

何のためにデータを分析するか

そのため、今回は来店頻度を上げたい美容室の例で考えます。コロナ禍以降、多くの美容室では来店頻度が低下しがちです。そこで、仮説として「高齢者の来店頻度が下がっているのではないか?」ということが考えられます。

 美容室向けのPOSが導入されていれば、来店頻度を確認するのは容易でしょう。分析の結果、年齢層が高いほど来店頻度が低下していると分かった場合、対策として例えば「シニア向けの白髪染め放題のサブスクサービス」を提供し、来店頻度を向上させることができます。

 これは誰もが思いつく対策かもしれません。しかし、従来のように経営者が「流行っているから白髪サブスクサービスを実施しよう!」と勘と経験に頼って意思決定するのではなく、データを基に検証しながら対策を決定することが重要なのではないでしょうか。

POSデータの分析で何ができるのか? 〜利益まで把握したい

次に、POSデータ分析で何ができるのかについてです。
売上や客単価、売れ筋商品ランキング、時間帯ごとの売上など、さまざまなデータを確認できます。日々のデータを把握できるだけでなく、同月の前年との比較も有効です。

その中でも特に重要なのが利益の確認です。売上を確認することも大切ですが、それ以上に利益を把握することの重要性は言うまでもありません。

POSの商品マスタに商品単価だけでなく、商品の利益額も登録しておけば、1日の営業終了後にいくらの利益を得られたのか、明確に把握できます。

もちろん、飲食店などでは商品メニューごとの正確な利益を常に把握するのは難しいかもしれませんが、定期的に原価を確認し、POSレジに登録しておくことが重要です。

ABC分析の例 〜売上と利益を分析しよう

利益が把握できていると分析も進み、対策も実施しやすくなります。例えば、以下の例で売上と利益のクロス集計を考えてみます。

通常はABC分析で売上の大きい商品に注力していくことになります。さらに利益の視点も加えることで、新たな対策を検討することができます。

クロス集計分析

売上や利益の高い商品はもちろん全力で販売を進めますが、売上は高いものの利益率が低い商品(AC牛肉)については、現状のまま集客商品として残すのか、原価や販売単価を見直すかを検討する必要があります。また、売上は低いものの利益が高い商品(CA山羊)をセットメニュー化することで、利益の改善につなげる可能性もあります。

日常的にデータを確認しやすいPOSレジを活用し、多くのデータを分析することで、改善の打ち手を迅速に講じることができるのではないでしょうか。

まとめ

データ分析を効果的に活用するには、目的を明確にし、仮説を立てて検証することが重要です。だからといって、難しい統計処理をして分析する必要はありません。今回の事例のように、必要なデータをPOSで蓄積し、商品やお客ごとの売上や利益を把握することで、売上アップにつながる施策が見えてくるのではないでしょうか。

支援者の皆様は、積極的に事業者のデータを見るようにしてください。

会計だけでなく、POSレジの導入を手伝った税理士の方が言っておられました。
「普段は会計の話を事業者とするだけだったが、POSデータについても話すことができるようになったら、事業者の方からの信頼度がぐっと上がった」と。

具体的に分析するのはハードルが高い面もありますが、一緒にデータを確認しながら伴走支援を行うことが重要ではないでしょうか。