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特集

給与計算システムの導入に失敗しないために

  • 2023年3月13日
  • 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 鬼澤健八
  • 給与計算
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給与計算システムは、社会保険や所得税の改正時にもパッケージソフトメーカーが通常は改修対応をしてくれるので、うまく稼働すればバックオフィス業務の生産性アップに寄与します。
しかし、ソフトを購入した後に挫折する話が少なくありません。
勤怠管理業務や給与計算業務のプロセスにおいて、IT化状況と社会保険事務所や税理士など社外の関与状況を考慮したうえで、給与計算の自社IT化が望ましいのか。また、自社の就業規則や給与規定の内容がシステム化の壁になる場合があることも解説します。

給与計算のまわりの業務を確認しましょう

給与計算システムは一回仕組みを作れば、毎月の繰り返し業務として効率化できますが、給与計算の元になる情報のIT化状況や、給与計算まわりのアウトソース状況によっては、効果が半減します。また、最悪の場合は業務が増える場合もありますので、総合的に判断する必要があります。

給与計算まわりの業務とデータ連携を表した図

(1)勤怠データと連携しないと効果が減少

  • 出勤・退勤の打刻、残業時間算出、休日出勤、有給消化などの管理に、「勤怠管理システム」を利用している場合は、給与計算システムが求める形式でデータを出力できるか確認が必要です。勤怠データを連携できない場合は、集計表を見ながら、給与計算システムに手入力をすることになりますので、効率化が半減します。
  • 表計算ソフトなどで、タイムカード・出勤簿の集計をデータ化している場合は、給与計算システムが求める形式でデータを一括出力できるように設定できるか確認が必要です。毎月手集計でデータを作ることは、効率化が減少します。

(2)給与計算に必要なその他の情報

  • お弁当や自社製品の個人購入などの立替金額を控除することが多量にある企業は、データの連携ができないと給与計算システムに追加で手入力をすることになり、効率化は減少します。

(3)給与計算代行(アウトソーシング)との比較

  • 毎月の給与計算をアウトソーシングしている場合は、“アウトソーシング費用”と “給与計算システム費用+社内作業費用” を比較する必要があります。
  • 給与振込、源泉徴収税納税、年末調整業務までアウトソースしている場合は、給与計算システムを使いこなすことで、税金や社会保険の処理を内製化できる可能性もあります。
  • 給与計算業務をアウトソースすると、人員をコアな本業に集中できることと、年末調整などの季節的業務負荷を回避させるメリットもありますので、企業規模や事務部門の能力や業務担当量の状況に応じて検討が必要です。

(4)原価計算に給与金額を使用している場合

  • 従業員の人件費の実金額を、個別製造原価やプロジェクト費用データとして利用している場合は、プロジェクト番号や、製品や製造ラインなどの情報を紐づけて集計することになります。その場合は、給与計算システムのデータの連携方法を考慮しましょう。
  • また、実金額で把握しようとすると複雑になる場合があります。概ねの区分管理で十分であれば、無理にデータ連携させずに、一人当たりの概算人件費などを一律に使用することで簡素化しましょう。

(5)給与明細の電子化

  • 給与明細のペーパーレス化として、従業員が自分のPCやスマホで見る仕組みが存在します。印刷・封入・送付が不要になるので業務削減になります。また、従業員は、過去の給与明細の閲覧も可能なので、紙を保管する必要がなくなります。

自社の就業規則や給与規定の内容確認も併せて実施

次のような手厚い福利厚生として生まれた手当や就業規則であっても、複雑すぎるとシステム化を妨害する時があります。システム化の準備を通して、就業規則、給与規程の再整備やシンプル化も検討しましょう。

(1)複雑な手当が存在すると、システムに載せきれない場合がある

各種手当の種類が多すぎてシステムで設定できる項目数では不足してしまう場合や、また、該当する条件が複雑すぎて機械的な自動計算が困難な場合は、システムに無理に載せられないことがあります。また、無理に載せると別途に手入力が増えて効率が下がります。
例えば、

  • 家族手当が1人当たり〇〇円だが双子の場合は△△円など、場合分けが多い。
  • 数か月だけ支給する手当。
  • 夜食を辞退した時に現金支給。
  • 部門長判断の臨時手当。

(2)就業規則の運用に人間の判断が必要だと、システムに載せきれない場合がある

次のように就業規則が実際の運用と乖離があって個別判断で対応している場合は、システム化するときに自動計算を阻害しますので、現実に合致するように改訂を検討しましょう。また複雑な基準がある場合は、シンプル化することも検討しましょう。

  • 在宅勤務など新しいスタイル導入により、規定が現実に追い付いていない。
  • 昔から個別通達で運用してきたが、複数の条件が重なると矛盾がある。
  • 時間の端数処理が、手当項目によって四捨五入と切り上げが異なる。また、日ごと、月累計など計算方法が複数ある。

必ず試用版で確認をしましょう

給与計算システムの購入前に、試用版を利用して自社に適応可能範囲なのかを確認をしましょう。

(1)試用版によるテストと初期設定支援の確認

試用版を使って、どの設定をどのようにやったら給与計算がきちんと計算されるのか、システムの内容をよく理解しましょうまた、当社の規定に沿って実データを入力して検証しましょう。
自社で初期設定が難しそうな場合は、システム販売会社やパッケージメーカーで、初期設定を有料で手伝ってくれるサービスを用意しているかも確認しましょう。

(2)給与計算システムの初期設定をとおして、規定や運用面の合法チェック

社会保険や所得税の知識に自信がない場合は、面倒くさがらずに、関与していただいている社会保険労務士や税理士にコマメに聞きながら初期設定を進めると良いです。給与計算システムのマスタ設定時に、自社の規定がはまらない場合は、システム側の対応不足ではなく、自社が法律的にグレーな運用をしていた場合があります。

保険労務士や税理士に確認して、是正すべき規程や運用面はこれをきっかけに直しましょう。

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