金融機関と連携したコミュニケーション強化で経営支援とIT支援に力を注ぐ
- 2024年1月25日
- 金城達也税理士 様 ゆい税理士法人 様
今回は、沖縄県那覇市の金城達也税理士事務所(税理士:金城達也先生)と沖縄県宜野湾市のゆい税理士法人(代表社員・税理士:大濵剛先生)に同席いただき、認定支援機関である税理士と金融機関の連携についてお話を伺いました。
金融機関と一体となった継続的な連携支援が重要
—認定経営革新等支援機関(認定支援機関)に登録されたのはいつですか? また、登録された理由についてもお聞かせください。
金城 2012(平成24)年11月5日の第1号の認定です。事務所の方針として掲げている「中小企業の健康経営への取り組みサポート」が、この制度の趣旨と合致することから登録しました。
大濵 同じく、2012(平成24)年11月5日の第1号の認定で登録していましたが、2019(令和元年)年8月30日に法人設立に伴い法人登録に切り換えました。登録の背景には、中小企業に対して税務以外での経営にかかわる支援を強化していきたいという思いがあります。また、さまざまな補助金申請に必要な経営計画策定支援についても、認定支援機関でなければできない業務となっていて、税理士としての職域拡大を図るという狙いもあります。
—早期経営改善計画と経営改善計画の実践件数、金融機関との取り組み状況をお聞かせください。
金城 早期経営改善計画5件です。
金融機関への説明・交渉から、経営計画の策定などの支援を実施しています。さらに、金融機関への進捗状況報告として、月次貸借対照表、損益計算書などをデジタルデータで提供しています。ITを活用したこの進捗状況報告は、金融機関からも高い評価を得ています。
金融機関との取り組み状況ですが、金融機関によって積極的に経営支援に取り組んでいるところと、そうでないところが存在しているのが実状ではないでしょうか。人手不足も影響していると思いますが、温度差があるというのが率直な所感です。
金融機関の方との関わる機会が多いため、事前に金融情勢や金融庁の動向などの最新情報を入手して、常に共通の話題ができるように心がけています。金融機関が置かれている現状と今後の取り組みについて理解して対応してきたことが、関係強化に繋がってきていると思います。
大濵 経営改善計画約40件(税理士事務所・税理士法人の合計)です。
税理士事務所設立以来、経営改善計画策定支援については特に積極的に取り組んできました。
金融機関との連携については、ゼロゼロ融資で厳しい環境に陥っている中小企業において、会計事務所の仕切りによってバンクミーティングを実施しています。中小企業金融公庫と信用保証協会、融資残高のある金融機関にご参加いただき、本音ベースで話し合い、落としどころを見つけて足並みを揃えていけるように運営しています。
ここで重要なのは、会計事務所が中立の立場でいることです。金融機関の立場と事業者の立場それぞれからの要請を受けて、相互の落としどころを調整しながら事業計画を作成しています。厳しい状況のときもありますが、これも中小企業支援のためにできる会計事務所ならではの役割だと考えています。
—金融庁は「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針(監督指針)」を一部改正し、2023(令和5)年の4月から適用しています。特に金融機関の経営者保証に依存しない融資の取り組み状況についてお聞かせください。
金城 地元金融機関でも、新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の割合を毎月公表しています。現場の支店長とお話しする機会で感じたのは、方向的には、着実に経営者保証に依存しない融資対応にシフトしてきているということです。
大濵 現在は、金融機関からの提案というより、会計事務所から経営者保証枠の解除提案をしているのが実状です。また、事業承継支援においては、事業譲渡する側で経営者保証を解除しなければ事業承継が進まない、という重要な課題があり、手続き段階において、経営者保証枠を解除することが金融機関との共通認識となってきています。
「経営者保証のガイドライン」適用3要件に、①法人個人の一体制の解消、②財務基盤の強化、③財務状況の適時適切な情報開示があげられています。この課題解決は、金融機関だけでは難しいのではないでしょうか。「会計の専門家」である税理士と金融支援を行う金融機関が一体となって、事業計画策定支援から業績を検証していく伴走型のモニタリング支援など、継続的な連携支援に取り組むことが重要だと考えます。
インボイス制度の導入は、IT化を加速させる好機
—経営改善に直結するIT化支援(見える化)について具体的な事例をお聞かせください。
金城 2023(令和5)年10月にインボイス制度が導入されました。これによってIT化が一挙に進んだと実感しています。顕著な例では、飲食業のクラウド型POSレジの導入が挙げられます。クラウド型であることでリアルタイムでの売上分析や高度な在庫管理が可能になるのはもちろん、クレジットカードや電子マネーなど決済のキャッシュレス化を実現でき、最近では予約システムと連動したタイプもあって、業務効率が飛躍的に向上しています。
また、インボイス制度の導入に伴って請求書様式のシステム変更が必要となるので、IT導入補助金を活用しての導入も進んでいます。まだまだ実務面では、処理が煩雑になるなどの課題があったり、混乱が続いていたりするのが現状ですが、今後もIT化の進展は加速していくことが予想されます。
大濵 デイサービス施設、介護保険施設、デイケアセンターなど多くの施設を運営している医療法人においてIT導入の支援をした際に、システムについて分かりやすくまとめた図が以下のものです。各施設では、窓口収入・小口支払いをExcelでデータ化してクラウド会計システムに連携しています。本部では、インターネットバンキングなどのFinTech(フィンテック)活用で会計システムへ連携して、取り引きの自動仕訳を行うように設定しています。さらに給与計算も連携させることで転記ミスや入力ミスをなくし、業務効率化と生産性の向上を図りました。
ここでのポイントは、以下の図にあるように、会計データに連携する前の基幹システムデータ(インボイスの請求書データ含む)をどのように取り込むかです。会計データが法人税法・消費税法などにも対応すると同時に、経営者の意思決定に役立つ経営管理のデータとなりうる項目の設計支援が必要不可欠です。まさに、会計と税の専門家である税理士にしか設計・検証できない専門分野であるとも言えます。
地域金融機関との連携支援は、コミュニケーション強化がポイント
—最後に、認定支援機関の会計事務所に対して、中小企業への経営改善計画に取り組む留意事項、アドバイスがあればお聞かせください。
金城 融資やリスケなど、金融機関への相談・交渉のポイントは、「会計の専門家」である会計事務所が、中小企業と金融機関との間に立って行うことが重要だと思います。ただし前提条件となるのは、金融機関に相談・交渉に入る前に、中小企業の経営者ご自身に、今の厳しい経営実態を正しく認識していただくこと、そして経営に取り組む覚悟を持っていただくことです。この前提条件をクリアしてこそ、金融機関とのよい交渉を望むことができます。
大濵 認定支援機関の税理士と地元金融機関との連携が鍵を握っていると考えます。各業界団体の置かれている金融支援と経営支援の現状や課題の情報を共有し、必要に応じて定期的に相互に意見や情報交換ができる交流の機会を設け、コミュニケーションを強化していくことが必要ではないでしょうか。
沖縄県においては、ひとつのきっかけとして、有志の税理士と地元金融機関との定期的な情報交換会を実施しています。そこに参加された金融機関の方から、個別に事業承継や経営改善計画策定支援のご相談があるなど、関係強化に繋がってきているのも事実です。
今後も地域金融機関とのコミュニケーション強化を通して、連携支援による中小企業の永続的発展に貢献していきたいと思います。
[企業DATA]
○金城達也税理士事務所(税理士:金城達也)
開業:1998(平成10)年9月
URL:https://www.kinjoh.info/
○ゆい税理士法人(代表社員・税理士:大濵剛)
開業:1994(平成6)年7月税理士事務所設立、2018(平成30)年1月法人設立
URL:https://www.o-hama.net/