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特集

フィンテックの利用定着が経営数値の早期把握の切り札になった

  • 2022年11月15日
  • 税理士法人 トップ 様

関与先企業の会計ソフト口座連携 利用率9割超 の体制をどのように実現したか!?
関与先の生産性向上に寄与するだけでなく、会計事務所の時間効率を劇的に改善し、結果として関与先企業への支援体制の強化に大きな役割を果たしています。

※本文中の「フィンテック」とは、株式会社TKCのFinTechサービス「銀行信販データ受信機能」のことを指します。

経営者保証に関するガイドラインに沿って早期経営改善計画策定支援に取り組む

Q : 認定支援機関に登録されたのはいつですか。

A : 認定支援機関制度が創設された2012(平成24)年に第1号認定を受けました。 国税庁の統計では、我が国法人の黒字申告割合は少しずつ改善の傾向が見えていますが、それでも直近の令和2事務年度統計(※)の黒字申告割合は35%、65%の法人は赤字申告となっています。

※出典:国税庁 令和2事務年度分(令和2年7月から令和3年6月)プレスリリース より

つまり、経営は何もしなければ赤字が当たり前の時代と言えますが、認定支援機関制度創設時の平成24年は赤字申告割合が特に悪化していた時期であり、当事務所が制度創設と同時に申請登録することは必然の流れでした。
中小企業金融も「土地担保主義」から、「企業格付け」による融資、さらに現在は「事業性評価」に基づく融資へと変化してきています。担保があれば融資してくれた時代から事業の内容や成長性に着目した融資を行う時代になりました。
中小企業が置かれている環境の変化に伴って、そのパートナーである税理士に対する経営者のニーズも変わってきました。記帳代行や決算書類の作成・税金対策にウエイトをおいた業務内容から、中小企業の経営革新や経営改善を促し、黒字経営をサポートするスタイルが求められるようになってきたのです。
当事務所はそのスタイルを追求し、全力を挙げて関与先企業の黒字経営をご支援することを使命としています。原則として全ての関与先企業に対して心掛けているのは、企業の業績管理(P・D・C・A)に沿った業務推進です。「中期経営計画の策定支援」で社長のビジョンを数値化し(P)、それを「単年度予算の策定支援」により月次に落とし込み(D)、「四半期ごとの業績検討会支援」でそれを検証し(C)、打ち手を考え行動を変化させていく(A)という流れで業務を提供しています。
認定支援機関制度の趣旨は当事務所の方針と完全に一致しており、国が推奨する金融と経営支援の一体的取り組みに賛同し、当該事業に取り組んでいます。

Q : 経営改善計画策定支援の取り組み状況についてお聞かせください。

A : 現在、経営改善計画策定支援事業6件、早期経営改善計画策定支援事業5件で、実績としては多くありません。それは当事務所が認定支援機関制度創設前から、中期経営計画策定支援を標準業務として全関与先企業を対象に実施していたからです。別途報酬をいただくサービスとして新たに取り組むわけではないため、積極的に早期経営改善計画策定支援事業の枠に当て込むことは行わず、関与先企業の状況やニーズに即した対応に徹しています。
しかし、今年からは早期経営改善計画策定事業への積極的な取り組みを開始する予定です。その契機は、2022年4月1日に、「早期経営改善計画策定支援事業(ポスコロ事業)」が見直され、「経営者保証解除枠」が新設されたことでした。
早期経営改善計画の策定は、経営者保証に依存しない融資の促進、すなわち経営者保証の解除を担保することになりました。この「経営者保証解除」支援に着目し、経営者保証に関するガイドラインに沿った早期経営改善計画策定支援に取り組み、関与先経営者の負担軽減に貢献したいと考えています。
なお、経営者保証の解除を申請する「金融機関交渉報告書」では、提出書類として、従前より全面的に取り組んでいる「税理士法第33条の2に基づく添付書面」と「中小企業の会計に関する基本要領チェックリスト」が盛り込まれています。現在のサポート内容を大きく変更することなく、金融機関交渉報告書が記載できることもアドバンテージになります。
早期経営改善計画策定支援は、対象となる関与先企業の抽出、経営者保証解除が盛り込まれた早期経営改善計画策定の提案、そして計画策定と金融機関との交渉の流れで進めます。成果が出るには3年はかかると思いますが、経営改善計画の策定と実行が黒字化と金融機関の評価改善につながり、「経営者保証解除」が実現できれば、企業経営の安定に加え、経営者の安心、安全に大きく貢献できると考えています。

フィンテックの9割普及で経理業務の負担を軽減

Q : 事務所のIT化支援の取り組みについてお聞かせください

A : 関与先企業に当事務所推奨の会計システムを導入いただき、仕訳入力をはじめとする会計処理や業績管理体制の構築を企業内で行えるよう支援しています。現在は、関与先企業の会計システム導入割合は約9割となっており、ほとんどの企業が自社で会計処理を実施しています。
また、当事務所の特長として、銀行・信販データの会計システムへの自動読込(フィンテック)機能を活用いただくよう例外なく提案しており、会計システム導入企業のフィンテック機能利用率は9割を超えています。

Q : フィンテック利用率9割超はどのように実現されたのかお聞かせください

A : きっかけは、推奨する会計システムに、銀行や信販データを受信する機能(フィンテックサービス)が付加されたことでした。毎月の仕訳の中で金融機関への振込や入金の仕訳が最も多いことは以前から分かっていました。フィンテック機能が付加されたとき、この機能は関与先企業の経理業務を大幅に合理化できるとともに、経理事務の迅速化と早期の業績把握の切り札になると直感しました。
やると決めれば事務所一丸となって徹底的に取り組むのが、齋藤保幸前所長(現会長)により培われた当事務所の伝統です。早速普及のための方針と計画を策定し、実行に先立っての勉強会を開催しました。疑問点の解消を行い、全職員がフィンテック推進の意義や目的を腹落ちさせた上で関与先企業への提案を行うことで、計画通り提案開始後約2か月で会計システム導入企業の9割に利用を開始してもらうことができました。

Q : 提案や利用支援活動ではトラブルや障害はありませんでしたか

A : 起こると思われるトラブルや障害は事前にある程度予測して準備したので、対処に戸惑うことはほとんどありませんでした。
例えば、提案開始に先立ち、提案者がフィンテック機能を十分に理解するのは当然のことです。当事務所ではその手段として、会計システムで使用するフィンテックアプリを全職員が自身のスマートフォンにインストールし、銀行取引受信機能を自らの銀行口座で体験することで理解を深めてもらいました。
また、フィンテック機能の利用はインターネットバンキング(以下「IB」という)の利用が前提となります。金融機関のIBは有料サービスとなっていますので、IBを利用していない企業には、まずIB利用を提案する必要がありました。そのため、IBの利用料が決して負担にならないことを説明できるように準備して提案を始めました。金融機関によってサービス内容に若干差異はありますが、IBの利用料は概ね月額千円程度で、この費用は振込手数料約3回分です。IBを利用すれば、その手数料が安価になるケースが多いことに加え、銀行に行く手間も省けます。結果として、IB未利用企業もほとんど抵抗なく利用を開始していただくことができました。

税理士法人トップ風景

一度始めると、もう後戻りは考えられないフィンテックは省力化の決め手

Q : フィンテックの利用を開始した関与先企業の反応をお聞かせください

A : 当事務所のホームページでは、会計システムの導入事例を掲載しています。その中からフィンテックを利用した感想を抜粋してご紹介します。

A社

最初は、今までやってきたやり方から新しいやり方に切り替えることに抵抗がありましたが、「やっていくうちに徐々に慣れて行き、使えば使うほど楽になります」ということでしたので、導入することにしました。
実際に導入してみると、仕訳ルールの学習機能により取引から仕訳を学習してくれるため、水道光熱費の支払い等の定型的な取引についてはほぼ確認のみで済むようになり、自ら仕訳を入力する量が大幅に減りました。実際の所要時間としては、導入前の2分の1程度にはなっていると思います。時間・労力共に導入後はかなり楽になりました。導入当初は少し苦労した部分もありましたが、今では問題なく使えています。
操作手順については、事前の説明だけではイメージが湧きにくい部分もあったので、実際に操作しながら慣れていった、というのが本音です。操作の面で分からないこと等があれば、その都度事務所の方に聞くことで解決できたので、導入してから3か月程度でほぼ軌道に乗りました。

B社

フィンテックサービスを税理士法人トップ主催のセミナーで知り導入しました。会計システムを導入してまだ2年足らずで、使いこなせていない状況での導入であったため、当初は非常に不安な気持ちでしたが、事務所の方に丁寧に教えてもらいスタートすることができました。今となっては、昔のように預金通帳を見ながら、1取引ごとに入力するなんて考えられません。
良かった点としては、

  • 「入力にかかる時間が大幅に短縮」できました。以前は、預金取引を週に一度、約半日かけて入力していましたが、今はほんの数分で完了できます。
  • 「残高を確認する」という手間がなくなりました。以前は、金額の入力誤りなどにより残高が預金通帳と一致せず、誤りを探すのに苦労していましたが、今では預金残高は当然一致しているので、残高を確認する作業はなくなりました。
  • 入力時の「相手勘定科目」に悩まなくなりました。まだ勘定科目を完全に理解できていないので、正しい勘定科目を探すのに時間がかかっていましたが、フィンテックサービスは一度設定すれば翌月からは相手勘定科目も自動で表示されるようになりますから、この時間も短縮できました。

C社

IBを利用している銀行口座であれば、フィンテック機能を利用することで通常は入力が必要な取引の日付や金額が自動で会計システムに反映され、確認するだけで済むようになります。しかも口座残高が絶対に合っているところがとても便利だと感じています。
実は経理に関しては初心者なので、仕訳の入力について少し不安がありました。しかし、このフィンテック機能には学習機能があり、一度補正し計上した仕訳の内容がルールとしてシステムで学習され、次に同じような取引があった場合には、学習した仕訳内容が自動で表示されるので、消費税区分・勘定科目・摘要を入力する必要がありません。利用し始めて4か月経った今ではほとんどが仕訳の確認だけで済み、業務の効率化につながっていると思います。
関与先企業の声を整理すると、フィンテック利用効果は以下の5点に代表されると言えます。

  • 伝票入力業務が大幅に省力化した。(預金取引仕訳を入力しなくてよくなった)
  • 使えば使うほど業務効率が上がる。(学習機能で一度設定した仕訳は覚えてくれる)
  • ミスがなくなる。(入力しないので、そもそも打ち間違いは発生しない)
  • 確認作業が楽になる。(入力ミスがないので残高に間違いがない)
  • 金融機関取引の確認が楽になる。(複数のIBにそれぞれログインして確認する手間が省ける)

なお、フィンテックの利用で関与先企業の経理業務が迅速化すれば、事務所の仕訳内容チェック等の確認のタイミングも早くなり、その分正確な月次業績の把握が容易になります。また、関与先企業の入力ミスがなくなれば、会計事務所の監査も短時間で完了します。フィンテックの利用は、利用する企業の生産性向上に寄与するだけではなく、会計事務所の時間効率を劇的に改善し、結果として関与先企業への支援体制の強化に大きな役割を果たしてくれます。

岩瀨貴之所長

フィンテックだけに終わらない会計事務所のIT導入支援

Q : フィンテックに続く関与先企業のIT化支援の計画があればお聞かせください

A : 近年の会計、税務やITに関連する法改正等を踏まえて、当事務所では関与先企業のIT化支援のステップを次のように考えています。

第1ステップ 会計システムの導入支援
一部例外を除き、当事務所の関与先企業には会計システムの導入を必須条件としています。

第2ステップ フィンテック(銀行信販データの仕訳連携)の活用支援
一部例外を除き、金融機関取引があればフィンテックの利用も必須としています。

第3ステップ 電子取引データ(証憑書等)の電子保存(証憑書の仕訳連携)支援
現在は、電子取引データ(証憑書等)を電子保存することの支援でとどまっていますが、この取り組みは「証憑書からの仕訳計上」を自動化するための事前準備です。

第4ステップ 業務システム(販売管理システムなど)からの仕訳連携支援
販売管理やPOSシステム、経費精算システムなどから会計システムへの仕訳連携が標準の時代が来ると考えています。このステップまで仕訳連携ができれば、企業の経理業務で仕訳入力作業はほとんど消滅すると考えられますが、それを見据えてIT化支援に取り組んでいます。

なお、今年のIT化支援の重点テーマは、第3ステップの電子取引データの電子保存支援としています。改正電子帳簿保存法への対応に迫られ、電子取引データ(証憑書等)の電子保存は必須だと考えています。さらに、来年にはインボイス制度の運用開始が控えており、その対応も待ったなしの状況です。

新しい業務の定着は、事務所が一丸となる体制作りから

Q : IT化支援を事務所業務に定着させるための秘訣があればお聞かせください。

A : IT化支援に限ったことではありませんが、成功の秘訣は事務所が一丸となる体制を作れるかどうかだと思います。何か新しいことを始めるとき、所長の強い意思は当然必要ですが、所長だけが納得して動いても成果は部分的であり、事務所に定着はしません。当たり前の業務として全職員が納得して取り組む体制が構築できるかどうかが決め手になります。 当事務所では、事務所が一丸となる体制を作るために、以下の手順を踏んでいます。

  • 所長が方針を掲げ
  • 事務所全体で取り組むための綿密な計画を練り上げ
  • 全職員が腹落ちするまで研修を行い
  • 一斉に関与先企業への提案をスタート

また、それが事務所の標準となるためには、一定以上の割合で関与先企業に取り組んでもらうまでの根気強い提案と説得が必要です。経験上、8割以上に普及すれば当たり前の業務となり、そこからは後退することはありません。

Q : 最後に、IT化支援には今後どう取り組んで行かれるのかお聞かせください。

A : 関与先企業にフィンテック機能を提案したときのように、生産性向上を促すIT技術や新しい仕組みはこれからも矢継ぎ早に出てくると思います。当事務所としては、最低限のこととして会計、税務の分野におけるそれらの新しい技術や仕組みに常に敏感であり続け、関与先企業が変革に遅れないよう、時代に取り残されないようにサポートすることが使命だと考えています。
遠くない未来、経理業務全体の自動化は進み、帳簿を付けるという作業自体がなくなる時代がやって来るでしょう。そのとき、会計事務所は何を生業に関与先企業を支援するのでしょうか? 生産性向上のためにIT導入を支援するのは当然として、ITがもたらす正確迅速な会計資料を経営に役立ててもらうこと、そして経営判断に役立つ適切な助言のできる会計事務所である必要があります。中小企業の成長・発展のために、変化を恐れず、顧客目線で変革にチャレンジし、地域経済の発展に貢献し続けたいと思っています。

左:齋藤保幸会長  右:岩瀨貴之所長

[企業DATA]
税理士法人トップは、静岡県沼津市、富士市、御殿場事務所を開設、平成12年ISO9002取得(沼津初)し、会計指導力を発揮し、中小企業の存続・発展を支援。

税理士法人 トップ
代表社員税理士・所長  岩瀨 貴之

沼津・本社
〒410-0855 静岡県沼津市千本緑町2丁目10番地の1

富士・岩瀨貴之事務所
〒416-0931 静岡県富士市蓼原26番地の5

御殿場・御殿場事務所
〒412-0025 静岡県御殿場市川島田988番地の1

設立:2010(平成22)年(税理士事務所開業:昭和60年)
URL:https://www.top-zeirishi.net/

[認定経営革新等支援機関について]
登録年月: 2012(平成24)年11月5日
登録理由 : 経営革新等支援業務 / 経営改善計画書策定
取材日: 2022(令和4)年8月24日