改正電子帳簿保存法対応はIT化支援の追い風 中小企業DX化の第一歩!
- 2022年4月25日
- 税理士法人 岩崎会計 様
「改正電子帳簿保存法」が中小企業の経営やIT化にどう影響するか、それにどう取り組むかを解説!
会計で会社を強くする仕組みづくり、関与先企業の基幹システムと会計システムをシームレスに連携させる支援が、会計事務所の重要な業務になることを紹介しています。
(※)経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等に資するため、令和3年度の税制改正において、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成 10 年法律第 25 号。以下「電子帳簿保存法」といいます。)」の改正等が行われ(令和4年1月1日施行)、帳簿書類を電子的に保存する際の手続等について、抜本的な見直しがなされました。(出典:国税庁)
経営改善計画策定支援の取組みは会計事務所の本来業務
Q : 認定支援機関に登録されたのはいつですか。
A : 認定支援機関制度が創設された2012年(平成24)に第1号認定を受けました。制度創設の主旨に賛同して取組みをスタートし現在に至っています。
Q : 経営改善計画策定支援の実践状況についてお聞かせください。
A : 現在、経営改善計画策定支援事業1件、早期経営改善計画策定支援事業24件の支援実績があります。
当事務所は、認定支援機関制度が創設される前から全関与先企業に対して次年度の経営計画の策定を支援していました。もちろん策定した計画は予算化するとともに、支援企業には実績と予算との比較検討を行う業績検討会を毎月開催しています。これらの支援業務は、当事務所では会計事務所の本来業務と位置付けていましたので、認定支援機関として新たに取り組む特別な業務とは認識していません。
改正電子帳簿保存法の対応は「電子取引の電子データ保存義務」への対応が決め手
Q : 改正電子帳簿保存法への対応についてお聞かせください。
A : 2022(令和4)年1月1日施行の改正電子帳簿保存法には、①電子帳簿保存、②スキャナ保存、③電子取引の電子データ保存義務の3つの保存方法が定められています。 法律の改正ですから、関与先企業を守るためにも期限内の確実な対応を支援することが会計事務所の責務です。
ただ、3つの保存方法のうち、電子データ保存が義務化されているのは③のみです。①と②の電子保存は任意なので法改正対応としては急を要しません。 そこで当事務所では、③電子取引の電子データ保存義務に絞って改正電子帳簿保存法への対応を支援することとし、まず関与先企業の内、当事務所が推奨する会計システムを導入している企業への支援に集中することとしました。
取引先からPDFの請求書がメールで送られてくる場合や、WEBショップで購入した商品の領収書をPDFでダウンロードする場合などは「電子取引」に該当するので、2022(令和4)年1月1日からは紙での保存は認められず、電子データでの保存が義務づけられます。 実務としては、関与先企業の電子取引等の洗い出しを行い、どれを電子データとして保存する必要があるのか、それをどうやって電子保存するのかをご説明し、実際の保存のやり方までを支援しています。
Q : 電子取引の電子データ保存義務の対応で注意すべき点をお聞かせください。
A : 令和4年度税制大綱で、「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存の宥恕(ゆうじょ)措置の整備」(以下、「宥恕措置」)が盛り込まれました。 この「宥恕措置」が多くの企業現場で誤解されています。
間違えてはいけないのは、追加で盛り込まれた2年間の「宥恕措置」期間は、2年間の猶予期間(または準備期間)ではない、つまり、無条件の対応延期ではないということです。
この宥恕措置では、以下の2つの要件を満たす場合には、保存の要件に関わらず、電磁的記録の保存ができる(「(3)電子取引の電子データ保存」も紙に印刷して保存することが認められる)ものとされています。
(1)保存要件にしたがって保存できないことに「やむを得ない事情」があることが認められる
(2)税務調査時に出力画面の提示または提出の求めに応じることができる
当事務所では、宥恕措置にとらわれず、施行開始の2022(令和4)年1月1日から関与先企業が例外なく改正電子帳簿保存法に対応できるよう支援することを重点方針としています。
IT化支援で中小企業の環境適応を後押し
Q : 改正電子帳簿保存法対応をどのように進めて来られたのかお聞かせください。
A : 昨年10月から事務所内で何度も研修を重ね対応準備を進めてきました。本年1月から関与先企業への実践支援をスタートしましたが、法適用開始の1月1日からの対応を支援することとしていた関与先企業(当事務所が推奨する会計システムを導入している企業)の半分ぐらいしか進んでいないのが実態です。
ただ、全対象企業の改正電子帳簿保存法対応を支援する方針に変わりはありません。
電子取引に関しては大手企業からの圧力も増してきます。例えば、今年になって、ある大手企業から、これまで「紙」で発行していた請求書を本年4月より「電子データ」とする旨の案内が当事務所にありました。この大手企業は、当事務所だけではなく、すべての取引先に同じ案内をしているはずです。改正電子帳簿保存法にいち早く対応支援することは、このような環境変化に適応することに繋がります。
Q : 中小企業への具体的な支援事例についてお聞かせください。
A : 具体的には、
(1)正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理規程を整備・運用
(2)当事務所推奨の会計システムによる「証憑ストレージサービス」の運用
の2点を推進しています。
先ほどもお話ししましたが、事務所全体の取組みでは、昨年10月より所内研修等を実施し、この2点について情報の共有と支援内容の徹底を図ってきました。
この1月からは関与先企業に出向き、会計システムを活用した証憑データの電子保存の方法及び運用についての操作指導をしています。最初の説明には1時間30分程度かかりましたが、1~2ヶ月もすれば企業の担当者の方もやり方に馴染んでくれて当たり前の仕事として定着しています。
電子帳簿に限らず、業務のデジタル化、ペーパーレス化は、これからの時代に避けては通れない道です。改正電子帳簿保存法への対応を受け身にとらえず、中小企業のIT化支援の追い風としたいと思っています。
電子取引データの運用が定着すれば、その電子データを会計システムに仕訳として連携させることを容易にし、経理業務の合理化や会計を経営に活かすことにも繋がるからです。
基幹システムと会計システムの連携が支援の決め手
Q : 販売管理等の業務システムと会計システムとの仕訳連携についてお聞かせください。
A : まず、会計システムとの仕訳連携の支援にあたっては、企業の取引実態の把握から始めます。例えば、売上の仕訳を会計システムに入力する際は、どのデータや書類から入力されているかを調べます。エクセルで集計したものからなのか、販売管理システムから打ち出された帳票からなのか等、その企業の入力元は何なのかを把握します。
例えば、下記のⒶ図のように、売上取引が発生するとその売上データは販売管理システムなどの基幹システムに入力されます。経営者は主にその基幹システムからの情報を確認して経営の意思決定を行っている場合が多いです。
一方、会計システムへの売上高の入力は、基幹システムから毎月の売上の合計額を伝票1枚で入力して終わるケースが少なくありません。会計事務所もできるだけ毎月の仕訳枚数を少なくすることが経理業務の合理化だと考えて指導していた時代もありました。しかし、このように月末一括計上 された、いわば「粗い」データでは、経営者の 意思決定に資することはできません。
そこで、当事務所では、下段のⒷ図のように、基幹システムと会計システムを一本道に連携させる支援に取り組んでいます。ITの進化は、大量のデータを手間なく扱うことを容易にしました。売上データは仕訳連携の仕組みを構築しさえすれば、簡単にかつ個別取引単位で会計システムに取り込むことができます。元データをそのまま取り込むので二重入力や転記ミスもありません。しかも、仕訳データが取引先別、部門別 等に細分化されているので、経営者の 意思決定に大いに役立ちます。
この基幹システムと会計システムをシームレスに連携させる支援が、会計で会社を強くするために不可欠のものであり、今後の会計事務所の重要な業務になると思っています。
※ここでの基幹システムとは、企業がビジネスを行う際に根幹となる業務をコンピューターで管理するシステムのことを指します。 主に、製品の生産から販売、納品、請求書発行などの業務に対するシステムを指します。
正しい仕訳連携の支援は会計事務所の使命
Q : 会計システムへの仕訳連携を支援した事例についてお聞かせください。
A : 仕訳連携は、基幹システムにCSV等でのデータ切り出し機能さえあればできます。業務効率の劇的な向上に繋がり、かつ会計システムの情報が意思決定に役立つデータとして活用されるようになったことで高い評価を得ています。
反面、気を付けなければいけないのは、仕訳連携の設定を企業任せにしないということです。当事務所の関与先企業で、ある経費精算のアプリを導入後、 そのベンダーから「この経費精算 と連携する会計システムに変更 しませんか」との提案を受けた関与先がありました。
しかし、その経費精算システムから生成された仕訳データは、会計基準や税法等が求める記帳要件が満たされていない不完全なものでした。
企業が、基幹システムはもちろんのこと、その他の業務アプリの導入を検討している場合は、会計システムとの連携を考えていることも想定しておくべきです。その際、常に記帳要件を常に念頭においておく必要があります。その意味において、会計システムとの連携の仕組みをサポートできるのは、会計と税務の専門家である会計事務所以外にはないと思っています。
率先垂範が所長の務め「知」を結集して社会に貢献する
Q : 事務所にIT化支援体制を根付かせるための方策があればお聞かせください。
A : 事務所で起こっていることの責任はすべて所長にあると思っています。改正電子帳簿保存法への対応もIT化支援も、事務所内に根付くかどうかは所長次第です。
私は先代から事務所を引継いで19年目ですが、今でも数件の関与先企業を私が直接担当しています。変化の激しい時代にあっては、自ら現場に赴き試行錯誤することが、職員と一体感をもって事務所経営を行うために必要不可欠であると思っているからです。
また、20年以上前から、最新情報や知識を共有する「合宿研修」を毎年実施しています。直近では、「仕訳連携」や「改正電子帳簿保存法」等をテーマに開催しました。
当事務所の正面入り口に飾ってある版画は、職員一人一人が書いた「知」という文字を私が手彫りしたものです。全員の「知」を結集し、その力で関与先企業の繁栄に奉仕し、社会に貢献できる会計事務所でありたいと思っています。
[企業DATA]
税理士法人 岩崎会計
【北九州本社】〒805-0068 北九州市八幡東区桃園2-7-10
【福岡事務所】〒810-0801 福岡市博多区中洲5-3-8 アクア博多5F
設立:昭和49年6月(平成19年1月に法人組織化)
URL:https://www.ia1974.co.jp/
登録年月: 2012(平成24)年11月5日
登録理由 : 経営革新等支援業務 / 経営改善計画書策定
取材日: 2022(令和4)年3月11日