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特集

小規模事業者のIT 化は「面倒だな」を「意外とできた」につなげる支援から

  • 2024年5月31日
  • 加藤博己税理士事務所 加藤博己先生[ 京都府京都市 ]
所長:加藤博己先生

今回は、京都府京都市の加藤博己税理士事務所(所長:加藤博己先生)に小規模事業者のIT化事例とご自身の事務所のIT化について取材しました。

シンプルなタスク管理ツールを導入し、基本機能の範囲内でできることから対応

—中小企業・小規模事業者のIT化支援状況についてお聞かせください。

当事務所では、主に10人以下の小規模事業者の支援を行っています。私は2代目ですが父の代から引き継いだお客様も多く、経営者が40代以上の事業者がほとんどです。1、2名の小さな会社ではIT化が難しいかというと、事業規模が問題なのではなく、お客様自身にIT化への拒否反応があるかどうかがポイントと考えます。どこからIT化すべきかについてもお客様それぞれの状況によって異なります。経理は紙ベースなのか、エクセルに入力しているのか、メールを使えるのかなど、現状の仕事の進め方によって最初に取り組むべき内容がまったく異なってくるのです。

【支援事例】建設機械の販売・修理業を営む事業者

この事業者では税理士との間のタスク管理における課題がありました。経理処理に関する質問等を最初はメールで送っていたのですが、こちらから依頼した内容について「どこまでやったか分からないのでもう一度連絡してほしい」といった状況が何度も起きました。メールのままでは解決できないと思い、ビジネスチャットツールを試してみましたが、メールと同様にタスクがずらっと並び過ぎていてうまくいかない。また情報整理ノートツールでデータを共有してみましたが、これもうまくいきませんでした。

こうしていろいろと試した結果、たどり着いたのが、タスク管理ツールの「Trello(トレロ)」です。「Trello」はカード型のタスク管理をクラウド上でできるシンプルなツールで、自分でつくり込む必要がありません。小規模事業者の場合は、「デフォルト機能の範囲内で、無理なくできるところまでやる」という使い方がよいと思います。

「Trello」を導入した結果、かなりスムーズにタスク管理を遂行できるようになりました。両者間でルールを決めて運用することで、タスク管理を通じてすべてのコミュニケーションが完結するため、チャットやメールでのやりとりはなくなりました。

現在では社内でも、在庫管理などの情報共有に「Trello」を活用していると伺っています。

最初の一歩はハードルを下げ、相手にメリットのある提案をする

—ITツール導入支援にあたり、心掛けていることを教えてください。

冒頭でもお話したように、小規模事業者のIT化において何をすべきかは、それぞれの状況によって異なります。事業者自身が不便に感じている面倒なことを「どうにかしたい」という強い思いがないと、行動に移すのはなかなか難しい。ですから、「できるだけ押し付けない」ことを意識しています。そして、雑談などを通じて「こんなことで困ってるんだよね」という事業者自身からのひと言が出てきたタイミングを逃さずに「実はこんなツールがあるんですよ。やってみませんか」とおすすめする。デジタルに不慣れな人に、世の中の流れだからとIT化を押し付けても動いてくれませんし、万が一導入できたとしても、うまくいかなければ「やっぱりウチにはIT化なんてムリだ」という認識だけが残ることになってしまいます。

また、できるだけ相手が負担に感じないような、ハードルの低いツールを提示するように気をつけています。小規模事業者には、まず「メリットを提案すること」と「最初のハードルを下げてあげること」が大切です。例えば、コミュニケーションツールとして「メールを導入する」であったとしても、これまで使ったことがない人にとって「設定」は難しいものです。そのため必要であればセットアップをこちらで行った上でメールの作成や送信方法を説明することもあります。

当事務所ではお客様とのコミュニケーションには、「Trello」の他、メールや「Chatwork」「Teams」などを使用しています。ただ、事業者の中には、スマートフォンしか持っていなくて、メールは難しいけれど「LINE」なら使えるという人も多いため、「公式LINE」も活用しています。事業者が負担を感じずに使えるツールはどれかという点を重視して、使用するツールを決めるようにしています。

誰でもできる仕組みをつくるために「ウチにはムリ」を「意外と使えた」と思ってもらえる提案を

—デジタル初心者の事業者へ、提案していることについてお聞かせください。

第一歩としては、「現金での支払いを減らしませんか?」という提案をしています。例えば、払込票を使って現金で支払っている公共料金や固定資産税などを、口座振替やネットバンキングに切り替えるといったことです。現金を減らすキャッシュレス化は現金という「現物」を通帳上の「データ」に置きかるものとして位置づけていますので、私の考えとしては立派なデジタル化です。デジタル化に取り組んでいない会社では、まずはそこからのスタートでよいのです。また、ネットバンキングを利用している会社の場合は、会計データとの連携がしやすくなり、効率アップにつながります。

次におすすめしているのが、「ファイルの共有」です。電子データをメールの添付ファイルでやりとりすると、「以前送ってもらったファイルが見当たらないので再度送ってほしい」といった状況がよく起きます。これはメールという仕組みが情報を「ストック(貯めておく)」することに向いていないからです。ですからやりとりする電子データを「ストック」できるよう「Dropbox」などを利用したファイル共有を提案しています。「Dropbox」では、データの更新があると通知が来る設定にしていますので、お客様から作業完了のメールがなくても、最新データの状況が把握できるようになっています。保存場所のルールをきちんと決めておけば「あのファイルもう一度送ってください」ということもなくなります。

私の考えとしては、「ウチにはデジタル化なんてムリ」と思っている方に対して、やってみたら「意外とカンタンにできた」と思ってもらえるように持っていくことが大事だと考えています。誰でもできる仕組みをつくってあげたいですね。

新しいツールも、ルールをきちんとつくって運用すれば、使えるものになる

—一般的なITツール以外の会計ソフトについてお聞かせください。

会計ソフトは「弥生会計」をはじめ、クラウド型の「マネーフォワード」や「freee」を使っています。それぞれのツールにメリットデメリットがありますが、それらの特性を理解して目的に合ったソフトを使うことがポイントだと考えます。

例えば「レシートをスマホで撮影するくらいならできる」というお客さまには、「freee」のアプリでレシート撮影だけしてもらって、あとはこちらで処理するといった運用をするケースもあります。

他にもお客さまの状況に合わせてクラウド型の「マネーフォワード」やインストール型の「弥生会計」などを提案しています。各ツールとも、サービス内容や料金体系がどんどん変わってきていますので、情報を収集しながら見極めていかなくてはならない状況です。

ITツールに関する情報は、インターネットを介してさまざまなサイトから収集しています。知りたいジャンルの最新情報を、ネットニュースやブログなどから検索できる「Feedly(フィードリー)」や「Googleアラート」で、「DX」「AI」などのキーワードを登録して、更新情報を随時チェックしたり、SNSの「X(エックス)」のコメントを参照したりしています。具体的に知りたいことがあれば、もちろんネット検索で探すこともあります。アンテナを張っておくことで、新たなツールやサービスを知ることも多いので、情報収集は大切ですね。

「面倒な作業はしたくない」という感覚を大切に、まずは行動を起こすこと

—IT化を検討している事業者へ向けて、一言メッセージをお願いします。

まずは「こんな面倒な作業はしたくない」という感覚を大切にしてほしいと思います。面倒な作業は、ITツールの導入で解決することも多い。でも、その「面倒な作業」に気づかなければ何も始まりません。「面倒だな」と感じたら、そのことを税理士や中小企業診断士、商工会・商工会議所など身近な支援機関に相談してみてください。まずは行動を起こすこと、これがIT化の第一歩です。

そして、事業者を支援する立場の方にお伝えしたいのは、「支援先のメリットを提示してあげる」ことの大切さです。押し付けの提案では動いてもらえません。どんな小さなことでもよいので、支援先にとって本当にメリットとなることを提案してあげることが大事だと思います。

[企業DATA]
加藤博己税理士事務所
設立:2018(平成30)年6月
URL:https://katoh-tax.com/

[認定経営革新等支援機関について]
登録年月: 2023(令和4)年10月27日