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特集

2025年版中小企業白書でデジタルについて述べられたこと

  • 2025年5月29日
  • 中小機構 中小企業支援アドバイザー  村上知也
  • 白書
  • デジタル化

2025年の中小企業白書・小規模企業白書が発表されました。

第2部のテーマは以下の2つとなっています。
【1】中小企業の経営力
【2】スケールアップへの挑戦
中小企業の経営力を高めていくことと、事業の規模を大きくすることについて説明されています。

DXやデジタル化についてどのように取りあげられたかを中心に確認していきます。

2025年の白書のテーマは?

2025年版中小企業白書・小規模企業白書が発表されました。https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/

冒頭の概要を確認します。https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/chusho/01Hakusyo_gaiyo_web.pdf
”円安・物価高の継続、「金利のある世界」の到来による生産・投資コスト増、構造的な人手不足など、中小企業・小規模事業者が直面する状況は依然として厳しい。一方で、地域経済・日本経済全体の成長の観点から、雇用の7割を占める中小企業・小規模事業者への期待は大きい。激変する環境において、経営課題を乗り越え成長を遂げるためには、自社の現状を把握して適切な対策を打つ経営力が求められる。”

第2部のテーマにもなっていますが「中小企業の経営力」の向上が今年の白書の大きな項目だと言えます。経営者の個人特性、戦略立案、組織人材面に関する経営力アップが強く求められています。


上記の図表は、白書の概要を参照して著者が独自に図表化したものですが、以下は生成AIに白書の概要を入力し、A4横1枚に収まるインフォグラフィックとして整理したものです。今回著者が利用した生成AIはClaudeデジタルです。

少し文字が見切れているところもありますが、自分でまとめなくてもわかりやすい図表を作ってくれるようになりつつあります。

(出典)Claudeで生成した図表

なお、生成AIのClaudeで作成した図表は、SVG形式でダウンロードできますので、編集できるソフトをお持ちの場合は、図の位置や文字の訂正も行うことができます。

白書でデジタル化についてはどのように語られたか?

今回の白書の大テーマは経営者の経営力アップとともに、スケールアップへの挑戦が挙げられています。そのため、デジタル化についても企業のスケールアップを実現するための要素と捉えられているのではないでしょうか?

(出典)「2025年版 中小企業白書の概要」から引用(筆者加筆済)

ここ10数年の白書内でデジタル化についてどのように述べられてきたか確認します。

当初はITを活用して売上を拡大し、生産性の向上を目指すという記載が多かったですが、2021年以降はデジタルという表記になりました。
特にコロナ直後は事業を続けるためにデジタル化は必須という内容となっています。そして2022年には共通基盤としてのデジタル化ということでインフラのように誰もが使うものだとしています。

その後は、デジタル化よりもDXに関する記載が増えています。まずデジタルという内容ではなくなり、事業を変革しスケールアップするなかで、デジタルを当然使っていく、という流れになっています。そのため、デジタル化への言及は白書内で減少しています。

(出典)「2025年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」より引用(筆者加筆済)

とはいえ、人手不足の深刻化に伴い積極的な設備投資・デジタル化により労働生産性を高めていこうという、2018年度版中小企業白書で扱われた「生産性革命」以来の変わらないメッセージについても少しだけ記載されています。

白書内のデータを確認

それでは白書内に掲載されたデジタル関連のデータをいくつか確認します。

デジタル化取り組み段階

デジタル化の取り組み段階は4つに分類されています。段階1はアナログで、段階4になるとDXとなります。ここ数年で段階1の企業はかなり減少し、2024年の調査では12.5%となっています。最低限のデジタル化には取り組んでいる事業者が増えていると言えるでしょう。

一方で、段階4のDXは増えていません。調査の母集団が異なるとは言え、むしろ数値的には減少しています。DXという言葉の認識が揺れている面もありますが、DXに取り組んでいると自信を持って回答できる事業者は増えていません。

(出典)「2025年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」から引用(筆者加筆済)

スケール別のデジタル化

また、今期は「スケールアップ」が大きなテーマとなっていることから、企業規模別におけるデジタル化の取り組み段階に関するデータも掲載されています。言うまでもありませんが、一般的に企業の規模が大きいほど、デジタル化が進んでいる傾向にあります。

たとえば、年商100億円規模の企業では、段階1の「アナログ企業」はほとんど見られず、段階3の「デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる」企業が多くを占めています。

しかしながら、それでも段階4にあたる「DX(デジタルトランスフォーメーション)事業者」と呼べる企業は、わずかしか存在していません。

(出典)「2025年版中小企業白書」第2部.第2章より引用

スケール別のデジタル化取り組み内容

それでは、どのような分野でデジタル化の進展に差が生じているのか、企業規模別に見ていきます。                                                                                

(出典)「2025年版中小企業白書」第2部.第2章より引用(筆者加筆済)

①分かりやすい例としては、コミュニケーションツールやセキュリティツールが挙げられます。これらは、ある程度の規模に達した企業にとって必要性の高いツールとなっており、年商100億円以上の企業ではおよそ6割が導入しています。

② 受発注業務やバックオフィス分野においても、年商100億円企業は年商10億円企業に比べて、導入が倍以上進んでいます。しかしながら、100億円企業であっても導入率は約4割にとどまっており、段階3へと進むためには、これらの分野におけるデジタル化を着実に進めることが求められます。

③ 生成AIやRPAといった最新のツールに関しては、企業規模によって導入状況に大きな差が見られるものの、年商100億円企業であっても導入はまだ始まったばかりの段階です。この分野は、企業の規模を問わず、積極的な取り組みが求められる分野と言えるでしょう。

 ソフトウェア投資比率

では、企業はどの程度デジタル化やソフトウェアに投資すればよいのでしょうか。ここでは、ソフトウェア投資比率に関するデータがあります。ソフトウェア投資比率とは、全体の設備投資額のうち、どの程度の割合をソフトウェアに投資しているかを示す指標です。

日本では、ハードウェアへの投資が多く、その分ソフトウェアへの投資は諸外国と比較して少ないと指摘されています。

(出典)左図:「2025年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」から引用
    右図:「2025年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」を基に著者作成

しかし近年では、ソフトウェア投資比率は徐々に高まってきていました。ただし、2024年についてはわずかに減少しています。この理由として、調査対象となったサンプルの母集団が異なることが影響していると考えられますが、コロナ禍で導入したソフトウェアを継続して使用しなかったケースも要因の一つと考えられます。たとえば、ZoomなどのWeb会議システムを一時的に有料契約していたものの、最近では利用頻度が低下したために解約したという事例もあるかと推測されます。

もちろん、使用していないソフトウェアを契約し続ける必要はありませんが、生成AIなどを含め、今後もソフトウェアへの積極的な投資が求められていると言えるでしょう。

まとめ

本記事では、2025年版の中小企業白書におけるデジタル関連の話題について確認しました。

2018年版中小企業白書に掲げられた「生産性革命」や、2021年版中小企業企業白書の「感染症対応における事業継続」の視点からも、デジタル化に関する内容は大きく取り上げられてきました。そして近年では、デジタルはすでに水道や電気などのインフラと同様に、当たり前に使われる段階に達しつつあるといえます。

2025年版の白書では、デジタル化に関する記述はそれほど多くはありません。これは、一定程度のデジタル化がすでに進んでおり、次の段階、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)へと移行すべき時期に入っていることを示しているといえます。特に、スケールアップして年商100億円を目指す企業にとっては、DXは喫緊の課題であるといえるでしょう。

一方で、多くの小規模事業者やその支援者の間では、依然としてデジタル化の対応に遅れが見られます。支援者の立場においては、まずは自らのデジタル化を進めるとともに、小規模事業者に対するデジタル化の伴走支援が、今後も強く求められています。