デジタルガバナンス・コード 〜デジタルを踏まえた経営ビジョンを作るために
- 2022年8月8日
- 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 村上知也
- デジタルガバナンス
- DX
2020年11月9日に、経済産業省で「デジタルガバナンス・コード」が取りまとめられました。
本記事ではその概要を紹介します。
ガバナンス・コードとは?
そもそも、ガバナンス・コードとは何を指すのでしょうか。日本語訳では、統治規約となるでしょうか。デジタルの前に、この言葉で聞き覚えがあるのは、コーポレートガバナンス・コードではないでしょうか。
コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)においてガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したものです。2015年に金融庁と東京証券取引所が共同で「コーポレートガバナンス・コード原案」が公表されました。
この原則・指針によって、企業が透明性を保ち、適切に企業統治に取り組んでいるかどうか、外部からでも明確に分かるようになります。
コーポレートガバナンス・コードの特徴としては、(1)原則のみを定め、細部はそれぞれの企業に任せるという考え方と、(2)全ての原則に対する遵守義務はなく、なぜ遵守しないかを説明する、というものです。
規約と言っても、いわゆる法律のように、遵守がもとめられるものではなく、企業統治は企業それぞれに適合したやり方があるでしょうから、このような特徴を定めたのでしょう。
デジタルガバナンス・コードも同様と言えるでしょう。デジタル化を図るのに、杓子定規なやり方を求めるものではなく、経営者にデジタル化の取組や心構えを求めたものと言えます。
デジタルガバナンス・コードを制定した理由
デジタルガバナンス・コードの冒頭には、コードを制定した理由や背景が述べられています。
あらゆる要素がデジタル化されていく世の中において、ビジネスモデルの抜本的な変革が求められています。そのため、企業が自主的にDXに取り組んでいけるように、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応をまとめたものとしています。
(デジタルカバナンス・コード(経済産業省)p.1の内容を一部引用抜粋して著者が改変)
なかなかに概念的な言葉が続いて難しいですね。DXへの取組は経営者が中心となって進めることが求められているため、経営者自らがデジタルを踏まえた経営ビジョンを作ってほしい、ということでしょう。
デジタルガバナンス・コードの3つのポイント
具体的にデジタルガバナンス・コードでは、次の3つのポイントに取り組むことが挙げられています。
①ITシステムとビジネスを一体的に捉え、新たな価値創造に向けた戦略を描いていくこと
②ビジネスの持続性確保のため、ITシステムについて技術的負債となることを防ぎ、計画的なパフォーマンス向上を図っていくこと③必要な改革を行うため、IT部門、DX部門、事業部門、経営企画部門など組織横断的に取り組むこと
※デジタルガバナンス・コード(経済産業省)p.1より引用
この3つの内容を噛みくだいて記載すると以下となります。
①について
事業再構築、ビジネスモデルの変革、となんと言っても構いませんが、事業やビジネスモデルを考える上で、デジタルを一緒に考えないわけにはいかないでしょう。
②について
技術的負債を避けること。ホストコンピューターなどのレガシーシステムで構築した仕組みをリニューアルできず、その結果、デジタルを改革できないためにビジネスモデルの変革ができなかった、という逆転の現象も多発していました。今後、取り組んでいく際には、こういった失敗を繰り返さないことが求められます。
③について
経営層のトップダウンを含め組織横断的に取り組むことが必須と言えます。営業部だけで変革、製造部だけで変革といった部分最適化を積み重ねていっても、全社横断的な全体最適化の実現は難しいでしょう。
どれももっともなことですが、実際に取り組んでいくには難しい3つのポイントとも言えるでしょう。ではこれらを実現していくためには、どうすればいいのでしょうか。
次の4つの柱にまとまっています。
デジタルガバナンス・コードの柱立て
以下に示す4つの柱ごとに、デジタルガバナンス・コードが記載されています。
デジタルガバナンス・コードは(1)基本的事項(①柱となる考え方、②認定基準)、(2)望ましい方向性、(3)取組例、といった3つの項目で整理されています。
(デジタルガバナンス・コード(経済産業省)p.2の図を基に著者が作成)
では実際に、「1.ビジョン・ビジネスモデル」についての「柱となる考え方」と「望ましい方向性」の内容を見てみましょう。
以下にデジタルガバナンス・コードから(1)(2)の内容を抽出しました。
(1)「ビジョン・ビジネスモデル」の柱となる考え方
企業は、ビジネスとITシステムを一体的に捉え、デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえた、経営ビジョンの策定及び経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルの設計を行い、価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示していくべきである。
※デジタルガバナンス・コード(経済産業省)p.3より引用
(2)「ビジョン・ビジネスモデル」の望ましい方向性
・経営者として世の中のデジタル化が自社の事業に及ぼす影響(機会と脅威)について明確なシナリオを描いている。
・経営ビジョンの柱の一つにIT/デジタル戦略を掲げている。
・既存ビジネスモデルの強みと弱みが明確化されており、その強化・改善にIT/デジタル戦略・施策が大きく寄与している。
・事業リスク・シナリオに則った新しいビジネスモデルの創出をIT/デジタル戦略が支援している。
・IT/デジタルにより、他社と比較して持続的な強みを発揮している。
・多様な主体がデジタル技術でつながり、データや知恵などを共有することによって、さまざまな形で協創(単なる企業提携・業務提携を超えた生活者視点での価値提供や社会課題の解決に立脚した、今までとは異次元の提携)し、革新的な価値を創造している。
※デジタルガバナンス・コード(経済産業省)p.4より引用
読んでみて、いかがでしょうか?一般的なビジネスモデルの描き方についての心構え集になっているのではないでしょうか。
外部環境の機会と脅威を把握した上で、内部環境である強みと弱みを把握します。そのうえで、ライバル企業と比べて「持続的な強み」を構築していくというのは、ご存知の方も多い内容だと思います。
一方で異なっているのは、それぞれにデジタル視点を持って考えようということが強調されている点です。
このような構成で、同様に、2.戦略、3.成果と重要な成果資料、4.ガバナンスシステムについての記載が進んでいきます。
まとめ
デジタルガバナンス・コードは以下のURLから全文を確認することができます。デジタルガバナンス・コードの資料は全体で13ページほどですので、経営者の方々には一通り目を通して欲しいと思います。
新しくビジネスモデルを考える際には既存の延長線上でしか考えられなかったり、デジタルを活用する視点が抜けてしまったりすることも多くあります。
そうならないためにも、大きな事業の方向性を考える際にはデジタルガバナンス・コードを改めて一読いただくと、思考の幅が広がるのではないでしょうか。