もはや調理器具?活用の幅が広がっている3Dプリンタについて
- 2022年7月6日
- 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 野村真実
- 3Dプリンタ
- 造形
3Dプリンタは、デジタルデータから立体の造形物を直接作り出す装置です。
コンピュータに取り込まれた3Dデータをミクロン単位の薄い断層データに分解し、これに沿って樹脂や金属粉末などを少しずつ積層しながら立体形状に仕上げてゆく3D積層造形技術が、一般的に使われています。
最近では、食品素材を材料に調理できる3Dプリンタも登場しています。
1980年代に登場した3Dプリンタですが、当時は周辺技術が揃わず、価格も数千万円と高価で普及しませんでした。それが昨今、数十万円、数万円に価格低下したことで、注目されるようになったのです。また、従来、素早く試作する「ラピッド・プロトタイピング」が主な用途でしたが、最近は精度も上がり材料の選択肢も増えたことで、素早く生産する「ラピッド・マニュファクチャリング」へと用途を広げつつあります。
3Dデータはネットを介して自由にやり取りできます。例えば、地上で作られた設計データを使い国際宇宙ステーション(ISS)に設置された3Dプリンタで、工具や補修部品が作られるようになりました。また、「もの作りの民主化」が進み、産業のあり方を根底から変えてしまうという意見も聞かれるようになりました。
ロボット同様、3Dプリンタは、コンピュータと人をつなぐ新しいUI(ユーザー・インターフェイス)として、今後も注目されてゆくことになるでしょう。
各業種での用途
すでに実用化されている各業種での用途には、次のようなものがあります。
・製造業
CAD(コンピュータを使った設計)データを元に、試作品やモックアップ、鋳物のための中子や砂型、少量生産の特注品など。金型や砂型などを用いることなく製造できるため、顧客向け限定生産品の「違う種類の製品を1個ずつ生産する」といった「究極の多品種・少量生産」にも対応しています。
・医療
コンピュータ断層撮影装置などの人体内部の立体形状データを元にした手術前検討用臓器模型、患者個別の移植用人工骨格などで一人一人に合ったものを提供しています。
・建築業
提案、説明のための建築模型が主流でしたが、最近では大型プリンタにて1日で建設する住宅(外側のみ)が注目され、特に震災時に仮設住宅作りなどに期待されています。
・飲食業
3Dフードプリンタと呼ばれており、ペースト状や粉末の食材から手作業では出来ない複雑な形に作り、まずスイーツ分野から提供が始まりました。現在では、植物由来の肉や魚をベースに生産し、同じ舌ざわり、食感、味、栄養価を再現できるようになりました。
造形方式別のコスト
導入コストは、造形サイズや対応材料の種類、造形方式によって異なりますが、基本的に価格と性能(高精細、強度、大きさ、使える材料 等)は比例します。
ランニングコストは原材料費と稼働環境面(後処理の有無、恒温維持など)で変わるので、事前調査が必要です。
代表的な造形方式は下表のとおりです。
表 3Dプリンタ造形方式一覧
費用対効果の考え方
上記のコストと得られる効果を鑑み、導入を検討していきます。下記の通り、ニーズに対する幅が広がったり、納期が短縮出来たり、場所の制約がなくなるなど、想定される売上や利益率向上への効果を見積もってみましょう。
(1)金型なしでも試作品や製品を造形⇒コスト削減
(例)金型や砂型などを用いることなく製造できるため、 試作(モックアップ)や顧客向け限定生産品の「違う種類の製品を1個ずつ生産する」といった「究極の多品種・少量生産」にも対応
(2)新しい発想をスピーディに造形⇒納期短縮
(例)1つの製品の中に違う材料を共存させることができるので、これまでにない特性をもつ新しい材料やモノの製作が可能。 切削工具が届かない、硬くて加工が難しいなど、複数のパーツを組み合わせて作っていた立体を「一体造形」可能
(3)3Dプリンタの置ける場所ならどこでも造形⇒制約撤廃
(例)製造工場から離れた現場(組み立て場、建築現場など)でその場で必要なモノが調達可能
導入前の前提条件
3Dプリンタ導入後にこんなはずではなかった。と後悔しないように、下記の点を今一度確認してみましょう。
- 造形スピードが遅いので、大量生産には向きません(1点ものなどを得意とする)
- 安いプリンタは精細さに乏しく、粗さが目立つ
- 材料を1層ずつ積層していくので、材料によっては強度に問題あり(特に側面)
- 原材料保管や造形環境の温湿度管理でコストがかかる
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データ作りのために3DCADのモデリング知識が必要
日々進化していく世界ですので、まずは体験できる施設などで実物を見て、運用面のノウハウなどもヒアリングした上で、導入を検討してみてください。