人手不足の中でインバウンドにデジタルで対応する
- 2023年10月27日
- 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 山本正人
インバウンド需要の増加と人手不足、日本の宿泊業はこの2つの課題に対応していく必要に迫られています。1つでも十分に難しい課題を2つ同時に…、このとてつもない難題に対してどうすれば良いか、その解決策を考えていくと「デジタル技術を上手く活用できないか」という考えにたどり着くはずです。この2つの課題を抱える中小宿泊業にとって、デジタル技術の活用は必要不可欠と言えるでしょう。そこで今回の記事では、宿泊業における「インバウンド対応」と「人手不足解消」の両方に効果が期待できるデジタル技術について紹介します。
業態や企業の特性に沿ったデジタル活用を
宿泊業と一言に言ってもシティホテル、リゾートホテル、ビジネスホテル、旅館、民宿、ペンション、簡易宿泊施設…と様々な業態があり、また同じ業態でも規模や立地、コンセプトなどは企業や施設によって多種多様です。それぞれの特性によってどのようなデジタル技術が効果を上げるかは異なります。
例えば、自動チェックインシステムは客室数の多いビジネスホテルでは効果を発揮しますが、手厚い接客が重視される旅館には馴染まないかもしれません。ごく少人数で運営する小規模な宿泊施設では、自動チェックインシステム導入の必要性そのものが低いといえるでしょう。デジタル技術が効果を上げるには、業態や規模など、企業・施設の特性に合った製品を選定することが重要です。
インバウンド対応と人手不足のデジタル活用による解消策
ここでは、増加するインバウンド顧客への対応と人手不足の課題を抱えている事業者が多いと思われる中小規模のビジネスホテルや旅館を想定して、両課題に対応しうるシステムをいくつか紹介します。
(1)自動(セルフ)チェックイン・チェックアウトシステム
フロント従業員が受け付ける代わりに、お客様が自ら画面を操作することでチェックイン・チェックアウトの手続きを行うシステムです。スマートフォンやタブレットを利用してお客様が入力だけを行うものから、専用の機器により精算、領収書やキーの配布まで完全無人対応できるものまで様々な種類があります。画面表示や音声を多言語対応することでインバウンドへの対応が可能で、省力化と同時に言語の相違によるコミュニケーショントラブルも防止できます。
特に、客室が多く低コスト・効率が求められるビジネスホテルでは効果が期待できますが、旅館や高級ホテルなどの接客や会話を重視する施設には不向きな面があります。種類が多く費用も様々なので、費用対効果をよく考え、施設に合った製品を選びましょう。
(2)客室向けテレビシステム
客室に設置するテレビの画面に施設案内などを表示するシステムです。多言語対応することにより、お客様に合った言語で表示することができます。紙媒体での案内に比べて印刷や情報差替えの手間がかからず、限られたスペースの中でより多くの情報を伝えられるメリットがあります。外国人から従業員がよく受け付ける問合せの回答なども掲載しておけば、従業員の対応やコミュニケーショントラブルも減らすことができるでしょう。
(3)PMS(ホテルシステム)・顧客データベース
様々な情報を管理し従業員間で共有することで効率化が図れます。特に旅館においては、お客様からいただいた要望、食の好み、アレルギー等を記録しておくことで、一人一人に対して木目の細かいサービスを属人化することなく提供できることに加え、蓄積された顧客情報を分析することで、国や地域による嗜好などを把握して効率よくかつ質の高いサービスの提供が可能となります。
(4)予約システム
多言語設定機能が搭載されている予約システムを導入することにより、必要な情報は自動的に翻訳されるため、翻訳の手間が省ける、言語に堪能な従業員がいなくてもでも対応できるなど、インバウンド対応と人材不足対応の両面で効果が期待できます。予約から決済まで一貫して対応できるシステムであれば、さらに生産性は高まるでしょう。
(5)客室タブレットシステム
ホテルの客室内に設置するタブレット端末により飲食や備品の注文、従業員への連絡から空調・照明コントロール、目覚まし機能、周辺の観光情報の提供などができるシステムです。多くのシステムが多言語対応すれば、外国人観光客もストレスなく快適に利用でき、コミュニケーションで苦労することも減らせます。お客様が登録した情報を(3)の顧客データベースに連携すると一層高い効果が期待できます。
(6)翻訳機
端末に向かい話すと自動的に翻訳された言葉で音声が発せられる機器です。宿泊業に特化したツールというわけではないですが、お客様の言語が分かる従業員がいない場合でも、備品が壊れた、設備の使い方が分からない、水のトラブルなどイレギュラーな対応が可能となります。
70~80言語ほどに対応しており、いざという時に外国語ができる従業員を確保できない施設でも対応が可能となりますし、シフト上で常に対応できる従業員を配置する必要がなくなるので、施設に1台置いておくと良いでしょう。数千円程度の安い機種でも翻訳の精度は十分に高いです。また、専用の翻訳機がなくともスマートフォン等で利用できる翻訳アプリも提供されています。
デジタル技術を上手く活用すれば生産性は上がる
以上、インバウンド増加と人手不足という2つの課題に対応する対応策を紹介してきました。
内閣府が2021年4月に公表した「宿泊施設におけるIT活用と生産性に関する研究」によれば、
・ビジネスホテルでは、多種のツールを全て積極的に使うか、メリハリをつけて使っている企業の生産性は高い。
・旅館では、特に課題となっている業務に特化してデジタル技術を適用している企業の生産性が高い。
といった実証研究成果が報告されています。宿泊業を対象としたシステムやサービスも増えており、日々進化しています。デジタル技術を上手に活用することで、インバウンドに対応していきましょう。