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特集

金融機関との連携強化で数字に基づく伴走支援を

  • 2024年1月11日
  • 久保武徳税理士行政書士事務所 様[ 鹿児島県 ]
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今回は、鹿児島市の久保武徳税理士行政書士事務所(所長:久保武徳先生、写真中央)と地元金融機関である鹿児島相互信用金庫(融資部 村山部長、写真左・企業サポート部 吉永課長、写真右)にも同席いただき、認定経営革新等支援機関である税理士と金融機関との連携についてお話を伺いました。

会計事務所・金融機関それぞれの経営支援

—認定経営革新等支援機関に登録されたのはいつですか?また、登録された理由をお聞かせください。

2005(平成17)年12月に税理士事務所を開業し、2013(平成25)年2月1日に認定経営革新等支援機関として登録しました。認定経営革新等支援機関制度が始まった翌年のことです。

私の出身は鹿児島県徳之島で、父は土木建築の会社を経営していました。最盛期には億を超える売り上げがあったものの、赤字経営だったというのが実状でした。金利の高いノンバンクが1万円でさえ貸してくれないほど資金繰りに苦労していたことを記憶しています。

そんな父の姿を見て、近くに顧問先の税理士先生もいるのに、どうしてうまくいかないのだろうかと疑問を抱く少年期を過ごしました。経営者というのは専門分野で仕事を動かす才能はあるのに、利益計算が苦手であったりうまく生かしきれていなかったりするケースが多いものではないでしょうか。そうした考えから、数字の面から企業の経営支援に積極的に携わりたいと税理士の道を志し、現在に至ります。そして、認定経営革新等支援機関制度が開始されたとき、これこそが、税理士の取り組むべき本来業務だと思い、認定支援機関として登録をして取り組み始めました。

—早期経営改善計画と経営改善計画の実践件数をお教えください。

昨年は、早期経営改善計画16件、経営改善計画15件に取り組みました。
早期経営改善計画から経営改善計画に移行したところや、B/Sの計画詳細が必要となるところも出てきたというのが実状です。

—ここで、鹿児島相互信用金庫(金融機関)の方にもお話をお聞きしたいと思います。
① 金融機関としての早期経営改善計画策定支援取り組みについてお聞かせください

当金庫は、金融業務を通じて「地域社会の繁栄に奉仕する」という基本方針のもと、地域の中小企業や個人のお客様へ安定した資金供給を行うこと、そして非金融面においても地域の活性化のための各種事業を積極的に展開することが、地域金融機関として最も重要な社会的使命と考え、あらゆる方面から取り組んでおります。

久保先生との連携体制が始まったのは4、5年前からです。資金繰りが不安定だったり、業績不振に陥っていたりして経営改善支援が必要なお客様には、久保先生に経営改善支援をお願いし、事業計画策定支援や経営会議等の参画を含め、ご指導・ご支援いただいています。

税理士先生との連携強化のメリットは、大きく二つあると思います。
一つ目は、第三者である会計の専門家として提供される適時正確かつ信頼性のある財務データの確保です。二つ目は、事業計画策定支援だけにとどまらず、その後の伴走支援型のモニタリング支援が継続的になされていることです。この伴走型支援ができることは、お客様である企業にとってはもちろんですが金融機関としても大変心強く感じています。

②金融庁が策定した「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(監督指針)では、地域密着型金融の「顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮」等の取り組みが求められています。その具体的取り組みについてお聞かせください。

当金庫の中小企業の経営支援に関する取り組み状況として、
1. 創業・新規事業開拓支援
2. 成長段階における本業支援
3. 経営改善・事業再生・業者転換等の支援
4. 事業承継支援等、様々な活動を行っています。
特に、「 経営改善・事業再生・業者転換等の支援」について、営業店、企業サポート部連携により、お客様との経営会議等における経営改善提案等を通じて、事業計画策定支援を実施しております。

参考:鹿児島相互信用金庫「令和4年度中小企業の経営の改善及び地域の活性化のための取組みの状況」

③金融庁は、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(監督指針)を一部改正し、今年2023年の4月から適用しています。特に経営者保証に依存しない融資の取り組みについてお聞かせください。

金融庁の監督指針の一部改正を受け、今年の4月から当金庫の体制もがらりと変わりました。
経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた取り組みにチャレンジしています。まず保証人を立てないことや、どうすれば経営者保証を解除できるのか、事業そのものものに目を向け、いかに評価していくかが重要です。まだまだ取り組み段階ですが、新規の事業性融資の内、6割ほどは保証人を立てずに行っています。

「経営者保証のガイドライン」適用の3要件に、①法人個人の一体制の解消、②財務基盤の強化、③財務状況の適時適切な情報開示が挙げられています。これらの要件をクリアするのは、金融機関だけでは難しく、中小企業の最も身近な相談相手である顧問税理士による適切な助言や指導に対する期待は大きいと考えています。

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経営者から資金繰り業務を取り払い 本来業務に集中させる
 ~税理士と金融機関連携~

—税理士と金融機関との連携強化による経営改善計画策定支援の取り組みについてお聞かせください。

中小企業の経営計画や資金計画の策定支援を認定支援機関登録の税理士が行い、地域金融機関は「血液」である資金を供給し、これらの計画実行を後押しします。まさに、金融と経営支援の一体的取り組み(リレーションシップ・バンキング)が推進されます。

経営に苦しむ経営者は、一日たりとも資金繰り業務から解放されることがありません。気が休まる暇がないというのが実状です。その経営者から資金繰り業務を取り払い、本来業務に専念していただくことこそが税理士の役割であるとも思っています。それには、金融機関との連携強化が必要不可欠となります。

IT化支援(見える化)が意識改革と経営改善をもたらす

—経営改善に直結するIT化支援(見える化)について具体的な事例をお聞かせください。

【概要】
土木工事業 A社
10年以上におよぶ経営改善支援を通して、コロナ禍にあっても、利益を見込める財務体質に転換しつつある。一時は2億円まであった借入金も完済した。

【課題】
工事ごとの原価管理ができていなかった等から、業績が低迷し資金繰りも悪化。経営改善計画策定支援を提案したことがきっかけで、支援が始まった。

【対策①】
IT化支援(見える化):財務会計と建設原価計算との連携システムの導入

経営者にご説明するとき、経営をダイエットに例えてよくお話ししています。自分自身が痩せているのか太っているのかを体重計で測って、数値として現状を認識しなければ、ダイエットを始めても効果が出ているかどうかが分からず、対策を打とうにも手遅れになってしまいます。自分たちの問題を自ら正確に把握することが必要なのは経営も然り。自社で会計を管理するIT化支援(数値の見える化)をすることが、経営改善の第一歩と捉えています。
仕訳を日々入力していくうちに、数字を見るくせがついて、経費の二重計上や、後回しになっていた処理が浮き彫りになることがあります。この地道な日々の取り組みから問題を発見することから経営改善が始まります。

A社は、原価管理の改善に取り組むために、建設業特有の会計処理ができるシステムを導入し、現場別工事台帳をもとに実行予算との差異を確認しながら、現場ごとに利益が出ているかどうかをチェックし、利益が見込めないときは原因を掘り下げるという取り組みを行いました。

例えば、担当者が現場で値引き交渉を行ったとしても、取引先から後日送られてくる請求書に値引き額が反映されていないケースが発生すると、システム導入以前は請求書に記載された金額どおり支払ってしまうこともありました。しかし、導入後は請求書を精査してから支払うように改めています。

【対策②】
「工事現場の管理ソフト」「現場別工事台帳のシステム」の導入による事務作業の効率化

現場作業を行う従業員が、スマートフォンで現場状況を撮影し、撮影直後にその場でクラウドを経由して写真をアップロードできるよう、工事現場の管理ソフトを導入しました。導入前は、撮影した画像を事務所に戻ってからパソコンに取り込んで工程別に整理する必要があったため、残業の要因にもなっていました。導入後は書類作成にかかる時間も短縮され、効率化を図ることができています。
現場別工事台帳のシステムは、自社で作成している現場概況報告書や工事別月報、月間シフト表を用いながら、各現場の進捗と利益率を確認できるものです。数値による意識を持つことができ、会社全体の共通認識にも繋がっています。

【対策③】「工程会議」の毎月開催

現場責任者も出席して毎月開催しているのが「工程会議」です。
期末の目標売上高の達成がむずかしい場合、材料費の削減等、粗利益額を減らさないために現場でできる対策を話し合い、従業員が数値による原価意識を持つだけでなく、お互いが現場の状況を知り、助け合う雰囲気を醸成することにも役立っています。

会計事務所の経営改善支援は、基本的な伴走支援がポイント

—認定支援機関の会計事務所に対し、中小企業への経営改善計画に取り組む留意事項、アドバイスがあればお聞かせください。

昨今は情報技術の進展によるITの活用が進められていますが、IT化できるものと、IT化できないものがあると考えています。
IT化できるものには、事例にある①IT化支援(見える化)の財務会計と建設原価計算との連携システムの導入や②「工事現場の管理ソフト」「現場別工事台帳のシステム」の導入が該当します。一定のルールに基づいてシステム化できるものとなっています。
一方、③「工程会議」の毎月開催は、人と人とのコミュニケーションであり、IT化できないものです。現場担当者と経理担当者は、立場も違えば意見も違います。お互いがお互いの状況を知り、改善のための対策を話し合うというような空気を醸成することなどはIT化することができません。

会計事務所が中小企業への経営改善計画支援に取り組む重要なポイントは、以下の3つだと考えています。


【ポイント1】
計画段階で方向性を示す(羅針盤)
まずは経営改善までの方向性を示し、そこに向かうための体制作りが必要となります。計画に落とし込む段階では具体的な数値がどうしても伴いますが、まずは税理士が羅針盤となって、中小企業が進むべき道を示すことが大切です。

【ポイント2】
経営者のマインドを変える(意識改革)
経営者を資金繰りの悩みから解放するという意識改革も重要です。つい、明日の資金繰りのことばかり考えて、本業に意識が向かなくなるケースも多いですが、本業から資金を得ることこそが経営改善のポイントです。本業へ集中してもらうため、税理士は支援者であることを理解してもらった上で資金繰りを任せてもらっています。

【ポイント3】
定期的・長期的な伴走型支援
基本的な経理業務ができていない中小企業もあるため、顧問先に直接訪問し、当たり前のことを当たり前に行える体制が整うように、継続的に地道な支援をしています。
例えば、「やることリスト」の活用(毎月記帳に行く、毎日伝票をその日のうちに処理、紙類は分類するなど)など、日頃の簡単な業務改善から始め、それを繰り返していくことが意識改革に繋ります。
当事務所の経営改善計画支援先では、「やることリスト」の支援は例外なく実施しています。地道で根気のいる活動ですが、経営者を助けたいという気持ちで取り組んでいると、徐々に成果が現れてきます。


ごく当たり前のことのようですが、このような地域企業に密着した伴走型支援が、経営者の意識が変わり、業績が改善されていくことに繋がっています。私自身も多くの経営者から教わり経験してきたことです。

今後も、地域金融機関との連携強化を通して、地域の中小企業の永続的発展に貢献していきたいと思います。

[企業DATA]
開業: 2005(平成17)年12月
URL:https://takenori-k.tkcnf.com/

[認定経営革新等支援機関について]
登録年月: 2013(平成25)年2月1日
登録理由 : 経営革新等支援業務 / 経営改善計画書策定