加藤さん お店を継ぐ前は、小さなデザイン会社で会報誌等の編集業務をしておりました。お客様へのインタビューや撮影など、素人ながら仕事としてやっておりましたので、その経験が活かせる方法はないかと考えておりました。そこで、オンラインショップならば、自分でもできるのではないかと思い、始めました。
【課題】出生率の低下などの影響から実店舗だけでは先細りするだけ
加藤さん 「日本の地方都市では人口流出、出生率の低下が見受けられますが、市原市も例外ではなく、店頭販売だけでは先細りしていく状況だったため、3年前に全国のお客様に販売ができるオンラインショップ開設を考えました。それまでは実店舗だけでなんとかやってこられたのですが、2016年に一念発起してオンラインショップを立ち上げました。
周囲の同業者の大半は大手ショッピングモールに出店していましたが、私は自社の強みをより押し出したサイトを創りたいと思っておりました。“どのようにすれば良いか”の情報も無いまま全て独学で行っていましたので、オンラインショップ開設前も、開設後もとても大変でした。」
【導入】導入コストを抑えるため独自でオンラインショップを開設、SEO対策(検索エンジン最適化)で苦労
加藤さん 「大手ショッピングサイトに出店し販売するより、イニシャルコストもランニングコストも少なく抑えることができました。比較的低コストで始められたのが、オンラインショップ導入の1つの理由でもあります。その分、大手ショッピングサイトが提供している
、サイト構築、決済代行、商品デリバリ代行などといった開店にともなう調整事を全て独自でやらなければならないのは大変でした。
お客様が検索された際に、弊社のオンラインショップや、セールスポイントを上位に表示させるための「SEO対策」で随分苦労しました。そのため、SEO関連の書籍はたくさん読みました。“この方法をやってみよう、あの方法をやってみよう、上位に上がってきたから今度は併せ技でやってみよう”と、1年目はまさにトライ&エラーの繰り返しでした。
オンラインショップの一番の利点は、お客様と対面販売するよりも、より具体的な数値で分析ができる点だと思います。数字のすべてが正解とは限らないのですが、統計をとった上での対策の方が、確実に効果の出る確率が高くなります。
実店舗だけで販売していたときは、お店のPRは新聞の折り込みチラシのみ。チラシの配布エリアを広げていくことで、新規顧客を開拓するしかありませんでした。欲張って配布エリアを広げれば、それだけ広告宣伝費が嵩むわけです。そこに限界を感じていました。オンラインショップはそれより低価格でPRができるので、よりオンラインショップに注力するようになりました。」
【効果】オンラインショップで商品を見て、実店舗に来るお客様が増えた
加藤さん 「本当は実物を確認してから購入いただくのがベストだと考えています。オンラインショップだけで購入を決めるのではなく、実際に店舗に足を運んで見ていただきたいという気持ちです。そのためには商品に興味を持ってもらえるような工夫が必要で、オンラインショップに載せる商品の写真の撮り方を工夫したり、商品の背景にあるストーリーを文章で見せたりといったことを行いました。
開設して1年目、オンラインショップの方向性について悩んでいた時期、取引先の方に中小企業診断士の方をご紹介いただき相談しました。そして、一緒にオンラインショップの方向性を考え、構築していきました。具体的には、当社の『強み』を浮き彫りにするために客観的な視点でアドバイスをいただき、キーワードをまとめていきました。
当社のオンラインショップの特徴は『文字数が多い』という点です。作り手が伝えたいこと、販売する私たちが伝えたいこと、それがきちんと伝わるようにしているので、どうしても文字数は多くなってしまいます。お客様は、その文章の中から『他にはない唯一のもの』であることを読み取ってくださいますので、商品説明に一番力を入れています。
お子様、お孫様のために良いものを買いたい、とお客様も力が入っています。大量生産品とは違うものが欲しい、職人が手間暇かけて手作りしたものを探されているお客様が多いです。そこで、職人と話をして、他社にはないもの、店頭には並ばないオリジナル品を開発しました。その開発ストーリーをオンラインショップで見せることで、遠方からもお客様が来られるようになりました。
一番遠方からお店に来られたお客様は長野県の松本から。それと、東京湾アクアライン連絡道の料金が安くなったことから東京や横浜近辺からのお客様が増えましたね。『ホームページを見て来たんだけど』と声をかけてくれるお客様が多くなりました。」
【展望】日本のモノづくりを世界に伝えるという熱意でチャレンジする
加藤さん 「将来的には、夏休みに子どもたちを呼んで、伝統工芸の技術が学べるワークショップを開催したいと思っています。また、いろいろな業界とも繋がることで、どこにもない商品、新しい文化を産み出していきたいという夢を持っています。
オンラインショップを通じて自分たちが何を伝えたいか、というのが最も大事なことです。私たちは節句品として人形を扱っていますが、もっと大きな枠組みとして日本のモノづくりを紹介したいという思いがあります。伝統工芸品、民芸品を取り上げ、クローズアップすることを常に念頭に置いてサイト創りをしています。これまで見えていなかった部分を表に出していかに知ってもらうか、それが我々小売業の役割だと思っています。
オンラインショップの運営を自分だけでやるのは大変ですが、脈々と続くモノづくりの“DNA”というのは絶やしてはいけないと感じています。伝えたいことが明確になっていれば、あとは熱意次第でどんな苦難でも乗り越えていけると思っています。同業者の皆様にもぜひチャレンジをしていただきたいと思います。」