安田さん 「70アールの畑で、年間を通じ50〜60種類の野菜を育てています。ビニールハウスを使った大量生産ではなく、そのときそのときの旬に合わせた露地栽培が特徴です。地方から出荷される野菜は店頭に並ぶまで時間がかかるので、完全な“食べ頃”の少しだけ前に収穫し、輸送中に成熟させることが一般的ですが、私たちは東京都内での生産という地の利から、本当に美味しくなる時期に収穫、お届けできることに自信を持っています。収穫した野菜は大手スーパーの他、東京都内のレストランや、レストランとお取引のある青果店にご愛顧いただいております。また自宅の庭先やイベントで直売も行っております。」
【課題】東京で作る野菜の価値を、どう高めていくか
安田さん 「大手スーパーには安定した量をお買い上げいただいておりますが、卸値はどうしても抑えられてしまいます。また自分の農園での豊作不作と関係なく、地方の生産地での出来不出来によって、価格の上がり下がりが生まれます。やはり家族4人で働いた分の人件費を考慮した上で利益を出すためには、できるだけ安定した高価格で販売することが必要です。そこで、この東京という農家が少ない地域で野菜を作っている『希少性』に付加価値を見出し、その価値をご評価していただけるお客様に、より多くお買い上げいただきたいと考えるようになりました。たまたまテレビで、地方の農家さんがホームページを作り、販路を広げているというニュースを見て、『これだ』と感じました。」
【導入】通販サイト作成ツールを活用し、IT知識無しでサイトを完成
安田さん 「まず自力でホームページを作ろうと参考書を買って読んでみたのですが、なかなか難しく、一旦は断念しました。ところがその後、東京都の『チャレンジ農業支援事業』を確認すると、専門家によるホームページ作成支援が含まれていることが分かり、申請して活用させていただきました。ホームページ開設後はテレビの取材やイベントでの直売でホームページをご案内したことなどもあり、アクセス数は増えてきました。そんな中、お客様から『通販はやってないの?』という声をいただくことが度々あったのです。でも当時は『ホームページ作りすら手に負えなかったのに、通販サイトはとてもとても…』というのが正直なところでした。ところが、妻が参加したセミナーで『BASE』という通販サイト作成ツールに巡り会えたことで、その悩みは解決しました。必要な項目を入力するだけで、簡単に通販サイトができたんです。ここで何を売るかが、次の課題となりました。」
【効果】“何をどう売るか”しっかりと考えたことが成功に直結
安田さん 「庭先の直売のように『人参ひと袋』とか『水菜ひと束』といった形でホームページに掲載しても、それぞれ送料も掛かり、お客様の気を引くことはできません。いろいろ考えた末、1カ月くらいしてたどり着いた結論が『この農園の特徴である“旬の野菜”を武器にしよう』ということでした。つまり、その時々の旬の野菜の詰め合わせを“春色”“夏色”という風に季節の名前を付けてセット販売するという方法です。これがお客様の心をうまく掴むことができたのでしょう。一度購入いただいたお客様がリピートでご利用されたり、そうしたお客様からの口コミで新規のお客様がご利用されたりと、順調に伸びていきました。またプロモーションの一環として、『BASE』の機能を使ったライブ配信もやっています。畑を巡りながら、ここでこんな野菜を作っています、この辺りの野菜が旬なのでセットにしています、などとご案内するような内容です。このライブ配信からホームページをご覧になり、購入いただくケースも増えています。」
【展望】他の農家さんと協業で“東京ブランド”の高付加価値化を
安田さん 「通販をはじめて2年弱ですが、まだまだ伸びていく手応えを感じています。やはり最初に『何をどう売るか』を考え、農園のカラーを打ち出していけたところが良かったのだと思います。実際の店舗であれば、棚を空っぽにして1カ月放っておくことはありえません。しかし、ネットだからこそじっくり品揃えを考えることができました。それが順調な滑り出しにつながったのです。ただこうした通販サイトも、ツールがなければとても手がけることはできなかったでしょう。現在はイベントの直売でもホームページと通販サイトをご案内し、やすだ農園のファンを増やす取り組みを続けています。そして次に考えているのは、私たちのように東京で農業を営む他の農家さんとの協業です。“地のもの、旬のもの”の美味しさを、ネットも活用しつつ皆でPRすれば、“東京ブランド”の農作物の付加価値をもっともっと高めることができると思っています。」
社名:やすだ農園
主な事業内容:野菜の生産、販売
所在地:東京都西東京市西原町
従業員数:4名
創業年数:1910(明治43)年
代表者:安田 弘貴