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地方ならではの特性と強みを発揮、ICT利用で新たな活路を開く

  • 2020年01月10日
  • 有限会社西﨑本店
  • 製造業
  • 決済(店頭クレジットカード)
  • 四国

四国の西端、愛媛県宇和島市内でしょう油の醸造業を営む有限会社西﨑本店。150年近い歴史を誇る老舗企業として、しょう油をはじめ、地域で獲れる橙(だいだい)を用いたぽん酢などを開発、製造、販売している。地域経済は衰退危機にあるものの、商工会と連携し地域外への販売やネット通販に取り組み、販路拡大に努めている。その基盤となるのがキャッシュレス決済だ。「地方は現金決済しかない」という思い込みを打破し、クレジットカード決済システムを導入し、顧客層の開拓を進めている。

 当社がある津島町岩松の一帯は、江戸時代には町の脇を流れる岩松川を港として、物資の集積地として栄えました。また、造り酒屋やしょう油の醸造などが盛んに行われたことから、昭和の終戦まで商店が多数軒を連ねて繁栄していました。
  当社は、明治の初期からしょう油などの醸造業を手掛けてきました。江戸時代には、肥料の製造や特産物だった櫨(はぜ)を用いた和ろうそくの製造を行っていたと聞いており、時代の流れを踏まえてさまざまな商売を展開してきました。
 現在、主力製品のしょう油については、刺身しょう油、かつお味だししょう油、ぽん酢等、種類の充実を図る一方、販路の開拓を進めています。地域の展示会や地元の空港や海の駅などでも販売し、遠くは大阪の百貨店の催事に出店しています。こうした活動を通じ、自社商品を拡販するとともに、津島町の特産品や魅力を広く知っていただくことが当社の使命と考えています。

【課題】地域経済が衰退していく中で新たな販路の拡大が急務

代表取締役 西﨑 徹 氏
代表取締役 西﨑 徹 氏

 販路の拡大を進めていく上で、キャッシュレス決済の取り組みが当社の課題の一つといえます。都市部においてはすでに広く普及しており、今さらと思われるでしょう。しかし、地方では人口減少と高齢化が進行する中で、今なお現金決済が根強く残っています。そのため、津島町岩松だけの商いでよければ、あえてキャッシュレス決済を導入する必要はないのですが、地域限定ではビジネスが成立しなくなりつつある今、活路を開くためにも新たな取り組みが欠かせません。また、展示会、空港、海の駅、百貨店催事等で商品を販売する上でキャッシュレス決済が必須となっています。
 私が津島町商工会の会長を務めていることから、商工会の先頭を切ってキャッシュレス決済に取り組むことで、町内全体の活性化に役立ちたいという強い思いもありました。しかしながら、家族経営の事業所としてはどこから手をつけてよいかわからず困っていました。

【導入】商売の実情に合ったキャッシュレス決済の手段を選ぶことが大切

何とかキャッシュレス決済の道筋をつけたいと考え、地元の津島町商工会の経営指導員に相談を持ちかけました。従来、商工会の活動を通じて密接な関係を築いていたことから、ICT(情報通信技術)に不慣れな者でも端末操作に慣れることができるのか、また地域でキャッシュレス決済の需要がどれほどあるのか、など相談を持ちかけたのです。
そして、手始めに導入したのが、個人商店でも手軽に導入可能なクレジットカード決済システムの「Square(スクエア)」です。Squareリーダーと呼ばれる端末をスマートフォンに接続することで、スマートフォン上から操作して商品代金の決済ができるため、導入しやすいといえます。
しかし、Squareは手軽に導入できて便利な反面、使い慣れていないと決済の操作を実感できないという利用者側の課題がありました。

そこで、併行して導入を進めたのが、次世代型ハイブリッド決済ターミナル「VEGA3000Touch」です。導入に際しては、商工会の理事会に信販会社の担当者を招いて全理事に紹介するとともに、商工会の経営指導員からキャッシュレス決済におけるクレジットカードおよび電子マネー決済についてのメリットとデメリット、さらに商圏における需要を詳しくヒヤリングして、導入効果を検証しました。

【効果】「地方は現金決済」という思い込みを打破して顧客を獲得

「VEGA3000」によるクレジットカード決済では、お客様のクレジットカードを差し込み、購入金額入力、暗証番号を入力してもらうだけで操作が完了します。端末の操作に不慣れな人でも、端末のボタンを実際に操作するため決済をしたという実感があり、決済完了後にレシートが出てくるので安心できます。
これまで当社の小売部門は現金決済に限定していましたが、それは「地方ではキャッシュレス決済を希望する人はいない」という思い込みによるものでした。実際は「クレジットカード決済をしたい」という要望が増えつつあるにもかかわらず、クレジットカード決済を導入していなかったため、それが可能な大型店などにお客様が流れ、販売機会を失っていた面があります。
その点、SquareやVEGA3000Touchを導入し、多様な決済方法に対応していくことで、「これまで当店で購入されなかったお客様を惹きつけられるかもしれない」という意識が高まっています。実際、店頭に利用可能なクレジットカードのステッカーを掲示することで、クレジットカード決済についての問い合わせやクレジットカードで決済するお客様が徐々に増え始めています。

【展望】決済手段の多様化で販路拡大と地域振興を図っていく

当社が所在する地域では、交通系電子マネーが使用できる交通機関がないため、交通系電子マネーの利用者はほとんどいないと思われます。しかしながら、それも販売する側の思い込みかもしれません。今後は需要を見定めながら、交通系電子マネーの対応を検討していきます。また、津島町では、津島町商工会の支援を受けて、インターネット上の「津島ネット市場」(https://tushima.ocnk.net)で特産品の販売を行っています。ここでは、町を挙げて周辺の海や山でとれた新鮮な食材や加工品の提供に努めています。今後、キャッシュレス決済への対応を強化する一方、ネット販売にも注力していくことで販路の拡大、そして地域の振興をめざしていきたいと考えています。
 津島町岩松は2019年、大きなチャンスに巡りあいました。米国のワールド・モニュメント財団より「岩松歴史的町並み」の価値が評価され、2020年版の「ワールド・モニュメント・ウォッチ・文化遺産リスト」の一つに選定されたのです。この機会を活かして、地域の情報発信に努めるとともに、インバウンド(訪日旅行)の需要獲得に向けた取り組みも検討したいと思います。

社名:有限会社西﨑本店
主な事業:しょう油、刺身しょう油、かつお味だししょう油、ぽん酢、みりん風味、麦みそなどの醸造業。ほかに、あおさ、つくだ煮、青のりなどの製造、販売
所在地:愛媛県宇和島市津島町岩松815番地
従業員数:1名
設立:1950(昭和25)年
創業:1871(明治4)年

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