名古屋市の中心街にある本社の一帯は、古来「瓦町」と呼ばれてきました。一説では、江戸時代の初期に徳川家康が名古屋城を建てた際、瓦職人を集めたことに由来すると伝えられています。この地で1902(明治35)年に、初代の利助が屋根葺き職人として創業したのが当社の原点です。
代々にわたり当社が堅持してきた理念の一つは、職人の育成と技術の継承です。そのために約30名の職人を社員として雇用しているのに加えて、専属職人を百数十名ほど育成しています。
現在、当社は屋根の外装事業をはじめ、社寺の営繕、歴史建造物などのリフォーム、さらにはデザインガーデニングなど、多岐にわたる事業を展開しています。屋根の外装については、伝統的な瓦屋根にとどまらず、輸入瓦やカラーベスト、ガルバリウム鋼板など、時代のニーズに応える材質および工法に取り組み、時代の先を見すえてさらなる飛躍をめざしているところです。また、瓦の需要拡大に向けては、寺社仏閣を中心とした街の景観を提案していくことで、街づくりという広い観点からの事業展開を図っています。
【課題】過去も現代も人と人との結びつきがビジネスの基本
建築の世界は、人と人との結びつきが重要です。当社の1世紀以上の歴史を見ても、お得意様をはじめとして、国内外の仕入れ先様、協力会社様、そして社員など、さまざまな人とのご縁があったからこそ、今日まで事業を継続できたといえます。
これからの100年においても、人との結びつきが変わらず重要であるのは言うまでもありません。特に、時代の変化に対応した新事業の開拓においては、従来の人的ネットワークを超えたご縁がますます大切といえます。
しかし従来、人の結びつきは職人や営業担当の一人ひとりが培ってきたもので、名刺にしても交換した個人が管理するという習慣が根付いていました。これでは会社全体として名刺情報を共有することが難しい上、社員が退職すると情報を失ってしまいかねないという課題がありました。
また、名刺情報を管理するため、一部はデータベースへの入力を行っていたものの、その手間がかかる上、内容の更新が容易ではないなどさまざまな課題があり、解決方法を模索していました。
【導入】「名刺情報は会社の資産」を徹底し、情報の共有化を図る
課題の解決に向けて、名刺管理システムの「Eight(エイト)」を全社レベルで導入しているところです。従来、このシステムを個人単位で活用して重宝していたところ、企業向けの「Eightプレミアム」のサービス(※)が始まったことから、全社での取り組みを約1年前から開始しました。
当初は社員がだれでも利用できるスキャナーを設置し、名刺の読み込みを行っていました。併せて、入力代行サービスを利用して、数千枚とたまっていた名刺の入力と共有化を図ってきました。そして現在では、名刺を交換してすぐにスマートフォンのカメラで読み込む取り組みを進めています。
当初はこの読み込み作業に抵抗を感じる社員がいたものの、実際試してみると「意外に簡単」ということで、着実に浸透しつつあるといえます。今後、「名刺情報は会社の資産」という意識をさらに高め、情報の共有化を進めていく考えです。
(※)「企業向けの「Eightプレミアム」のサービス」は現在は「企業向けのサービス「Eight Team」」と名称を変更しております。
【効果】名刺情報の共有によって、新たな人脈の開拓を効果的に展開
冒頭、「建築の世界は人と人との結びつきが重要」と申しましたが、名刺管理システムの活用を通じて、まさにこのメリットを実感しています。特に、寺社仏閣の案件では住職や神主の方々に加えて檀家の皆様との関係が重要です。
その点、名刺情報の共有によって思わぬところから結びつきを発見することができ、営業面で成果を上げています。また、外回りの総合専門商社として事業の幅を広げている中でも、従来とは異なる人脈を開拓していく上で、名刺情報の共有が威力を発揮しているのです。
意外なメリットは、名刺管理システムとスマートフォンの電話帳のデータが連携できることから、かかってきた電話の相手が自動的に素早くわかり、安心して応答できる点です。加えて、名刺情報の更新も重宝しています。相手方の職責が変わったり、場合によっては転職したりといった場合、更新情報を活用して営業活動に活かすことができます。今後は個人単位で埋没していた名刺情報の共有化を促進することで、事業の拡大に役立てていく考えです。
【展望】建築の伝統の堅持と、ICTの活用を通じた事業の両立を図る
建築業はICTの活用が遅れている業界の一つかと思います。その中で、当社はパソコンのOS(基本ソフト)としてWindowsが登場した頃から、基幹システムを自前で構築するなど、業務でICTを活用してきました。名刺管理システムの積極的な活用もこうした企業文化が背景にあります。
営業面における名刺管理システムの活用に加えて、当社が注力しているのは業務の効率化、省力化です。たとえば、瓦製品の販売では仕入れ伝票から請求書、出荷伝票などさまざまな伝票を作成する必要があります。これまではこれらの作業を本社内の担当者がいちいち手入力で行っていました。これに対して、「SynchRoid(シンクロイド)」というRPA(ロボットによる業務の自動化)を導入することで、手入力の大半を省くことができるようになっています。
一方、建築現場での業務の効率化、省力化も大きな課題です。当社では、社員一人が10か所の現場を担当することがあり、報告書などの作成が大きな手間となっていました。そこで、現場の写真をスマートフォンのカメラで撮影して、その場で報告書を作成し、PDF(電子文書)ファイルで送信できる仕組みづくりを進めています。これによって、社員は報告書作成のためだけに本社に戻る必要がなくなります。
今後も、外回りの総合専門商社として建築の伝統を堅持する一方、ICTの積極的な活用を通じて時代の変化に対応した新たな事業展開を図っていきます。
社名:株式会社坪井利三郎商店
HP:https://risaburo.com/
主な事業:瓦をはじめとする屋根外装全般。エネルギー事業。宮大工を含めた大工、瓦葺き、左官等の育成。デザイン外構事業。
所在地:愛知県名古屋市中区栄5-22-7
従業員数:80名(準社員含む200名)
創業:1902(明治35)年