弊社は1815年創業の江戸時代から続く会社です。地元のお祭りや神社仏閣などで使用されることが多いのですが、近年では飲食店やイベント等、若者が集う場所でも使用される機会が増えてきました。ハリウッド映画で使用された経験もあります。このように、販売の傾向が変化してきていることの背景には、若者に馴染みのなかった提灯をSNS上で写真や動画等で分かりやすく紹介し、全国に発信したプロモーションの取り組みが大きく貢献していると思います。今では幅広い年代に認知・購入していただけるようになりました。日本古来の伝統を活かしながらも、ITツールを活用して情報発信することで、提灯の新たな可能性を切り開きます。
【課題】新規マーケットの開拓力が育たない伝統産業
私は4年前に入社したのですが、私の実家が経営する店ということもあり、常に会社の状況は把握していました。職人の世界はもともと作って終わりというスタイルです。そのため、作った後に製品が売れ残ってしまうと売り上げが無くなり、職人たちが生活できなくなる事態を招きます。また、もともとはお祭りや神社仏閣など使用場面が限定的であったため、販路拡大という点も課題でした。今のお客様と長く付き合う方法や評判を上げる方法については試行錯誤してきたのですが、新規開拓は全く行なってきませんでした。そのため、既存顧客の減少が、会社の売り上げに直結します。しかし、会社がその現状に対して危機感を感じていないという課題も浮上しました。顧客が減少していく現実をただ受け入れるだけという状態です。焦ることもなく、何か打開策を考え課題を解決しようとチャレンジすることもしていませんでした。
【導入】ホームページとSNSの導入で顧客創出をねらう
新規顧客の開拓は会社の売り上げアップのために必要不可欠だと考えていました。そこでまず当社の存在を多くの方に知ってもらうために、私が入社した4年前から、ホームページとSNSを使った情報発信を始めました。作業の効率化を図るために、写真やビジュアル部分は私が担当し、文章部分は執筆の得意なスタッフにお願いして、役割分担も明確にさせました。ホームページを導入したきっかけは、私がサラリーマン時代に多少扱った経験があったからです。専門的に携わっていたわけではありませんが、難しいと思うことはありませんでした。あえて難しさをあげるのであれば、提灯という伝統工芸とホームページやSNSというITの掛け合わせ方について、その表現の手法と見せ方には、工夫の余地があると感じていました。しかしこれについても、少しずつ知識を蓄えていくことで解消されました。
【効果】20代から30代の若者が提灯を手にするようになった
ホームページやSNSを使うようになり、圧倒的に20代~30代のお客様が増えました。特に評判が良かったのは「Instagram」です。私たちも写真を使って発信すると情報が伝わりやすいことがわかり、投稿の仕方にもこだわりました。まず写真と動画で提灯の使い方を解説することで、全体の流れは動画で、詳細な部分は写真で確認していただくなどの工夫を行いました。このように、投稿を見ていただいている方に、より提灯の使い方を理解いただけるように工夫したのです。すると、興味を持っていただいた方から段々と購入に関する問い合わせをいただけるようになりました。
これまでは神社や仏閣からの依頼がほとんどでしたが、ホームページやSNSでプロモーションをしてからは、飲食店等、今まで全く取引のなかったお店からも注文がくるようになったのは大きな収穫です。ご依頼いただいた中には、お店のディスプレイとして提灯を飾ってくださったお客様もいます。そういった使い方は私たちが考えつかなかった用途であり、こうした新しい使い方をお客様がSNSで発信し、そこから新しいお客様が増え、そのお客様がまた新しい使い方を編み出すなどして輪が広がりました。イベント会社やハリウッドから注文をいただくこともあり、今までと違う市場でのニーズも少しずつ成長しています。
また、写真を投稿したことで、提灯職人にも注目が集まるようになりました。テレビや雑誌で取り上げられたこともあります。それがさらなる宣伝効果につながり、多くの方に提灯を認知していただくことができました。私たちの提灯に対する固定観念は次第になくなり、代わりに提灯の可能性が見えてきました。それらはホームページやSNSを導入してはじめてわかったことです。
【展望】ITを活用し商品をリブランディングする
今の時代、生活のサイクルの一部のようにスマートフォンに触れる機会が多いと思います。それだけ、スマートフォンから情報を得る機会が多いということでもあります。実際、私たちの商品もSNS等を通じて多くの方の目に留まるようになりました。この勢いに乗ってオンライン販売もスタートさせようと考えています。伝統工芸品は一見さんにとっては購入のハードルが高い部分もあると思います。そうではなく、もう少しポップで身近な商品として受け止めていただきたいのが本音です。20代や30代に認知されるようになれば、その理想に少し近づけると思いますし、最終的には伝統工芸品が日用品のように手に取りやすくなることが目標です。また、ホームページやSNSのやり取りを通して、海外の方の日本伝統工芸品に対しての興味喚起も軌道に乗り始めています。ホームページや「Instagram」を使えば海外とのやり取りもできるため、今後はグローバルな展開も視野に入れています。