第3回 ステップ2 現状の課題の見える化 ~旧版サポートブックをいま紐解く
- 2022年5月13日
- 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 吉田明弘
- IT導入支援
- サポートブック

サポートブックこと『支援者のためのビジネス用アプリ導入支援サポートブック』をご存知でしょうか。支援者の方々が、事業者のIT導入支援を実施するにあたり、その進め方の基本的な内容やポイントをおさえた手引書として、IT導入の支援現場でご活用いただくことを目的として作成した冊子です。
連載第3回では、課題を明確にするため事業者の業務の現状を把握する、ステップ2「現状の課題の見える化」について、サポートブックの内容を紹介します。
ビジネス用アプリ導入支援の6ステップ

ステップ2「現状の課題の見える化」

その事業は今どのように成り立っているか
事業や業務を変化させるに当たっては、現状の業務のどこがどう変わることで、どれだけのインパクトが生じるのかを検討することと思います。そのときに、現状の業務を、できる限り丁寧に洗い出していくことで、期待できる変化を見積もることができます。そして、ビジネス用アプリの活用においては、現場業務が明確であるほどに、どのような機能が必要になるかということも想定できるようになります。
そのため、ステップ2では、ステップ1で目処をつけたお困りごとに関連した業務の詳細と業務量を把握し、その業務に関する課題とともに整理します。
業務の洗い出し
旧版サポートブックでは、現場業務についてヒアリングのためのツールとして「現状確認シート」を提示しています。このシートには「簡易版」と「詳細版」がありますので、まず以下の「簡易版」から紹介します。

簡易版の利用方法は旧版サポートブックで以下のように説明されています。
利用にあたっては、以下の手順に沿って【図表2-4】のとおり作成します。
(1)お困りごとに関連のある業務を伺い、表の「業務名」欄に記載する。
(2)「現状の業務」⇒「業務内容の詳細」欄に、現状の業務の内容を記載する。
(3)「現状の業務」⇒「業務の量」欄に、現状の業務の量(負荷の目安)を記載する。
(4)「課題」⇒「困っていること」欄に、現場業務において負担になっていることを記載する。
(P.9)

この記載例では書かれていませんが、これまでに課題が解消されずにいる原因や背景もヒアリングして記載しておけると、今後の課題解決の参考になります。
こうしてまとめられた内容は、これから具体的な課題解決の手法を検討する際に有用です。ビジネス用アプリの導入を軸に課題解決を進めていく場合には、当たり前ですが、現状確認シートに記載された業務の内容に対応し、それを改善する機能を持つビジネス用アプリを選定していきます。また、ビジネス用アプリに合わせて今の業務の進め方をガラッと変えてしまう場合でも、どこがどう変わるのか把握するために現状確認は大切です。
あるべき姿との差分
現状確認シートの簡易版では、現状だけを見て課題を見える化していました。しかし、目の前のお困りごとの改善だけにとらわれず、あるべき姿を目指して、より大きな変化を生み出していきたい事業者も多くいると思います。
そこで、旧版サポートブックでは現状確認シート(詳細版)を提供しており、この詳細版では、課題解決を「あるべき業務の状態と現状との差の解消」と定義しています。

詳細版の利用方法は旧版サポートブックで以下のように説明されています。
本表を利用して業務の状況を整理することにより、「お困りごとの解決」に留まらない、「あるべき業務の状態」に向けたビジネス用アプリ導入を考えることができ、実現したい「あるべき業務の状態」の内容及びその業務に求められるビジネス用アプリの機能が明確になります。
利用の手順は以下のとおりです。
(1)お困りごとに関連のある業務を伺い、表の「業務名」欄に記載する。
(2)「現状の業務」⇒「業務内容の詳細」欄に、現状の業務の内容を記載する。
(3)「現状の業務」⇒「業務の量」欄に、現状の業務の量(負荷の目安)を記載する。
(4)「あるべき業務の状態」⇒「業務内容の詳細」欄に、理想とする業務の内容を記載する。
(5)「あるべき業務の状態」⇒「業務の量」欄に、理想とする業務量を記載する。
(6)「課題」⇒「現状とあるべき業務の状態の差」欄に、現場業務において負担になっていること、負担になっていることを記載する。
(P.12)

ステップ1で事業者のビジョン、つまり事業のあるべき姿を明確にできていれば、業務のあるべき状態もそのビジョンに従って考えられます。事業者と一緒に、各業務がどうあればビジョンの実現に近づくのかという話をしながら、あるべき業務の状態を記載していきましょう。
このとき、世の中で広く使われているビジネス用アプリが、どのような業務の進め方を想定して作られているか、という情報が役に立つこともあります。よく作られたビジネス用アプリは、さまざまな現場で生産性を向上するためのポイントを押さえて機能が構成されており、ホームページや説明資料にある機能説明を読み解くことで、優れた業務の進め方を逆に知ることができます。自社に合うかどうかは十分に吟味する必要がありますが、代表的なビジネス用アプリの機能や、当該分野のビジネス用アプリが一般的に持っている機能について、ぜひ確認してみてください。
「ここからアプリ」では、アプリ種別ごとに一般的にできることを簡単な動画や特集記事で説明しています。「アプリ選択ガイド」からアプリ種別でコンテンツを検索してみましょう。
流れに沿って図示する
業務を見える化するにあたっては、業務フロー図(業務流れ図)の作成も有効な方法とされています。特にIT導入においては、導入前と導入後の業務の変化を明確にするためによく使われています。
以下の図は、飲食店における業務の一部をイメージした業務フローを表しています。

一般的な業務フロー図では、まず業務にかかわる登場人物(もしくはシステム)を洗い出して、それぞれの動きを時系列に表現します。業務の順序やタイミングを明確にすることで、その業務や行動のために必要なモノゴト(前準備や情報など)に気づきやすくなります。
例えば上図の例では、お客さんが注文するためにはメニューが手元にないといけないので、まずホール担当はお客さんにメニューを渡さなければいけません。そして、おしぼりと水も用意するので、スムーズに行動できるように、おしぼり、水、メニューは近くに置いてあると良さそうです。
また、ビジネス用アプリ導入前後をそれぞれ表す業務フロー図を作成すると、変化する業務が分かりやすく表現されます。例えば、モバイルオーダーアプリを導入したときの業務フロー図を例として描いてみると、以下のようになり、上図からホール担当の業務が大きく削減されることが分かります。
上図では、ホール担当とお客さんとの接点が「席に案内」と「メニューを運ぶ」「注文」の3回あったのが、下図では「席に案内」の1回になりました。そのため、「おしぼりと水を用意」のタイミングが前倒しされていることも違いとして分かります(水をセルフサービスにするケースなどもあると思います)。

簡易な業務流れ図
ただし、上で紹介したような細かい業務フロー図を作成するのは、なかなか大変です。そのため、旧版サポートブックでは、簡単な「業務流れ図」のテンプレートを提供しています。
本表では、自社で行う業務を、(1)お客様との直接的な接点になる業務、(2)お客様に商品サービスを届けるための業務、(3)事業そのものを支えるための業務、に分類し、(1)(2)については、業務の流れ順に記載します。また、外部協力者を記載することで、その業務が自社内で完結する業務かそうではないかを把握することができます。
その後、それぞれの業務の「負担感」や「業務にかかる時間」を数値で表していきます。
(P.13)

いきなり業務流れ図に記載していくよりも、まずはステップ1で見えてきた「今手をつけるべきお困りごと」に関連する業務を列挙してみると良いでしょう。あらゆる業務を列挙しようとするよりも、「今手をつけるべきお困りごと」に関連する業務にフォーカスする方が改善の検討がしやすい図になります。

ある程度、業務が列挙できてから、業務流れ図の3つのカテゴリーに分類して、時系列に並べてみます。旧版サポートブックにも業務流れ図記載例が掲載されていますが、少し記載が荒いので分かりづらいかも知れません。以下の図のように、順序を意識しながら業務を記載していくと、足りないところに気づきやすくなります。図でも最初に列挙した業務の前後にいくらか気づいた業務を追記しています。

楕円の中には負担感を数値で記載していますが、数字を何にするかで悩むのは本筋ではありません。ここでは、10、20、50、100の4通りで記載することで、細かな違いを意識せずに大雑把に負担感を表しています。この負担感の大きなところに対応できると、改善の効果を実感しやすくなります。
まとめ
このように、現状の業務のどこがどう変わることで、どれだけのインパクトが生じるのかを検討するにあたっては、現状確認シートや業務流れ図といったツールが活用できます。これらのツールを紹介している旧版サポートブックも目を通してみてください。
また、改善したい業務に関係するアプリがどのような機能を持っているかを参考にすることで、事業や業務のあるべき姿をイメージしやすくなります。「ここからアプリ」のコンテンツや、掲載アプリの詳細ページからリンクしているアプリ公式HPなども、是非参照してください。
次回からは、よりIT導入に特化したステップについて説明していきます。
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