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特集

【インタビュー】株式会社ノークリサーチ 伊嶋 代表取締役社長

  • 2020年2月25日
  • 株式会社ノークリサーチ 伊嶋謙二
  • インタビュー
株式会社ノークリサーチ伊嶋 代表取締役社長

株式会社ノークリサーチ伊嶋 代表取締役社長に「ここからアプリ」への期待と、伊嶋様が行うIT支援の取組み状況について、お聞きしました。


1956年生まれ。1982年、株式会社矢野経済研究所入社。とくに中堅・中小企業市場とミッドレンジコンピュータ市場に関するリサーチおよび分析、ITユーザの実態を的確につかむアナリスト/コンサルタントとして活躍。1998年に独立し、ノーク・リサーチ社を設立。IT市場に特化したリサーチ、コンサルティングを展開すると同時に、業界各誌への執筆活動も積極的に実施、また自治体と連携しIT導入による地域創生等にも尽力されている。

ここからアプリについて

 私が秋田県とともに行った調査で、一番特徴的だった結果として「ICT活用に関するいろんな支援制度が浸透していないということ。そして支援施策としては、導入助成資金や情報提供等を求めている。」ということでした。具体的には、ICT活用に関する支援制度について「知っている」と答えた方が、20.1%にとどまり、「知っている」のうち「活用したことがない」と答えた方は、78.3%となっています。

 ハードが普及していない、ITリテラシーが低いといった問題にとどまるのではなく、施策が知られていない、届いていないというところが大きな課題であることは、支援機関の皆様にも意識していただきたいと考えています。

 そして、こうした実情は、中小機構の支援施策、例えば、ITプラットフォーム「ここからアプリ」についても同様だと考えています。まだまだ、支援が必要な事業者に対する制度のさらなる周知は進んでいないため、「ここからアプリ」にはこれまで以上に、「知っていただく」、ということを進めていただきたいと考えています。
 その上で、実は同じ調査結果で、ITツールを導入した企業の方々が、ITのメリットを感じているかという点も聞いていますが、有用性を感じている人が非常に少ないこともわかっています。この調査の中では、メールやオフィスソフトもITツールに含まれていたので、恐らく、こうしたツールを導入して終わってしまっている方も多いのではないかと考えています。

 導入した後、導入したままで終わらないようにするためには、身近な支援機関やITベンダーの方に相談するといったことが必要です。調査結果からは、支援機関の皆さんがまだ、こうした層を支援できていない傾向というのが見て取れるわけです。こうした点も今後、中小機構にフォローをしていっていただきたいと考えています。

支援機関について

|導入支援が行き届いていないということは、支援機関の職員が少ないということでしょうか。

 いえ、人数というよりは、支援の際にITのアドバイスができる方が少ないということだと思います。ITベンダー等へのつなぎを行うことができるだけでも、結果は変わってくるかとは思いますが、こういった対応がなかなかできていないということではないでしょうか。秋田での調査ではアンケートだけでなく面接調査も行っているのですが、その中では、「同業の集まり」での情報収集というのも重要であるという回答をいただいております。例えば、秋田県が主体となって進めている産官学のIT推進をするための、「秋田デジタルイノベーション推進コンソーシアム」があり、その中に業種部会があります。

 業種・業態が近い企業が導入したツールであれば自社でも導入できると感じられる方は多いでしょうし、業種部会での情報共有は、中小企業のIT利活用促進にあたって有効ではないかと考えています。秋田県以外にも県や商工会議所でも、こうした取り組みを進んで行っているところはあり、そういったところに行けば、業種部会などがあるので、こうした動きが広まっていくことが重要なのではないでしょうか。また、単発で終わるのではなく、年間を通して行って地域に根差していくことも重要だと思います。

お取り組み状況

|貴重なご意見をありがとうございます。伊嶋先生の現在のお取り組みをご紹介ください。

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 大きく三つの柱での活動をしています。まず、調査会社としての取り組み、もう一つは地域創生に関する取り組み、最後に、地域に根差した活動です。

 まず、調査ですが、私の経営するノークリサーチでは、20年間一貫してITの活用状況に関する調査を行っています。クライアントは官庁やITベンダーになり、戦略立案・リサーチコンサルを行っています。具体的な調査については、先ほどお示ししたような内容です。

 地域創生に係る取り組みについては、一般社団法人創生する未来で行っています。創生する未来では、地方の中小企業の実態などを見るため、いろいろな施策イベントを行ったり、我々が持っているWebメディア「創生する未来」で公開をしています。

 最後に、地域に根差した事業として、秋田でITベンダーを立上げて、地域の企業、地域自治体のIT部門へのアドバイス等を行っています。

|20年間、ITの活用状況をみられて感じられる変化等はありますか。

 20年前はインターネット黎明期で企業のHPを作ったことがニュースになるような時代で、新聞に毎日、新しくできたホームページのURLが載るような時代でした。当時業務用システムはオフコンで、バックヤード業務はIT化されていても、現場は紙と電卓がメインだったと記憶しています。その時から今に至るまでに加速度的にパソコンが普及して、インターネットの回線速度も向上しました。技術的にはこの20年間で圧倒的に進みましたが、経営に役立つITというのは20年たっても当時とあまり変わっていないと感じています。

 20年前と比べて、紙が表計算ソフトなどに置き換わっていますが、人間がやらなければならない仕事は依然として多く、現場の方の入力の手間は減っていないのが実情です。こうしたこともあり、結果としてRPAが注目されているのではないかと考えています。

 PCが普及したように、「ここからアプリ」に掲載されるようなアプリケーションについては、今後どんどん普及が進んでいくと思います。それは、中小企業が意識的に導入をしていくといった流れではなく、実績やリテラシー、スキル関係なく、意図せず、気が付けばクラウドサービスが使われるようになっている、といった状況の変化が起こるからです。今はまだ、クラウドサービスを導入することに負担を感じられる方もいらっしゃると思いますが、「ここからアプリ」がターゲットにしているような方々は、5年後にはアプリということを意識せずともクラウドサービスを利用をしているといった状況になっているでしょう。

|現在の中小企業のIT利活用に関して感じられるところはありますか。

 生産性が低い、という話が良くされますが、それはバックエンドの業務系の話か、フロント系つまり現場の話かという点を意識する必要があると思います。今のIT利活用は、コアではない業務の自動化・合理化、といった業務系の話がメインになっていると感じています。客観的に見ても日本はOAの流れからIT化が語られることが多いかと思います。

 しかし、実際にITツールを導入する際、あるいは導入支援をする際には、経営者にはITが売上にどう結び付くのか、という観点で考えていただく必要があります。産業構造上、アメリカではユーザー部門には専任のSEがいることが多いが、日本はユーザー企業にSEがおらず、IT・ベンダーにSEがいます。こうした構造は変えるのは容易ではないので、外部の力をうまく利用する必要があります。

 そういった、外部の力を借りるためにも、フロントの業務にITを活用した事例を参考にする必要があり、こういった事例は散在してあることは確かですが、やはりこういった事例の情報も中小企業には届いていないです。地域のIT支援者、例えばコーディネーターなどが、経営に役立つ良い事例を息長く伝えていくことが重要かと思います。

ここからアプリへの期待

|ここからアプリへのご意見・ご期待はありますか。

 「ここからアプリ」でも業務効率化という観点だけではなく、攻めのIT活用といった観点での事例を取り上げていただきたいと考えています。業務効率化関係のITツールが多く載っているのが現状だと思いますが、例えば、「ここからアプリ」に掲載されていないアプリでも、顧客データの活用といったツール(事例)はあるかと思います。こうしたアプリケーションを活用した事例等はもっと多く掲載されてもいいのではないでしょうか。

 また、我々が今、議論しているのは、業務効率化の観点で語られることが多い、RPAを導入する際にも事務の活用ではなく、営業などの現場の方がされている作業に活用ができないかということです。今までもフロント業務で、情報を探し、優先順位をつけ、メールを送り、レスポンスをするといった仕事はあったはずで、こうした業務にRPAを活用することで、より多くの付加価値を生み出す、ITの導入がさらに進むと思います。

 IT導入単体で考えるのではなく、経営者の立場に立って物事を考えると、商品を売るために何をすべきか、といったことになっていくかと思います。あなたの会社は何をしたいんですか?といった視点に気づいていただけるような、事例などを紹介していくことも重要ではないでしょうか。

中小企業へのメッセージ

|ありがとうございます。最後に、中小企業・支援機関の皆様へのメッセージなどありましたらお願いできればと思います。

 一番のお伝えしたいことは、社長なり現場のトップが、「忙しすぎて考える余裕がない」、ということから次のステップへと進めていただきたいということです。自分ひとりで抱え込まず、誰かに相談していただきたい。そのためにも、だれが本当の相談者かを真剣に考えてほしい。日々の仕事が忙しすぎて全く余裕がないという会社が多いと思います。考える余裕があるようなところはうまく活用できているとも感じますが、とにかく考える余裕がない。経営者の皆様も明日の心配はあるかもしれないが、一回立ち止まって頼りになる人に向かってほしいと思います。相談する相手は、同業の先輩になるのかもしれない。

 また、ITツールを導入するにしても、ただ、ITツールを導入するだけでは、根本的な解決にならない。頼りになる支援機関を見つけられるよう、情報の感度を高く持っていいっていただければと思います。

 また、併せて、中小機構さんにも息長く情報を提供していっていただきたい。「ここからアプリ」のような取り組みは息長く続けることに意味があると思います。今後も、「ここからアプリ」の改善と継続した情報発信を期待しております。